「誰かの人生を変えるブランド」を作る、第一歩に共通すること──COHINA 清水葵・田中絢子 × クラシコム 佐藤友子 対談前編

書き手 長谷川 賢人

写真 木村文平

「誰かの人生を変えるブランド」を作る、第一歩に共通すること──COHINA 清水葵・田中絢子 × クラシコム 佐藤友子 対談前編
この言葉が人々の心を捉えたのは、1988年のこと。

『ほしいものが、ほしいわ。』

糸井重里さんが西武百貨店のために寄せたコピーは、今なお語り継がれるほどに鮮烈でした。それから30年が経ち、私たちは本当に「ほしいもの」を手にすることができているのでしょうか? 彼女たちが手がけるブランドを見ると、いまだにその気持ちは、こぼれ落ちたままなのかもしれません。

今回、「北欧、暮らしの道具店」の店長佐藤が対談したのは、24歳のふたり。小柄な女性をキレイに見せることをコンセプトに、XSサイズの洋服を扱うファッションブランド「COHINA」を2017年11月に立ち上げた清水葵さん、田中絢子さんです。


Instagramを活用し、お客さまの声を取り入れながら、“きれいめカジュアル”の洋服をつくる。小柄な女性たちの「ほしいもの」を捉え、たしかな支持を得るCOHINAは、現在毎月130%ほどの成長を見せているといいます。その姿は「北欧、暮らしの道具店」にとっても大きな刺激となっていました。

「初めてふたりにお会いして、話せば話すほど、“出会うべくして出会った感”があったんです。私たちが事業を始めた動機とも通ずるものがあって、最後はハグしたくなるくらいに熱くなってしまって」

そう語る店長佐藤の希望もあり、記事としての対談が叶いました。あらためて、COHINAのこと、今のふたりが考えていること、そこから見える「私のためにある」と愛されるほどのブランドに共通することを語り合いました。

COHINAディレクター

(←)清水葵さん (→)田中絢子さん

148cm、151cmという自分たちの経験から生まれた小柄な女性のためのファッションブラントとしてCOHINAを立ち上げ。始めての起業でありながら、毎日ライブ配信を欠かさないInstagramを中心に、熱心なファンに支持され取材現在(2019年3月)まで毎月130%UPという成長をみせている。

好きなもの
清水さん:柴犬・旅行・和食・ハイボール
田中さん:可愛い動物の動画・海鮮丼

予備校で出会った、なんでも話せる友達だった

「北欧、暮らしの道具店」店長・佐藤友子(以下、佐藤)
お二人の出会いって、いつなんですか?

COHINA・清水葵さん(以下、清水)
もともとは予備校時代からの友人です。大学に入ってからも、たわいもないことから、将来について考えていること、今やりたいことなんかをよく話していたんです。

COHINA・田中絢子さん(以下、田中)
ほんと、ただの仲良しでしたね(笑)。

佐藤
お互いの価値観などをシェアするようになっていく中で、どのあたりから「小柄女性のためのベーシックブランド」というCOHINAを立ち上げるアイデアが生まれたんですか?

清水
話しているうちに、自分たちの周りにあるネガティブなことを解決したい、という共通認識が生まれたんです。そのうちのひとつが平均的な身長の人に比べると、小柄な自分たちはファッションを楽しみきれていない……っていうモヤモヤでした。「じゃあ、着たい服が無いなら作ってみる?」みたいなところから始ったんです。

田中
当時22歳で、就職活動の時期で。私たちも「将来はどうしよう?」なんて話をしていくなかで、「でも将来だけじゃなく、今は何がしたいのか?」も考えたんです。例えば、企業のインターンに参加するだけじゃなくて、自分たちで世の中に対して何かを作り出す経験が足りていないし、それにトライしてみたい。「何かしたいモード」が、ふたりともすごく高まっていました。

佐藤
その高まり、すごく勇気が出ますよね。ということは、今のお二人の年齢は……?

