生きていくのは大変だから、誰も傷つかない発信をしたい。『オズマガジン』編集長×「北欧、暮らしの道具店」店長対談 後編

書き手 編集スタッフ 馬居

写真 小倉亜沙子

生きていくのは大変だから、誰も傷つかない発信をしたい。『オズマガジン』編集長×「北欧、暮らしの道具店」店長対談 後編
「お付き合い」をテーマにした、『オズマガジン』(スターツ出版)古川誠編集長と「北欧、暮らしの道具店」店長佐藤の同い年対談後編です。

編集部の方々とのお付き合いについてお話しながら、お互いにちょっと敏感すぎる「キャッチマン」であるという共通項を見つけた前編に続きまして、後編は、両者の「お客様」である読者の方々と、クライアントや取引相手などの外部の方とのお付き合いについてお話いたしました。

生きているだけで誰かを傷つけているということが前提

ーーーでは、次は、お客様とのお付き合いというテーマでお話していただきたいと思います。お二人の場合は、「読者」の方々になると思いますが、古川さんは、どんなお付き合いを心がけていらっしゃいますか。

古川
まず、前提として…僕は、普通に暮らしていても、いつも人を傷つけているのではないか?と考えています。

個人として生きていてもそうなのに、編集長なんて看板を背負って、何かを作り続けて、発信しているということは、絶対に誰かを傷つけている可能性があると思っています。

ですから、自分たちの媒体でできるだけ人を傷つけないようにということは、考えていますね。世の中の人はみんな、それぞれ違う人生を歩んでいるから、もしかして知らないところで『オズマガジン』が誰かを傷つけてしまうこともきっとあると思うんです。

佐藤
傷つけないためには、具体的に、どんなことを気をつけてらっしゃるのですか。

古川
例えば何か断定することは嫌なので、言い切りをなるべくしないようにしています。あと、びっくりマーク(!)を使ったり、煽ったりするような表現も避けるようにしています。時々はもちろん使いますけど、乱発はしないようするというか。

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とにかく、弱い立場、弱い人達にとっても、救いのようなものになれたらと思っています。

『オズマガジン』に集まっているのは、週末を楽しく過ごすための情報です。だからこそそれによって誰かが傷つくことがないかということを、一番周到にチェックするようにしています。

それでも、気付かないところで人を傷つけていることはあるんですよね。難しいんです。ただ、そのことを前提条件にするかしないかの差は大きいかなと考えています。

世の中は大変なことだらけ。だから僕らが存在する

佐藤
すごくわかります。私たちも、読者の方が自分を否定してしまうような書き方で発信しないようにしよう、ということはいつも思っていて。

もともと、「北欧、暮らしの道具店」のコンセプトは「フィットする暮らし、つくろう。」なのですが、それはつまり、「他の誰か」のではなく、「自分」のものさしで満足できる暮らしをつくりましょう、ということを言いたいんですね。でも、それって本当はとても勇気がいることで、何らかの自己否定感があると、そういう選択はできないと思います。

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いかに読者の方々に、うちのコンテンツを見てもらった時に、自分を肯定できるエッセンスを持って帰ってもらえるかということだと思っています。

ですから、傷つけないということと、断定しないということは、とても共感できます。まあ、うちは結構びっくりマークを使ってしまうので、古川さんのお話を聞いて気をつけようとは思ったのですが(笑)

古川
つけてもいいと思います(笑)大丈夫です。

佐藤
表現の仕方は違うところもあるとは思いますが、すごく同じことに気を使っているのかもしれないと思いました。

実は、以前、『オズマガジン』の取材で弊社のオフィスに来ていただいた時に、古川さんと撮った写真を私のInstagramに投稿したんですね。そうしたら、読者の方から、私と古川さんが一緒に写っていることがとても嬉しいというメールをいただいたんです。

