社史

「北欧、暮らしの道具店」オリジナルコンテンツへの挑戦──代表×店長が振り返る、クラシコムの歩み(3)

書き手 長谷川 賢人

写真 木村文平

「北欧、暮らしの道具店」オリジナルコンテンツへの挑戦──代表×店長が振り返る、クラシコムの歩み(3)
兄の青木耕平と妹の佐藤友子が、二人三脚で作り続けているクラシコム。二人の転機となった「北欧、暮らしの道具店」。これまでに始めたこと、あるいは手掛けるのを留まったことも、数々あります。2007年に開店し、12年あまりが経った今、その数々の決断を振り返ってみました。

第1回は「北欧、暮らしの道具店」の開店から店長となった佐藤が産休に入るまで第2回は現在につながるメディア化への舵切り、Instagramや広告事業の『BRAND NOTE』といった変化の季節を追いました。続く第3回は、オリジナル商品の展開や新たな映像事業など、新しい取り組みの数々を見ていきます。

期待に応え続けるために、オリジナル商品を

かねてより挑戦を考えていた「オリジナル商品」に、2015年には本格的に取り組むことを決めました。KURASHI&Trips PUBLISHINGと名付けられ、これまで発行してきたリトルプレスについても、同じブランドに統合されることになりました。

「日常(KURASHI)のなかに、ひとさじの非日常(Trips)を」というコンセプト、そして「PUBLISHING(出版する)」の概念を自分たちらしく定義することで、日常に非日常を添えるあたらしいモノづくりへ、という意欲が込められています。その背景には、セレクトショップや小売店が直面する問題への対処もありました。

青木
「セレクトショップのままでは、自分たちが仕入れたいと思える商品だけで、お客さまの需要が満たせなくなるフェーズが出てくるんです。僕らがオリジナル商品を始めたのも、いずれ自分たちが欲しいだけの商品を確保できなくなることを見越していました」

それまでにも、オリジナルのポスターやコースターという手軽な雑貨、料理家のフルタヨウコさんとコラボレーションしたジャムなどを販売していましたが、改めてオリジナルブランド「KURASHI&Trips PUBLISHING」として挑戦したかったのはアパレルでした。


まずはTシャツやトートバックなどから販売を開始。

誰もが洋服なんて作ったことがない、何のツテもない中で、自分たちのできる範囲で商品を作りながら、ファッションアイテムの需要を知るために、他ブランドの洋服の仕入れも始めました。

佐藤
「まずは自分たちが好きなアトリエブランドの洋服を売ってみたのですが、商品ページをつくるにも肩に力が入りすぎちゃっていたりして……試行錯誤を続けましたね。

でもそのうち、私たちらしく紹介しないとダメだ!と気づいて、今にも続くスタッフの着用レビューを始めたんです。新しい分野に取り組むときに新しいことをやろうとしすぎない。お客様は私たちのどこを好きでいてくださっているんだっけ?と帰る、戻る視点の大事さを痛感する出来事でした」


スタッフ着用レビュー

苦戦はありつつも洋服の需要はつかめてきました。しかし、洋服を「作る」のは、全くの別物です。

その状況を変えたのが、2016年2月、ブランディングディレクターの福田春美さんとの出会いでした。すぐに意気投合し、夏頃には正式にアドバイザーとしてオリジナルアパレルに協力をお願いするようになりました。

そして人気モデルの香菜子さんとのコラボレーションも叶い、ついに2017年3月に初めてのオリジナルトップスの発売に至ったのです。

福田春美さんをアドバイザーに香菜子さんとコラボレーション(商品ページ

佐藤
「もし、満を持したオリジナルの洋服が売れなかったら、お客さまとの感覚との隔たりがあるともいえますから、発売まではとても不安でした。だから、それを払拭するために、『自分がこんなふうに紹介されたら、絶対に買わざるを得ないだろうと思えるくらいに確信が持てるストーリー』を作ったんです。

商品にこだわるのはもちろん、その時は香菜子さんのご自宅で商品撮影をさせてもらったり、生活シーンのなかでどれだけ実用的に着られる服かが伝わるために、これでもかというくらいたくさんの演出を準備して。

洋服に限らず、怖いときに変に勇気を出してもっと怖いことをしようなんて思わず、自分の気持ちが乗って怖い気持ちがおさまるストーリーを考え抜くというのは、常に大事にしています。それでも、この時は発売直前まで怖かったです。春美さんへ夜中にLINEを送って、泣きついちゃうくらいに(笑)」

期待と不安が入り混じる中で迎えた発売日。用意した500着は数時間で完売するという成功を果たしました。さらにこのトップスは、発売から3年経った今も再販や新色発売を重ねるロングセラー商品に育っており、その反響を受けてアパレルへの注力は高まっていきました。

