理想の「暮らし」を追求した10年があるからできる「仕事」のお話。クラシコム創業10周年兄妹対談。

書き手 編集スタッフ 馬居

写真 木村 文平

理想の「暮らし」を追求した10年があるからできる「仕事」のお話。クラシコム創業10周年兄妹対談。

今年で創業10周年を迎える株式会社クラシコム。兄妹で立ち上げた会社も今では、グループ4社約50名の社員が働き、「北欧、暮らしの道具店」は毎月125万人が訪れる大きなウェブメディアに成長いたしました。10年目という節目に立ち上げた「クラシコムジャーナル」がテーマにしているのは、「フィットする働き方や、ビジネスとはどんなものなのか、どうつくっていくのか」ということ。二人にとって働くとは、会社とは、ビジネスとは。なぜクラシコムジャーナルを立ち上げるに至ったのか。クラシコムジャーナル編集担当が聞きました。

兄妹でつくった会社。設立の理由は、過去の自分を励ましたいから

ーーー今回は「お仕事」をテーマにお話をお聞きしたいのですが、そもそもお二人がクラシコムを作られたのはどういった理由ですか?

佐藤
実は、最初に、兄である青木さんから、クラシコムを一緒にやらないかと誘われたときに言われた事業は、今取り組んでいる事業とは別モノで、それに対しては全く共感できなかったし、いまひとつ興味も持てなくて。

青木
!!!

ーーーそ、そうなんですか!?

佐藤
私はずっと「ささやかでいいから、人の暮らしにポジティブな影響を与えられる仕事に就きたい」という思いを持っていました。でも、職を転々としたさまよいの20代を過ごしたことで、その思いを実現することができる場所がなければ何も始まらないんだと感じていました。まずは、動機や力を発揮するための基盤となる場を作ることが重要で、それがたまたま会社であり、クラシコムでした。

青木さんは、もっと考えをお持ちだったと思いますけど、どうですか?

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青木
いや、基本的には、全く同じかなと思いました。社会のせいということではなく、僕と佐藤の責任として、ひとが作った場所の中では、自分を活かし切ることができないと感じていました。だからといって、「世の中何もいいことないよ」といいながら生きるのではなく、希望を持って生きたかった。だから、自分を投じられる場所がないのなら、つくろうと思いました。

今でも、会社経営を通じてやりたいことは、「理想は実現できる」ということの証明だと考えていて。こうなりたいと思っていることは、難しいことはたくさんあるけれど、基本的にはやれるはずなんだってことを、何に関しても思いたい。思いたいから実証したい。

そして、理想通りに生きることなんてできないのではないかと諦めかけていた昔の自分に、できるよといってあげたいという気持ちがありますね。

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佐藤
私もそれはすごく共感します。今やっていることで、過去の自分を励ましたいですし、今、悩んでいる真っ最中の人が、社内なり、社外なり、お客様の中にいたとして、こんなものがあったらどうでしょう、という提案がしたいから、がんばることができていると思います。

会社経営は「自己表現」。新しい価値観を実際にやってみせたい。

青木
あと、僕らが共通しているのは、提案するだけじゃなくて、実現してみせたいという欲求がすごく大きいことですね。

佐藤
山本五十六の「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」という言葉をすごく大切にしていて。実際に「まず自分たちがやってみる」ということにこだわりがあります。それは、やってみて、どや!っていうことではなくて、こんなやり方もあるよと、一つの方法としてシェアしたいという思いですね。

青木
小説家や画家も同じなのかもしれません。表現したいことが、言葉で説明して通じることなのであれば、小説を書いたり、絵を描いたりする必要はないけど、それでは表現しきれない何かがあるから作るのではないかと思います。最終的に僕らも、会社づくりということを通じて、こういうのが素敵だよねということを、言葉よりももっとわかりやすく表現してみせたいというか。

佐藤
青木さん、実際、小説書こうとしてたことあったよね。

青木
!!!

