CEOノート

経営方針というものを初めて文章にしてみた

代表取締役 青木耕平

経営方針というものを初めて文章にしてみた

とある外向けのドキュメントをまとめるために「経営方針」と言うタイトルの文章が必要になったのだが、僕が今まであまりにそう言うものを自分でまとめて説明したり、文章にしたことがなく、頼んでもやらなそうと思われているがために、担当スタッフが僕が過去に書いた散文をうまくまとめてその文章を作ってくれていたのをみて申し訳なくなり、15年近く会社をやっていて初めて「経営方針」と言うタイトルで文章を自分でちゃんと書いてみることにした。せっかく珍しくこんなに長い文章を書いたので、公開してみます。

経営方針

当社のミッションは「フィットする暮らし、つくろう。」という言葉で表現している通り、顧客が自分にフィットした居心地の良い人生をつくりあげることを支援し、その仕事を通じて経営者や従業員自身も「フィットした暮らし」をつくりあげ、喜びのある人生を送ることです。

そのミッションをより広範に、より効果的に果たしていくために事業を成長、成熟させることを創業から一貫して追求してきました。

しかし私たちは「すべての人」の暮らしをフィットしたものにすることに直接的に貢献できるとは思っていません。人はそれぞれに異なる価値観や美意識、文化をもっており、どうありたいかは多様です。ですから私たちは「私たち自身」と「私たちのような誰か」にとって圧倒的に「フィット」した選択肢を用意し、世の中に魅力的な選択肢を一つ増やすことで、社会全体の中で多様な「フィットする暮らし」づくりができる人を増やすことに貢献したいと考えています。

このミッションを果たす上で事業と会社がどこを目指すべきか、私たちはいわゆる「ビジョン」としてクラシコムが「自由」「平和」「希望」を十分に獲得した状態を目指しています。なぜならミッションを果たすためにやるべきことを実行し、やるべきでないことをやらないでいる「自由」がなければそもそもミッションを果たすことはおぼつかなくなります。またその過程で無用な係争、内紛、競争に巻き込まれその対応に追われるという「平和」がない状態ではミッションに向かうスピードは減じられざるを得ません。そして今日より明日が、今年より来年がもっと良い状況になるだろうと先に「希望」を抱いて仕事できる状況を確保しなければミッションを果たすまでの長い道のりを走り続けるモチベーションを維持することは困難です。

そのため、契約関係、資本関係、取引関係で他者の支配を受けず真っ直ぐにミッションに向かえる「自由」を、自らが望まない係争、内紛、競争に巻き込まれて消耗したり、歩みを遅らせたりしないための「平和」を、不確実性の高い状況の中でもミッションに向かって歩みを止めないための確かな裏付けのある「希望」をより多く獲得した状態を目指すことを経営方針としています。

これらの要素を会社が獲得し、その力を増していくことによって「ミッション」に向かってまっすぐ正しい構えで取り組み続け、その構えの精度を磨き上げることで高い成果を生み出す「正射必中」の経営を実現することを目指していきます。

自由であるために

1)資本関係に縛られないために高いオーナー比率を維持する
ミッションに向かって正射必中の構えで、迅速かつ一貫性のある意思決定を行い、長期的、持続的な成長、成熟を目指すために当面は創業経営者の株式保有比率過半数を維持します。

2)取引関係に縛られないために内製主義と直接取引主義を指向する
商品や仕事で使う道具をできるだけ内製主義でつくることで、ミッションを果たす上で本当に欲しいもの、本当に必要なものをつくれることを目指します。またステークホルダーとの取引はできる限り中間事業者を通さず、直接取引を行うことで、プライス、利潤、コスト、価値を設計する自由を持つことでミッションに対して真っ直ぐ取り組める自由を確保します。