同じことを目指してらっしゃるお二人な気がするって。

古川
それ、僕も嬉しいです。

佐藤
どちらの媒体もすごく好きだから、好きなお店の店長さんと好きな雑誌の編集長さんが一緒に写っていて嬉しかったって。

きっと、その「同じようなことを目指している」というのが、この傷つけないというところもひとつなのかなと。

巻頭の古川さんの一言も、毎回色々なことをおっしゃってると思うのですが、私にはいつもひとつのメッセージにしか聞こえなくて。

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それは、「この世の中で生きていくのは大変だし、綺麗事ではいかないけど、だからこそ、僕たちみたいな雑誌もできることがあるんだ」という。

古川
まさに、それしか言っていないです。

佐藤
私も、「北欧、暮らしの道具店」で何をやっていても、やりたいことは同じことで。全く同じメッセージを伝えたいんですよね。

その共通項を読者の方が受け取ってくださったのかなと思いました。

古川
嬉しいですね。

葛藤や暗さを描くことで、腹落ちする明るさが表現できる

古川
僕ら『オズマガジン』が扱っているのは街の情報ですが、街を作っているのは人です。だから人の気配のする雑誌づくりは心がけています。だって、お店を出すのにその人はすごく借金をしたかもしれないじゃないですか。そのお店は、夢のカタチが叶わなかったものなのかもしれないじゃないですか。

そういう「人」が紆余曲折を経て作ったお店なのに、情報というのは良い部分やわかりやすい部分だけが表に出てしまいがちで。でも、本当は、みんな少なからず葛藤がある中で作ったお店なんですよね。

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そして、そこを訪れるわたし達も何らかの葛藤を抱えた人なわけで。だから街には多様性があって面白いんだと思います。

『オズマガジン』は、街の情報誌であって、便利に使われるということが一番嬉しいんです。でもその街というのは、傷ついているけど頑張っている人によって成り立っている、ということを前提条件に作ることで、便利で使ってみたら、他で得る情報とは違う腹落ちの仕方をしてくるのではないかなと考えています。

ですから、自分たちが、1回きちんと深くまで掘って、その上で、わかりやすい情報を紙面に落としていかないと、そういった精神性のようなものはで出てこないと思うので、そこは大切にしていますね。

佐藤
表面の明るさだけを伝えていては、深みは出てきませんよね。

うちも最近、写真のとり方を少し変えていこうかという話が出ていて。自分がだんだんと歳を重ねたせいもあるかもしれないんですけど、うちのサイトが「白!」「明る!」と思うようになってきたんですよ。

私は、常々、植物も太陽の光に向かってのびていくのだから、人間も暗いものよりは明るいものに吸い寄せられていくのではないか。だから、圧倒的に明るい世界観のサイトを作りたいと思ってきました。

古川
そうですね。明るいイメージですね。

佐藤
でも最近、光というものは影があってより輝くよなと思うようになってきて。つまり、実は影の表現についてもっと考えていかなくてはらならないのではないかと。

それで、スタッフたちに、「ここからのテーマは影だよ!」といってまわったんです。みんなは、「はぁ〜〜〜」っていってましたけど(笑)

でも、私もそうですけど、実際の人間て暗いところのほうが多いですよね。私自身、影があるものに惹かれたり、安心したり。明るいだけの映画を見ても癒やされなかったりして。

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ですから、どうにか影や闇の部分を健全な範囲で写真やコンテンツに足していって、見た人が「ただただ明るいサイトだな」とだけ思ってしまうことがないような表現を作ることができる次のステージに行きたいなと思っています。

古川
インターネットと紙でアプローチの仕方は違うと思いますが、どういう風に表現されていくのか興味深いです。でも、「北欧、暮らしの道具店」は、影というよりも静けさはもう出ていますよね。

佐藤
え、出ていますか?