ーーー妹さんがなかなかすごいことを言っていますが、大丈夫ですか。

佐藤
兄妹対談なんだからこのくらい言わなくなっちゃね。原稿を郵便ポストに投函してたじゃん。

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青木
ま、ま、まあ、そうですね。

佐藤
青木さんとは、若いときに、バンドも一緒にやっていましたが、常にそういうことは、青木さんから誘ってきてましたし。実は私以上に、いつも表現したかった人なんじゃないかと思います。

青木
確かに、文学界新人賞という賞に応募しましたね。28歳か29歳のときに…。

佐藤
そうそう、結構、いい大人だったよね。

青木
会社を辞めたくて、色々な方法を考えて、その中の一つが小説家になることで…。会社で生きていかなくても良いように、あらゆることを考えていました。

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佐藤
つまり、小説家だった可能性もあるわけだよね。

青木
ないない!レベルがひどかった…。

創業者の理想と成長した会社の現実。サジ加減に費やす週1時間の兄妹会議

ーーーすごい暴露されちゃいましたね。そんな過去を知っているくらい、お二人は、幼いときから同じ環境で生きてこられて、だからこそ、今も同じ目標に向かって進むということができているのかと思います。でも、この10年で社員さんも50名近くに増えましたよね。会社が大きくなっていくことで、どんな変化が起こりましたか。

佐藤
クラシコムらしさを守らなくてはいけない、でも、変わっていかなくてはいけない、という間で悩むことは増えましたね。

青木
僕と全員がコンタクトを取れていた時代は、限りなく僕のパーソナリティに近い価値観ですべてが成立していました。でも、一人マネージャーが挟ると、そのマネージャーが示した方向性を僕が翻せば、マネージャーの権威を損なってしまうことになりますから、本当に翻す必要があるのかを考えないといけません。そういう迷いは発生するし、迷いの度合いは、間に人が挟まれば挟まるほど深まっていますね。

佐藤
週に1〜2時間、青木さんと私の二人で話す時間をとっていているのですが、ほぼ、サジ加減会議ですよね。こういう問題が出ているけど、はっきり正したほうがいいのか、いや見過ごしたほうがいいのだろうかということを、細かいことから大きめのことまで、解決のサジ加減を相談しています。

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ーーーそのサジ加減の調整に、週に1〜2時間かかるのですね。

青木
普通はそんなにやらなくていいと思いますけどね。僕と佐藤は共通して「鈍感力」がちょっと足りなくて。渦中にいてさらに視野が狭くなってしまっている方に対して、「とはいえさ」と冷静に話すことで、お互い弱点を補っているという感じですね。

佐藤
「親の心子知らず」という言葉がありますけど、社員との関係性についてもそれに似たようなことが起こります。親って子供を愛してるがために、本気すぎて激情しちゃったりするじゃないですか。会社と、社員と、本気で向き合いすぎて、こちらの意図がわかってもらえないと悔しくなってしまうということは正直なところどうしてもあるんですよね…。

青木
会社って家族と似ているなと思っていて。結婚式で、こういう家庭を作りたいですって言ったりするじゃないですか。

ーーー笑顔あふれる家庭にしたいとかですね。

青木
でも、そんなにフワっとした観点で、家族なんて続けられないっていうのは、10年も経つ前にわかりますよね。子供についてだって、僕の子なのに僕の思うとおりには全くなりませんし。お父さんとお母さんがどういう動機づけで結婚したかということもどうでもよくなりますよね。

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でも、もしかしたらそれが幸せなんじゃないかなと。過去に縛られず、今、家族みんなが最大限、健やかであることにフォーカスできていることが、大切なのかなと思います。もともとの会社を作った精神は、ないがしろにはしないけど、あくまでも良い思い出としてというか。

経営者として、従業員として、お取引先様として、お客様として、「今」幸せなのかということが大切で。それを大切にして、極端に厳しくするでもなく、極端に逃げるでもなく、二人でその塩梅というかサジ加減を調整していますね。