未来図のパワーポイントは作らない

この頃、オリジナル商品と同じくらい未経験から始めたのがタイアッププラグラム「BRAND NOTE」。並行してのふたつの未開拓の分野に挑戦しながらも、実は青木はそんなに怖くはなかったのだと言います。それは自分たちを「素人のプロ」と捉えていたこと、その成功の条件を体感値から得ていたことからでした。

青木
「僕らは北欧旅行でビンテージ雑貨を買いつけたり、ネットショップを始めたりと、やったことのないことを、いろいろわからないことがある状況でわからないなりにはじめる、いわば素人のプロなんですよね。

素人のプロが成功するための近道は『成功要因が全てがそろってからアクセルを踏む』です。

一つずつのチャレンジに小さく賭けながら仮説を検証していって、それらが惑星直列のように並ぶ瞬間がくると、未経験の領域に橋が架かる。橋を架けるのは、多くはキーマンとなる人の存在です。洋服だったら福田さんとの出会いですね。

キーマンの登場と、仮説検証した需要の確認が揃う瞬間を、いつも作ろうと意識しています」

この考えで大切なのは、最初から長く続けようとしないことだといいます。まずは収支や粗利率、人員の拡充、継続性などを意識しすぎるよりも、一回の取り組みとしてスタートし、不発ならその場で撤退。大切なのは「機嫌よく」始めること。

クラシコムで「新しいこと」を始めるときは、いつも同じ段階を踏んでいます。まずは一歩目だけをご機嫌に考え、小さく、失敗してもいいくらいに始める。いろいろと試しながら、需要を見つけていく。そのうちにキーマンと出会い、「ここだ!」という取り組み方を見つけたら没入していくのです。

セオリーや意味付けは後からでも出来るけれど、「最初のワクワク」は替えがたい要素だといいます。

佐藤
「たとえば、未来図を先にパワーポイントで作って、と言われたら……やる気が出ないというか(笑)。スタートは、こんなにワクワクするプランを試してみよう!としか考えてなかったから進められましたね」

青木
「特にBtoCの商売は不確実性が高いので、先を予測することに多くの時間を使っても仕方ありません。むしろ、起こったことは何を意味するのかを、きっちり考えることに時間を割くほうが価値があると思います」

放心した兄、自信をつけた妹

新たな挑戦も良い兆しを見せ、「北欧、暮らしの道具店」10周年に向かってお祝いムードに溢れていた頃、実は隠れた危機(?)がクラシコムをひっそりと襲っていました。青木がひとり、迷い立ち止まってしまったのです。

青木
「売上10億円という節目を越えたものの、その先にこんな規模になりたいという具体的な目標があるわけではない。EC、オリジナル商品、広告事業と、成長のために用意していたスタンプラリーが全て埋まったような感覚で、未来をどうしていこうか、どこに面白みを見出すか、迷ってしまったんですよね……」

一方、店長佐藤は充実の時期を迎えました。初めての本『「北欧、暮らしの道具店」店長のフィットする暮らし』が刊行され、出版イベントで全国のお客さまへ会いに。さらに10周年記念のリアルイベントも開催。

これまで「苦手だ」と思っていた人前に出ることへの意識も少しずつ変わっていきました。それは、クラシコムにおける兄妹の関係にも、徐々に変化をもたらしていきます。

青木
「2017年頃から、佐藤は客観的に見ても自信を深めた感じを受けました。お客さまを前に、自分の考えを伝えて、届けたいもので喜んでもらえることに対する確信を深めたんだな、と。それまでは僕が考えたセットアップに沿って事業を進めてきたけれど、この頃からは佐藤の感覚のほうがドライブのためには必要で、その顔色を伺うような側になったというか……」

佐藤
「いや、そういうと人聞きが悪くて(笑)。単純に、青木から相談されることが圧倒的に増えましたね。大きな意思決定の場面でも『佐藤が乗らないなら、やりたくない』みたいに、私に決定権を預けるときもあって。

『社長はお兄ちゃんでしょう!?』と返すこともあったけれど、今聞くと、きっと切実に思っていたんでしょうね。求められる役割の変化は、端々の聞かれ方やコミュニケーションで感じ始めていました」

お客さまへの提供価値を、コンセプチュアルに表現


佐藤から「おじいちゃんみたいだった」と言われるほどに勢いを失い、自らに迷う青木。

その窮地をすくったのが映像表現への手応えでした。10周年でお客さまへのお礼を伝えるような、イメージCMを作ろうとしたところ、紹介で出会った制作会社から提案されたのは、CMではなくウェブドラマだったのでした。