古川
静けさというか、静かというか。主張の仕方に品があるというか。その世界観の中に影が入ったら、どうなるんでしょうね。佐藤さんの影という発言を受けた編集の方たちが、どう解釈して個性豊かにアウトプットしていくか、楽しみです。

佐藤
そうですね。みんながどう表現してくれるのかはとても楽しみです。

あと大切にしているのは、私たちは読者の方々と一緒だということで。

暮しの手帖の花森安治さんの「なかのひとりはわれにして」という言葉がすごく好きなんです。花森さんは、編集員の方に、暮しの手帖の読者の方のなかに自分もいると思って編集しろ、といつもおっしゃっていたようで。

私も、編集チームのみんなに、サイトで何かを言うときも、SNSで発信するときも、読者の方と自分が同じだということを、どう表現できるかということを考えてくださいと伝えています。

私たちも突っ張り棒のことで悩んでる、子育てで髪振り乱してる、毎晩ご飯をきちんと作れてなんかいないという現実を伝えることで、読者の方に、この人達の言うことは、とりわけすごいわけではないけれど、信じられるとか安心するなと思ってもらいたいんですよね。

古川
僕、佐藤さんのチームに入ったら、佐藤さんのいっていることを理解して、頑張れると思います。

僕はインターネットの能力もリテラシーもないからトンチンカンなことをすると思いますけど。でも、おっしゃってることはわかります。

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お礼の手紙に込める「一対一」のコミュニケーション

ーーーそれでは、最後は、取材相手の方ですとか、外部の方とのお付き合いについてお話をお聞かせください。

佐藤
このテーマを決めたきっかけになったのは、古川さんからいただいた手紙なんです。取材の後に送っていただいた。とても嬉しくて、ずっと自室に貼ってあったんですよ。

古川
わあ、嬉しいです。たしかに、手紙は結構書きますね。

『オズマガジン』は内部コンセプトに、「手紙のようなものづくりをしよう」と掲げていて。

雑誌というものは、何万冊買ってもらっているとしても、受け手からすると一対一のコミュニケーションのはずなんですよね。すべての読者の方が、私のために書かれた本だと思ってもらうためには、こちら側が「1人(イチ)」を意識して物を作らなくてはいけないと思うんです。

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手紙というものは、相手によって便箋も封筒も変えますし、言葉も変えますし。1人の人に手紙を書くように雑誌を作ろう、という意味でのコンセプトになっています。

それもあって、僕自身も、手紙を書くことで、そういったコミュニケーションを日常にし、リアリティを感じているといいますか。

読者の方からも手紙をいただくことがあるのですが、一回はお返事をするようにしています。重なっちゃう時はできないこともありますけど、極力、直筆でいただいた時は、直筆で返そうと思っています。

佐藤
すごい…!色々な取材を受けさせていただきましが、お手紙をいただいたのは初めてで。私なんて、メールを返すだけでも精一杯なのに、同じくお忙しい編集長さんで、直筆で、しかも男性でって。

古川
性格的には全然まめじゃないですけどね。あの時は、お忙しい時にお時間をいただきましたし、お礼の気持を込めて書いただけですけど。

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対談当日も、前号が完売したお礼に取引先の方に配っているというサブレをお土産に持ってきてくださいました。

無機質になりがちなメールには、役に立たない言葉を添えて

佐藤
実は、手紙だけではなくて。うちの広報スタッフが、取材前に古川さんからいただいたメールの文章の中に込められた気遣いにとても感動していて。メールはどんなことを心がけているのですか。

古川
要件以外のことを書くことですかね。

天気のことですとか、言葉を添えるといいますか。言葉って独り歩きするので。「了解です」とだけ書かれているメールに、あれ、この人怒ってるのかなと思うことありませんか。

佐藤
ありますあります。

古川
でもその人は、全くそんなことなかったと思うんですよね。でも、ただ「了解です」が人を傷つけることもあって。そういうことを考えると、自分のメールを読んだ時に、この人は忙しそうなのに、ちょっとゆるいなみたいなことを入れられるようにしたいなと思っていて。

