学校、戦争、大人の社会に隠れた少女たちを描き続けるために──漫画家・今日マチ子インタビュー後編

書き手 編集スタッフ 馬居

写真 岩田貴樹

学校、戦争、大人の社会に隠れた少女たちを描き続けるために──漫画家・今日マチ子インタビュー後編
あなたの中にも、少女は生きていますか?

デビューから一貫して少女たちを瑞々しく描き続けてきた今日マチ子さんが、なぜ今普通の大人の女性たちを描こうと思ったのか。そのきっかけとなった、ご自身が働きすぎて倒れた経験などについて語っていただいた前編

後編では、自身のデビュー作でもあり、昨年10年ぶりにフルカラーで再出版された「センネン画報」への想いなどを振り返りながら、真骨頂である「少女を描くこと」についてお話いただきました。

思春期は終わり。もう描かないと決めた。

──多くの方が今日マチ子さんを知るきっかけになったであろう「センネン画報」。初出版から10年経った2018年に再度生まれ変わって出版されました。あとがきの中で、「もう描かない」と書かれていましたね。


2004年からウェブサイトで公開し2008年に出版。2018年、10年ぶりにフルカラーで再出版された。

今日
もう描けないと言った方が近いかな。

「センネン画報」のようなコマ割りとか、サイレントで描いてほしいという依頼は受けていくとは思いますが、「センネン画報のような作品を」と依頼される時は、「完全には同じになりません」ということはお伝えするようにしています。

もう10年〜15年近く前の初期の作品なので、さすがにちょっと変わってしまう部分もあるし。そもそも、「センネン画報」をやめたのは、描き尽くした感があったからだったので。

──何を描き尽くされたのでしょう。

今日
思春期の揺らぎというか、言葉にならないような瞬間のフォーカス単体というようなことかな。フォーマットの中でのパターンを全部思いつく限り描き尽くしてしまった。描いて描いて、もういいやって思えたんです。

ここから先は、自分で新たにストーリーをつくることができるなって思ったんです。もう1ページマンガじゃなくていいんじゃないか、と。もう、自分のやりたいことはここにはないという感覚ですね。

──そして最後に一冊の本にまとめられた。

今日
10年前に出版された「センネン画報」は、予算の関係でほとんどモノクロだったんですよ。当時は、本当にただの新人だったので。ウェブではカラーなのになぜ、っていう(笑)。それで、10年を節目に、カラーで出し直して、やっと本来あるべき姿になりました。

一歩動けば、次の道が見える。

──「センネン画報」は、今日さんにとってどういう存在だったのですか。

今日
始めた当初は、マンガの仕事もなくて、そもそも漫画家でもなかったので、続けることで何か見えてくるだろうっていう希望だけで描いていました。それこそ「ときめきさがし」のように、1年の空白に耐えるように(前編参照)、とにかく不安だったけど、これだけやっていれば何かに繋がるだろうというかすかな希望だけで描いていたというかんじです。

──それは何を信じて描き続けられたんですか

今日
なんでしょうね。でも最初は、1週間も続けばいいだろうくらいの感じだったんです。でも、描いていると次はこうしたいとか、これをやってみたいとか、なにがしかそのチャレンジが見えてくる。そうすると面白くなって、そのままずっと描いてしまったっていう感じなんですよね。

──とにかく動けば、次が見えてくる。

今日
そうですね。たとえ上手く描けなくても、それを受けてまた別のことをすればいい。とにかく、ひたすら掘り続けました。そのおかげで、「センネン画報」というスタイルで、色々なことを見つけましたよ。

──失敗と成功を繰り返して…発明家のようですね。

今日
そうですね、改良に改良を重ねて。

──もともと漫画家になりたいわけじゃなかったとお聞きしました。

今日
ずっとライターとイラストレーターの仕事が大好きで、学生時代からミニコミ、今でいうZINEのようなものを作ったりしていて。つまり、話を作りながら絵を描けるっていうのがずっと求めてたところで。でも、結局それってマンガじゃない?まとめればよかったんだ!と気づいて今に至ります。

──たどり着いたのが漫画家だったんですね。

今日
そうですね。もちろん子供の頃からマンガはふつうに好きだったんですけど、友達のお父さんが漫画家で大変さはよくわかってたので、職業の選択には入れてなかったんです。お絵描きが大好きなだけでなれるもんじゃないって。

──今は自分は漫画家だという意識ですか?