佐藤
私達の間でそれがずれてしまうと終わりですからね。

誰にも起こりうる「人生の変化」が仕事に影響しない仕組みを作りたい

ーーーそんな、我が子のように思われている社員さんたちに、これから先、クラシコムでどういう働き方をしてもらいたいと思いますか。

青木
言い方が難しいですが、「自然なことが自然にできる環境」にしたいなと思っています。

例えば、介護とか、子育てとか、色々な事情で仕事のために割ける時間が限られている人がいますよね。介護や子育てというものが、イレギュラーなことであれば、避けるための努力をしますが、それは、夜寝なくてもいいならいいのになぁ、とか、重力が無くなって空を飛べたら通勤が楽なのに、という現実離れした話に近いですよね。

つまり、「イレギュラー」なことではなく、「レギュラー」なことで。そのレギュラーな変化に対して、その変化が存在することが前提の環境を作れないだろうかと思います。

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ーーークラシコムさんが残業をせず、18時に退社をすると決めていることも関係していますか?

そうですね。時短制度がとても整っていたとしても、居心地の悪さを感じていたり、業務内容が主軸から外されてしまったり、時短していない人から不公平感が出てきたりしてるわけですよね。

僕らが、必ず全員18時で帰りましょうといっているのは、帰りたい人は帰っていいよということではなくて、なるべくその時短制度を使う人の方の仕事量にみんなが統一して、不公平感がでないようにということに力点をおいてのことでして。

佐藤
私たちの会社は、女性社員が多いからなおさらそういうことを考えますよね。

青木
これから介護の問題とか、人数的な負担がすごいことになると思いますし、女性だけの問題ではないとは思います。国民全体で向き合っていかないといけないですよね。

佐藤
男とか女とかますます言ってられない時代になっていきますよね。

青木
本当は、成果を出せば、時間も場所も関係ないということを実現できればと思います。しかし、それには、会社としても、社員一人一人の実力としても、まだ未熟だと思っているので、今は、時間というもので区切っています。

主軸に制約を抱えてない人だけを集めるといった不自然なレギュラーを維持するのではなく、レギュラーな変化は仕事に影響を与えないという立て付けができたら面白いと思います。

できる人はバリキャリだけじゃない。仕事も暮らしも大切にするメディアに。

ーーーそれも実現して見せたいということですね。そういった、クラシコムさんの「実現していく様子」を伝える一つの手段が、このクラシコムジャーナルになっていくのでしょうか。

青木
より、見せやすくはなっていきますね。

ーーークラシコムジャーナルは、どんなことをやりたいと思っていますか。

青木
仕事を持つ人の多くは、寝ている時間を除いたら、3分の2くらいの時間を仕事に割いていますよね。僕らは「フィットする暮らし」を提案したいと言い続けていますが、そういう人たちにとっては、家でどう過ごすということと同じくらい、どういう働き方をするかといったことも、人生の満足度という意味では大きいと思うので、いつか働くということや、ビジネスをきちんと扱いたいと考えていました。

佐藤
「北欧、暮らしの道具店」は、わたしたちが書きたいものでも、誰かが読みたいものでもなく、「わたしたちが読みたいもの」を編集方針に企画をつくっています。ただ、私自身も仕事の幅や責任の広がりを経験したり、年齢を重ねることで、読みたいコンテンツの幅が変わってきていることを実感していて。

例えば、自分と同じようなことで悩んでいる女性リーダーのお話を聞いてみたいとか。社員というか、部下には話せないことを相談できる友達がほしいというか。自分が求めているインプットの質が変わってきていて。そういうことを「北欧、暮らしの道具店」のなかで声高にやっていくのはどうかなと迷うところですが、自社内で別メディアを立ち上げることで、新たなタイプの発信にチャレンジできるのではないかという好奇心を持っているんです。

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青木
最近、「北欧、暮らしの道具店」のお客様がどういう方かということに対して、「ちゃんとしたい人」ではないかと思っていて。レシピを見て美味しいものを効率よく作ろうとか、片付け術を身に着けようとか、ちゃんとしようと肩肘張りすぎているので、頑張らなくてもいいよというコンテンツが読みたいとか。とにかく、できれば暮らしをちゃんとしたいという人に読まれていると思います。

ただ、そういう、暮らしをちゃんとしたい方こそが、現代の企業において、すごく有能な人材としてすでに活躍しているのではないか、あるいは活躍する可能性を秘めてるのではないかと。実際僕らが接している、企業の方々もそういう方がとても多くて。