思わぬ提案に、青木は佐藤や社員に話してみると、乗り気な様子を見せます。

その「良い流れ」は実際に脚本ができてくると、確信へと変わりました。佐藤は、「北欧、暮らしの道具店」が大切にしてきた編集方針を、フィクションで表現した世界観に夢中になりました。さらに、佐藤の頭に浮んだ数多のアイデアで企画を磨き、完成にたどり着いたのが、Webドラマ『青葉家のテーブル』でした。


青葉家のテーブル

この完成までの工程を見ながら、改めて青木は自らの「やるべきこと」を再認識していました。それは、実践者が抱えている課題の解決を助ける、ということでした。


撮影には常に青木と佐藤も同行しました。

青木
「北欧、暮らしの道具店を始めたときの根底には、妹がインテリア関連の会社で働いているのを見ていて、業界としてもっとよい働き方やビジネスができるように思っていたんです。オリジナルジャムも、もっとつくり手もお客様も報われるやり方があるはずだと思ったし、ネットで嫌われがちな広告は、より良い形があり得ると考えました。『青葉家のテーブル』の撮影を共にしながら、映像制作の現場でも、同様に感じるものがあったんです」

青木は、映像事業に新しい可能性を見出し、この分野での“惑星直列”を見据えながら、様々に手を打ち始めます。その姿を追うように、クラシコムでも新たな試みがなされていきました。

その一つが音声配信。2017年にWebラジオ「FMクラシコム」が始まり、企画リニューアルを経て、2018年からは店長の佐藤とスタッフ青木(「ヨシベさん」という愛称でお客様から親しんでいただいています)の「義姉妹」が、毎週日曜日に更新する『日曜ラジオ チャポンと行こう!』をスタート。

リスナーは次第に増えていき、2019年には1本当たり2万5千回再生を達成。特筆すべきは、ほぼ100%全員が最後まで聞き終えてくれるという愛され具合で、人気コンテンツとなりました。

日曜ラジオ「チャポンと行こう!」

佐藤
「時間帯と曜日を区切ったのは、毎週火曜日に発信していた『20時のおつかれさま』というエッセイを載せたメールマガジンが評判だったことがヒントになりました。それから、『ちびまる子ちゃん』や『情熱大陸』といったテレビ番組が日曜日に放送していることに意味があると、ひとりの視聴者として思っていて。

平日の中だるみで疲れたところに、染みるエッセイが届いて喜ばれるのであれば、日曜日の夜にゆるっとしたおしゃべりが届けば、会社や家事を『また明日から頑張ろう』と思えるスイッチになるんじゃないなって」

大切にしたのは、「ラジオをやろう」ではなく、お客さまに何を提供し、何を体験してもらい、どう関係性を築いていくのか。それをコンセプチュアルに表現していくことが、クラシコムの施策において通底している考え方です。

公式LINEでは「日めくりカレンダー」をモチーフに毎晩21時配信。開設当初からのメールマガジンは「お手紙」であり、2019年11月にリリースされたiOSアプリのプッシュ通知は「あいさつ」がテーマ。さらにたどれば、「北欧、暮らしの道具店」はネットショップではなく、「カートボタンのついた雑誌」と、いつでもお客様との関わりを互いに楽しむことができる枠組みや表現を探してきたのでした。


公式LINEから毎晩21時に送られるメッセージ

いま、やっと船ができあがった

兄妹で会社を作り、13年が経ちました。「よくやってこれたよね」とお互い、顔を見合わせて笑います。

佐藤
「大変なことも悩みも、いろいろあり続けるけれど、その時々に好奇心が赴くことへ素直でいる、不確実性の高いテーマはできるだけ力まずにお客さまを向く……といった積み重ねだったんだなぁ、と思います。うまくいくことも、うまくいかないことも、だんだん共通した理由もわかってきましたね」

青木
「振り返ると、ここまでは船を作ってきた13年で、これからが本当の航海なんだと思っていて。今は、船は大きくなってきたけれど、まだ近海をうろうろしている感じ(笑)。

ただ、この船長は僕ではないと思う。会社の責任は一番に取るけれど、操舵輪を握るべきは佐藤で。僕としては、船の改修や拡張、燃料補給や乗組員の採用育成、航路の選定みたいなところが役割になっていきそうな気がします」

やっと、船ができた。

13年を共にし、日々を「北欧、暮らしの道具店」と過ごしてきた兄妹が、いま感じている素直な着地点。汽笛は鳴り、まだ見ぬ景色を求めて、旅が始まります。

◎クラシコムの歩み
第1回:2006年〜2010年「北欧、暮らしの道具店」が生まれるまで
第2回:2011年〜2015年 ネットショップからECメディア
第3回:2015年〜2019年  オリジナルコンテンツへの挑戦

 

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