清水
24歳です。今年、25歳になります。

佐藤
私とも18歳ちがうし、兄とは20歳離れてるんだ。いいなぁ、今日はパワーをたくさんもらえそう!(笑)

必要としてくれる人がいるから、モチベーションは尽きない

佐藤
COHINAが生まれる原点から聞いたのは、お二人がビジネスとして、小柄な女性のための洋服を手がけるときの「尽きない動機の泉」に、今日は触れてみたい思いがあるんです。

アイデアをきっかけにして、事業をやればやるほど、その泉は湧き続けているのか。それとも多少は目減りしている感じがあったりするのか。私も「北欧、暮らしの道具店」を始めるときの「動機担当」だったから、お二人と同じ立場でもあって。

清水
でも初めは、「私たちのための服がない」と思っていたとしても、世の中には服がないわけじゃないですし、小柄な方たちも毎日服を着て生活をしています。だから、スタートするときには、私たちの動機や思いはどこまで響き、お客さまからどういう反応が返ってくるのか、正直言って自信がありませんでした。ふたりとも洋服作りの経験もなかったですから。

だから、私たちも「欲しいものがある当事者」として、作りたい洋服を探りさぐりお客さまと考えていったんです。これは今でも変わりませんが、Instagramのライブ配信を中心にお客様とコミュニケーションをとっているんです。幸いCOHINAの初期から私たちの考えに心から共感してくださるお客さまが付いてくださり、商品ができる度にその数も、応援の声も増えていきました。その関係性がある限りは、モチベーションが減ることはないと感じますね。

田中
実際に声を聞いてみたら、明確に困っている人がやっぱりいたんですよね。想像から確信に変わったというか。それで私たちも「やりたいな」から「やらなきゃいけない!」くらいの気持ちに今はなっていて。それこそ、もっと日本全国の方へ届けたいし、海外に住んでいる日本人女性もすごく困っていると思うんです。

佐藤
たしかに!サイズの平均が日本人の平均身長よりも離れますもんね。

田中
日本人だけでなく、FacebookにCOHINAのことを投稿すると、海外の友達から「私の国でもほしい!」というコメントをもらうこともあります。「あぁ、小柄な女性は世界中で困っているんだな。早くもっと楽しい思いを提供しなきゃ!」っていう気持ちが、今の私たちにとってのモチベーションかもしれないです。

佐藤
わかるなぁ。私も今でこそ「動機担当」なんて言われているけれど、もともとの動機って、あったようでなかったと思うんです。ただ、雑貨が好きで、自分の目に留まったものを売ることから始めたら、時代の波に後押ししてもらえたというか……。やっぱり「必要としてくれる人がいる」ということを感じれば感じるほど、「動機の泉」が湧き上がっていくし、必要としてくれる人がそこにいるなら、命の限り応えたいと願う。そういう思いだけなんですよね。

不安だらけの服作り。カタコトな英語で中国の工場とやり取り

佐藤
最初は洋服の仕入れから始めたんですか?それとも、いきなり作った?

清水
いきなり作りました。

田中
始めた頃はふたりとも学生だったので、週7日をフルに使っていましたね。もちろん収益も上がらないんですけど、「なんとか生きる!」みたいな(笑)。

清水
商品の第一号はブラウスとスカートのセットアップに決めたんですが、洋服を作るツテはなくて。私の知り合いのお母さまが、たまたまパタンナーの経験があって、紙にパターンを引いていただいたり。さらにコストの問題で、縫製を国外へ発注せざるを得なかったんです。カタコトな英語で中国の工場へ、サンプル出しをお願いしたりしましたね。

田中
自分たちとしては、中国で生産するとなったらミニマムのロットで100着は最低でも作らなきゃいけない。初期の資金は、出資をしてくださる方を見つけることで賄っていたのもあって、もし売れなかったら……という不安しかなかったですよね。

佐藤
その時は本当に売れるかも、自分たちが世の中に受け入れられるかもはっきりわからず、出資を受けることでの責任も感じますよね。でも、なぜ最初からオリジナルを作ることにしたんですか? 仕入れから始めるほうが難易度は低いかなって思うんですけれど。

田中
服が、なかったんです。

佐藤
あ、そうか!