3)長期計画に縛られないためにアジャイルに経営する
不確実性が高い時代に難しいミッションに挑む時、自らが立てた長期計画に縛られてそれをその通り実行することを目的化してしまうことは致命的な失策となりかねません。可逆性、可変性のある計画、特定の前提条件に最適化しすぎない幅のある計画、潜在的なリスクや機会に対して素早く対応していくための複数のシナリオを持つことを心がけ、日々その時の状況に最適な未来計画に更新し続けていくアジャイルな経営を実行します。

4)外部環境に縛られないために2年分の販管費相当のキャッシュを保有する
外部環境が大きく揺れ動いていく中で、自由であるためインディペンデントな事業者であり続けるためにも健全な財務状況と、潤沢なキャッシュを積み上げておくことは重要だと考えています。現在の事業を成立させている前提が大きく崩れたとしても、事業を再構築し、改めて持続的な成長軌道に戻れるための時間を確保するために、常に販管費の2年分のキャッシュを保有するようにコントロールしていきます。

5)型に縛られないために時に自ら型を捨てる
自分たちが成功した「型」「フォーム」「メソッド」はその瞬間から劣化する可能性を孕んでいます。常に磨き続けることでそれを避けることはもちろん、「型」を守ることを目的化せず、場合によって劣化する前に自らその型を否定し、捨て、ミッションに真っ直ぐ向かう姿勢を変えないために、やり方は全く変えてしまうことも厭いません。

6)リスクに縛られないためにキャッシュポイントや顧客、プラットフォームを分散する
複数のキャッシュポイント、顧客導線、事業モデル、商品カテゴリを有することによって、個別ポイントが毀損したり喪失したりするリスクが顕在化してもミッションに真っ直ぐ向き合い進んでいく自由を制限されない状況を維持していきます。

7)自由を拡大していくために「選択の責任」を果たす
ドラッカーは「自由とは放縦ではなく、選択の責任である」と述べ、選択の責任をより効果的に果たすものには社会がより多くの自由を委任すると主張しました。私たちがより多くの自由の獲得を目指すのは「ミッション」をより広範に、より効果的に果たすためです。そのためステークホルダーに自らの目的と計画、現在の状況と進捗、将来の予測、潜在的なリスクと機会を高品質、高頻度に共有することで、期待値を正しくすりあわせ、それを超え続けることでより多くの「自由」を委任してもらえる経営を行います。

平和であるために

1)参入障壁の高い独占的な市場セグメントの確保
当社は特定の価値観、美意識、文化といった「思想」を基準にセグメントした市場からターゲットを選定し、ポジショニングを行っており、他社からすると可視化されにくく、たとえ可視化されたとしてもその思想のインナーでなければ正しくアプローチしにくいという意味で参入障壁の高い市場の創造に取り組みます。そのために顧客と「思想」的に共感できる、元顧客を中心に雇用し表面的ではなく、本質的に顧客のフィットする暮らしづくりを支援するサービスを磨き上げることによってさらにその独占的な立場を強化していきます。

2)健全な財務基盤
無用な係争、内紛、競争を避けるためには、時に「避ける」「かわす」「逃げる」「止める」といったアプローチを選択する場合があります。そのような際に健全な財務基盤を有していることで変化による痛みを吸収し、中長期的な成長軌道を不安なく追求することができます。そのため日頃より十分な現預金の確保、および自己資本比率60%以上、即時に売上の3分の1を失っても黒字を確保できる程度の損益分岐点に対する高い安全余裕率を維持する収益構造を維持することに努めます。

3)平和であるがゆえに効率性の高い組織づくり
厳密な採用基準による抑制的な採用、マネジメント品質の向上に取り組むことで経営者と従業員がミッションに向かって真っ直ぐに力を合わせて取り組める組織をつくります。十分な心理的な安全性の確保、ミッションビジョンバリュー浸透、信頼できるリーダーシップの発揮があることで後ろ向きのコンフリクトが起こりにくく、逆に建設的なディスカッションは起こりやすい平和な組織を作りミッションを果たす活動のスピードを加速します。