一番よく書くのは、メールの最後に「今日もいい1日を」という言葉なんですよね。

『オズマガジン』は、その日寝る時に、『オズマガジン』を使ったことで、今日は「いい1日」だったなって思ってもらいたいというビジョンを掲げているので。

そんなの使い古された言葉ですし、社交辞令と捉えられるとは思いますけど、書くのは0.5秒くらいの話なので、それを習慣づけるようにはしていますね。

でも、メールについて褒められることなんてそんなにないですよ。

佐藤
広報スタッフはそのことに驚いていましたね。そんなメールをいただくことは少ないですし、私もできていませんし、うちの編集チームで、そんなことをしてねとお願いしたこともなかったですし。

古川
編集者って自分で何かを生み出せるわけではないじゃないですか。

取材対象者さんはもちろん、ライターさんに良い原稿を書いてもらって、カメラマンさんに良い写真を撮ってもらって、それを集めて本にすることが仕事なので。

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そう考えると、編集者は相手から良いところを引き出すことが仕事なわけで、とにかく相手がどう気持ちよく働けるかとか、どう力を発揮できるかにかかっていると思うんです。そういう意味で、編集者病みたいなものはあるかもしれないですね。

とにかく場を和やかにするというか。それが自分もやりやすいですし、その環境をいかに作り続けるかということは意識しているかもしれないですね。

佐藤
文章の羅列で、テンションを伝えるのは難しいですよね。お客様からクレームが来た時に文面だけみるとすごく怒られているように思って、慌ててお電話をおかけしたらすごく丁寧な方で、そんなに怒ってないですよ〜っておっしゃられたりして。

古川
そういうことありますよね。

佐藤
あと、外部の方と、初めてお会いする前にFacebookのメッセンジャーとかでやり取りすることも多いじゃないですか。私、そういう時に、びっくりマークを多用しちゃうんですよ。「よろしくお願いします」の後にびっくりマーク(!)をつけちゃったりとか。古川さんにはまた怒られちゃうかもしれないんですが。

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古川
怒りませんよ。よろしくお願いしますには僕もつけることありますから(笑)

佐藤
それで、どうして自分がびっくりマークをつけるのかなと思った時に、自分のキャラクターを事前にある程度知っておいてもらったほうが親切なんじゃないかという考えがあったりもしまして。

この人わりとチャキチャキしてそうだなと予想していただいた状態で会うほうが良い気がしているんですね。何か、これ、びっくりマークをつける以外に方法ありますかね。

古川
余分なこと一言つける作戦はありだと思いますよ。 そこで、佐藤さんの元気さを表現したらどうでしょうか。

佐藤
なるほど!

古川
意味のない、役に立たない言葉でいいと思うんです。そのほうが和みますから。

僕は日常的に、情報誌の編集者として「それって役にたつのか?」ということを要求し続けられているので、それをちょっとかわしたいという天邪鬼的な気持ちもあるのかもしれませんが。

でも、役に立たないことが、役に立つことを際立たせるってことが結構あって。僕がゆるさを持つことによって、本当に大事なことが際立つというか。

佐藤
たしかにそうですね。今度やってみますね。

なんだか、今日は、古川さんとの共通点をたくさん見つけることができて、とても嬉しかったです。

古川
傷つきやすいキャッチマンなところとか…。

すごくキレキレの方同士の対談というよりは、僕らのようなタイプは、忍術みたいな、ちょっと隠れて手裏剣なげてるみたいな。いつの間にか斬れてる!みたいな。そういう話だったかもしれませんね。

佐藤
きっと数日後に痛みがくると思います(笑)今日は本当にありがとうございました。

古川
ありがとうございました。

_ask7182ツーショット写真にオズマガジンを入れてもらえるんですね!と喜んでくださった古川さん。終始笑顔で対応しくださいました。

前編『社交が苦手なリーダー!?「らしい」メディア作りのために心掛けていることとは。』

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