田中
最初はいろんなブランドの小さめサイズをかき集めて、それを紹介するメディアを立ち上げるみたいなことも考えてはみたんです。でも、集めてくるだけのものが世の中に存在しなかったんですよね……。

清水
私たちに「仕入れる」という知識がなかったのもありますし。だから、最初のセットアップが出来た時は、その商品だけが買えるようなECサイトを、平然と始めるしかなかったですね。

無知「だからこそ」始められた。ただただ、進めた

佐藤
今のお話を聞いていて、「北欧、暮らしの道具店」と通じるところもあるなって思うんです。私たちは最初、誰かに出資してもらったわけではないけれど、ふたりして「不安だ」と言いながら、それでも「無知」だからこそ怖がるレベルが低い状態で始められたんです。

田中
それ、わかります。とりあえずやってみる。そして、ただただ、やる。

佐藤
そして、今とちがって、怖がるべき目次を知らないし。

清水
そう思います、本当に!

佐藤
「もし、うまくいかなかったらまずいよね!」なんて兄妹で言い合っている怖さと、目次を知ってからの怖さを比べると、それはきっと全然怖がっていなかったからやれたんだな、としか思えないんです。でも、そういうスタートを持っているのって、たぶん「面白い思い出」をふたりで共有できているということでもあるはず。

田中
確かに大変だったけれど、すごく楽しかったです。

清水
そもそも晩夏に秋物を作ろうとしてましたからね(笑)。最初は日本のメーカーに相談したら「秋は無理ですよ」なんて言われて。「えっ、無理なの?まだ秋じゃないのに?」って……。今考えると、あり得ないくらい無知でした。でも、中国の工場に聞いたら、なぜか「頑張ればできそうだよ」って適当な返事が来て、それならやってみようよって。

佐藤
私たちも立ち上げた当初は、クリスマスの企画を11月に作っていたし、母の日の企画を3月の終わりくらいからやっていた(笑)。そう考えると、10年もビジネスをやると成長するんだなぁって思う……そんなクラシコムが今は2021年のことを考えているもの。

清水
でも、無知だからこそ始められたっていうのもあると思うんです。もし、その時に「半年先のものを考えなきゃいけない」と知っていたら、きっと自分たちのタイミングとしても合わなかったから、諦めていたかもしれません。無知がゆえに、「すぐにやろう!そのためにどうしよう?」みたいな考えで、どんどん進んでいけたからこそ、結果的に短い期間でもたくさんの人に知ってもらえて、たくさんの人に洋服を届けられたんだろうと思います。

ちいさなコミュニティで、ちいさく始めていく

佐藤
それで、ECサイトを立ち上げて、待望のセットアップは売れたんですか?

田中
それが、売れたんです!

佐藤
すごい!どうやって売ったんですか?

清水
まずはCOHINAのことを知ってもらうために、服がない時点からInstagramのアカウントを作って、それこそ「私たちの今日の服」みたいな小柄女性の向けのコンテンツをひたすらポストし続けていたんです。今思うと、それが役に立つのかはわからないままでしたが、フォロワーが400人くらいのアカウントになっていて。

田中
その頃は商品を見に来るというよりは、「小柄ならではの悩み」という共通項を持つ女性たちが集まっている、ちいさなコミュニティのような雰囲気のアカウントで。ただ、最初から注目してくださっている方もいたので、私たちも普段から「今からパターン切ります!」みたいな様子も発信していました。

それで「ECサイトをオープンしました!今から発売開始します!」と告知して、その日のうちに2着売れたんです。

佐藤
自分が一つ作った価値に対価を払ってもらえるのは、ほんとうに嬉しい瞬間ですよねぇ!私も最初に売れたとき、パソコンに頭を下げたもん!(笑)

田中
もう嬉しかった!決して値段も安いわけではないですから。帰り道で駅の階段を登っている時に初めての通知が来て、思わず二人でハイタッチしました。

佐藤
私たちも最初に仕入れた北欧ヴィンテージの食器は、たしか70SKUくらいあったのかな。それも8割くらいがオープン初日で売り切れたんですよ。そのときの恩義は今でも忘れられないです。

田中
すごーい!

佐藤
私たちの始めたタイミングは、ちょうど時代の波の後押しがあったと思うんですよね。お店を作っている途中なのに、先にカートに入れて買われちゃったり。それも無知だから、オープンな状態にしてお店を作っていたんですよ……(笑)。

「なんか売れちゃったけどお断りして!まだダンボールすらないから!」なんて言って、そこでお店を一時的に閉めることを覚えたり。それで、「申し訳ないのですが、あらためてオープンを告知するのでメールマガジンを登録してください」ってお願いしていました。最初からメルマガはやっていて、開店当時で登録者が数十人はいたのかな。

田中
皆さん、どうやって「北欧、暮らしの道具店」を知ったんでしょう?