4)美しさによる防衛
ステークホルダーや社会全体からリスペクトと共感を集める「うつくしい」あり方を作り上げることによって、理不尽な攻撃や簒奪の対象になる可能性が低く、たとえそうしたことが起きても手を差し伸べてくれる存在が必ず出てくるような存在感をつくっていきます。

希望を持ち続けるために

1)蓄積と複利が利く事業領域にフォーカス
時間と共に、仕事を続けると共に事業環境がよくなっていく蓄積と福利の利く事業のみに取り組みます。一時的な「特需」に根ざしたビジネスや、いずれは解消される「ねじれ」や「非対称性」に根ざしたビジネスはどれほど容易でリスクが少なくても手を出しません。当社の取り組む活動は全て手掛けている当人たちが、このままこの活動を続けていったらますます成果が出るな、もっと生産性が上がっていくな、今よりたくさんのお客様に喜んでいただけるなという「希望」を感じているものだけです。

2)持続的成長のためのカテゴリの花束戦略
当社が運営する「北欧、暮らしの道具店」は創業当時はビンテージの北欧食器を専門に販売するECサイトとして始まりました。そこからビンテージ北欧食器を買ってくださるお客様に、現行品の北欧雑貨をご提供するようになり、北欧の雑貨が好きなお客様に世界中の雑貨を、コンテンツを、食品を、アパレルを、コスメ、そして映画や音楽をというように、既存顧客の価値観、美意識を深く共有して、その人たちが暮らしの中で触れる可能性があるカテゴリを順次事業に加えていくことによって成長を続けてきました。この成長戦略を私たちは「カテゴリの花束戦略」と呼んでいます。おなじ価値観や美意識というリボンで様々なカテゴリを束ねることによってブランドがカバレッジできる範囲を広げ既存顧客の可処分所得に占める当社サービスの比率を高めていくことを目指しています。

3)顧客資産の劣化が起きない卒業のないブランド
当社は顧客の価値観や美意識といったある意味で「思想」の共通項を持った顧客をターゲットとして想定しており、「年齢」「性別」「国籍」「年収」といったデモグラフィックな基準でセグメントした顧客層を想定していません。そのため年齢や収入の変化、各種ライフイベントなどが発生しても顧客がそれを理由に卒業していくことが少なく、実際の顧客も30、40代を中心にしつつも、20代から6、70代まで広く分布しています。また「思想」でセグメントした顧客に対して「お店」としての側面だけでなく「メディア」「パブリッシャー」としての側面もそれ以上にあるため、「購入顧客」として一時的にアクティブでなくなったとしても「メディアユーザー」としては引き続きアクティブな接点を維持し続けられるケースも多く、それが一時的な「購入顧客」としての休眠期間を経ての再アクティブ化につながっています。このメディアパワーと前述した長期にわたって関わりやすいブランド設計と合わせて卒業のないブランドづくりを強化しLTVの最大化を目指していきます。

4)成長が緩やかになっても成熟は深めていける
量的な成長を継続するには次の「イノベーション」が待たれる踊り場のような時期が続くこともあり得るでしょう。しかしそのような間も、より洗練されたオペレーション、より価値の高い商品、より支持をあつめるブランドバリュー、より厳密にコントロールされた収益モデルや資源配分、より強固な顧客基盤を実現し磨き上げることは続けられます。私たちの最終的な目標は十分大きくなった後、さらに大きくなることではなく、より「卓越」した存在になるために「成熟」を深めていくことです。そもそも十分に成長しなければただしく「成熟」するチャンスは訪れません。幸か不幸か未だオーガニックに量的成長を継続する余地は十分残されているフェーズですが、十分に成長したあと事業を磨き上げて「成熟」を深め、歴史的にも2度と現れないような卓越した事業、企業を作り上げることによって企業価値を継続的に高めていくことができるはずだという「希望」を持っています。

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