でも、メディアでは意外にそういう扱われ方をしてないような気がしていて。僕ら含めて未だに、バリキャリというか、ステレオタイプな仕事人が活躍していると思いこんでいるのではないかと。でも、企業で成果を出してる人の中には、「北欧、暮らしの道具店」のお客様のような、暮らしも仕事もきちんとしたいパーソナリティの方がたくさんいらっしゃる気がするんです。
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「北欧、暮らしの道具店」のお客様と、違う人ではなくて、同じ人の、暮らしではなく、働くという側面にフォーカスをあてたような、そんなビジネスメディアはなかったので、新たなメディアを作るというよりは、現状に追いつくアウトプットができればと思っています。

佐藤
私たちも、「北欧、暮らしの道具店」を10年間運営したから、やっとこういうビジネスのアウトプットができるようになりましたよね。つい最近まで、出したいという欲求すらわきませんでした。

先程の、山本五十六の「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」でいうと、「北欧、暮らしの道具店」で、10年間「やってみる」ことに集中してきたからこそ、次は、お仕事のことを「誰かと話したり」「シェアしたり」してみたいという気持ちが湧いてきたんじゃないかと思うんです。

青木
暮らしをテーマにして、BtoCで必要とされることももちろんありがたいし、大切なことだとは思いますが、ビジネスをテーマに発信させていただくことで、仕事をしている方々から、仕事面においても、クラシコムという会社が存在していてありがたいと思っていただけることは、僕たちが会社として長く存在していくためには必要なことではないかとも考えています。

これからの10年も兄妹でがんばります!

ーーーそれでは、最後に、クラシコム設立から10年の記念ということで、お互いに一言お願いしても良いですか。

青木 佐藤
!!!すごい無茶振りですね。ど、とちらから…?じゃ、じゃんけん?

ーーー佐藤さんが負けましたね(笑)

佐藤
うーん…。うーん…。そうですねぇ。

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始めた当初も、数年間も、こんなオフィスで、50人近い社員を抱えて、しかも最近では広告事業も初めてって、こんな景色のところに来るとは全く思っていなくて。

私がこういうものがやりたいということを青木さんにぶつけると、青木さんの中で化学反応が起きて、じゃあお前の次の課題は「これな!」って出されて、それを10年間必死で追いかけてここまでたどり着いたという感じですね。

でも、いつまでも、兄に出された課題に必死でくらいつくだけの妹ではだめだなと思っています。ただ、そうやって、方針を決めていくような方に立場が変わっていくと、私にもプレッシャーが産まれてきています。その中で、本当にやりたいことを、嘘なく、思いつき続けていくためには、自分がどういうコンディションで居るべきなのか、ということをすごく考えています。つまり、えっと…。

ーーーメッセージというよりは、宣言ですね。

佐藤
はい、がんばります!

ーーーありがとうございます。では、青木さんお願いします。

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青木
これからの10年は、人気漫画の第2部のようなものだと思っていて。最初に思いついたストーリーはほぼ全てやり終えてしまったけど、世間からまだ続けていいよと許された作品というか。2部は、作者もいつ終わるのかわからないし、でも、1部よりも面白くなくてはいけないし、より難しいですよね。

佐藤
やっぱり第1部が一番面白かったってなっちゃうものも多いような……。

青木
そうね。でも、ジョジョの奇妙な冒険だったら、人によって一番好きなシーズンが違ったりしているし。不可能ではないと思います。僕がたてた道筋通りに進んできた1部ではなくて、佐藤も一緒に方向性を探っていくことで、2部はもっとうまくいくかもしれないし、3部に続くよう、一緒にがんばろうですかね。結論、がんばろう!としかいえませんね。

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ーーーでは、「がんばります!」「がんばろう!」ということで。

佐藤
まじめか!

青木
ちゃんとしたい人ですからね。

佐藤
なんか、面白くなくて、すみませんね。

ーーーいえいえ、真面目すぎて、面白いです。真面目に働く私たちが、リアルに読みたいコンテンツを作っていきたいですね。今日はありがとうございました。

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