佐藤
たぶん検索だと思います。あとは兄も私も当時はブログをやっていて、お店のことを始める告知的なことを数ヶ月前から書いていたり、北欧好きなブロガーさんの投稿にコメントを入れていったりして。オープンした時に、多少なりとも売れるような工夫はしていたんですよね。

そうやって集まった小さな北欧好きのコミュニティの人たちが、「もともと読んでいたブロガーさんが兄妹でお店を始めたらしい」ってことで買ってくださったんだと思うんです。最初こそ必要とされるものがヴィンテージだったけれど、お客さまの声を聞いていくうちに、みんなは単に雑貨を必要としているから集まってきてくれているのではないんだ、というのもわかってきたんです。

「人生が楽しくなる価値」をもっと作っていきたい

清水
どんなことがわかってきたのですか?

佐藤
みんな、何かしらの悩みやコンプレックスがあって、理想と現実の間で苦しんでいるんです。私はそこに大きなユーザーペインがあると考えていて。そのユーザーペインを一時でも癒したり、問題解決したりするのが私たちの務めなんだと気づいてから、雑貨の枠を超えて、洋服や化粧品なども含めて、女性のあらゆる必要に応えたいと思うようになりました。

田中
COHINAのお客さんも近い気がします。小柄な人が服を買いに行って、規定のサイズが合わなくて諦めたときの感覚って、まるで「お前は世の中の規格外だ」って言われているような気持ちなんです。それはすごく寂しい感覚で……。

とはいえ、それはいじめられているわけでもないし、大きく発信するまでもないことかなって、なんとなく黙り込んじゃっている。だからこそ、もっと発信できて、自分の好きなことをしていいと感じられる居場所を、やっと見つけたような感覚をお客さまたちも感じてくれていると思うんです。

佐藤
それこそ、私たちは「暮らしの道具店」と名乗っているけど、「暮らし=生きること」だと思っているから、本当は「生きるの道具店」くらいな感じで捉えているんです(笑)。

じゃあ、「生きる」って何かっていったら、それは「死ぬ」を考えることだろうと。女性として抱くあらゆる感情を成長や衰退の中で味わって、そこから種を生んでいく。それを素にして、同じようなことに悩んでいる女性たちに寄り添っていけるようなプロダクトやサービスを開発していきたい……というのが、今の私をすごく支えている。このあたりもCOHINAさんと似ていますよね?

田中
すごく似ているなって思います。

清水
私も思います。COHINAも経験を重ねるうちに、当初想像していた「150センチ前後で自分たちぐらいの体形の人」だけでなくて、体つきでサイズが違ったり、さらに小柄な145センチ以下の方はもっと困っていたりと、さらにやるべきことも見えてきました。

あるいは、「自分は小柄だから」とフィルターをかけて諦めていた人が、COHINAで自分に合う服を見つけてからオシャレに興味を持ったということも結構あるんです。それは私たちが想定していなかったニーズであり、その気づきと実際を両方提供できるのは、私たちとしてもやりがいがあります。

田中
服を届けること以上に、「人生が楽しくなる価値」をもっと作っていけるのかなと思っています。服一つで人生って結構、変わるんですよね。たとえば、大事なシーンにCOHINAの服を選んでくださる人がいらっしゃって。「今日は結婚式なのでCOHINAの服で行きます!」とか、「好きなアイドルのコンサートなのでCOHINAで気合いを入れてます!」とか。

自分にとって大事なことがあるときに、自分が最も心地よく、自信を持てる服があるだけで、人生がもっと楽しくなったり、もっと頑張りたくなったりするって、服の持つ素晴らしい価値だなと思います。大事な時に選んでもらえるような服を、これからも作っていきたいですね。

佐藤
すごく元気が出る話!まだ聞きたいことは途中なのに、エネルギーもらってばかりだなぁ。

 

後編ではビジネス面の工夫や世界観の保ち方など、より実践的な内容について語られました。
後編:毎月130%成長する小柄女性向けブランドと「北欧、暮らしの道具店」の共通点

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