今日
そうですね、完全に。

描きたかったのは、戦争に消された少女たち。

──漫画家である、という意識の変化が関わっているのか、どんどんストーリー性の強い作品が増えていったように思います。いつもイラストの愛らしさや世界観にうっとりしていたのに、「COCOON」「アノネ、」「ぱらいそ」という戦争三部作は驚きました。こんなにがっつり物語を作られるんだ!と。


戦争三部作の2作目「アノネ、」
あのね、今は楽しくて、でもね、これから死んでいくの。だからね、今度は「わたしの」戦争物語。

今日
そうですよねぇ。わたしもびっくりしたんですよ。ちゃんと物語が作れるんだって。しかも、物語作りがどんどん面白くなっていったんです。ですから、COCOON以降はストーリー性の強い作品がメインになってきましたね。

──「少女」を描き続けてきた今日さんが「戦争」というテーマに取り組まれるのは大変だったのではないかと思います。

今日
ただ、そもそも戦争マンガのテーマをくれた編集さんも、少女の目線で戦争を描くことができないかとおっしゃってくれたので引き受けることにしたんです。戦争を描くことでむしろ日常の大切さが描けるんじゃないかと。

戦争ものって、たとえ少女を主人公にしていても「戦争もの」ということで終わってしまって、一人の少女の物語ではなくなってしまうじゃないですか。だったら私は逆に、少女が生きていてそこに戦争があったんだよ、という話の描き方をしたいなと思ったのです。

「アノネ、」は「アンネの日記」を元に作られた物語。

全ての作品は史実をもとにしています。歴史の中に「戦争で死んでしまった少女」という風に閉じ込められてしまった女の子たちを、そこから救い出したくなったんです。

三作品とも共通して、ひとりの女の子なんだよってことを掘り起こしていくんだ、という意志が一番根底にはありましたね。

可愛らしいイラストで凄惨なシーンも描かれる。

大人になったら、少女はいなくなる?

──戦争作品でも、女子同士が助け合う姿が印象的でした。たぶん女子校出身でいらっしゃったってことも理由かと思うのですが、どの作品も女の子たちの関係がすごくリアルですよね。男の人って、女性同士の関係ってドロドロしてるの?なんて思ってたりするんですけど、実際はそんなことなくて。

今日
そうですよね。世の中、なんでこんなに「女だけの場所」に偏見があるのかって思います。女性だけになっても、結局そこに社会が出現するから、働く人は働くし、のんびりさんはのんびりだし、ちゃんとまわるようになっているんですけどね。

でも、女子だけの世界というと、百合とか、ドロドロとか、すごく極端な妄想をされますよね。でも男女がいる場所と変わらないと思います。仲良くしてることもあるし、喧嘩することもあるし、恋が生まれることもある。

──そういう関係は大人になっても変わらないのでしょうか。

今日
長いこと会っていない友人でも、久しぶりに会うと一気にその時と同じように戻ってしまいますしね。

結局大人の中にも、少女の部分って生き続けているんです。最近は、むしろ少女がただステージをかえて大人の世界にいるのではと思っているんです。

大人な部分を持っている少女もいる。その反面、ほとんどの女性は、30才、40才になっても少女の部分は必ずあって、それはその人の核となるようなものなのではと。単に、その時期に合わせて、30歳なりの振る舞いをしていたり、40歳らしい格好をしているんじゃないかって。

というのも、去年祖母が90代半ばで亡くなったんですが、お葬式で思い出の写真を集めたビデオが流れていて、女学校時代の写真が出てきたんです。面白いポーズをとった少女時代の祖母の写真が映って、「おちゃめな性格でした」とコメントがついていました。思い起こせば確かに祖母はそういう一面もあって。おばあさんになっても、少女の時と同じ部分が生き続けてたんだな、と衝撃を受けたんです。

それ以来、大人の女性であっても少女の部分は絶対あると思うようになりました。

高校生のときからの友達を見ても、みんな社会人として振舞ってはいるけれど、ふとした瞬間に全然変わっていない姿が見えたり。高校生の時から、細かいことが好きな子はアクセサリー作家になったり、マンガやアニメに詳しかった人は映像制作をしていたり、作る内容が高校生の頃に彼女が好んでいたものと同じだったり。

結局、全く違う人間になんてならない。

そういう風に思ってからは、ふとした時に、この人はどういう高校生だったかなって逆再生しちゃうんです。よく行く病院の女性医師が、たぶん30代だと思うんですが、ちょっとおっちょこちょいで。きっと、おっちょこちょいな女子高生だったんだろうな、って。

──なんか、好きになっちゃいますね。

今日
好きになっちゃいますよね。よく間違えるので、お医者さんとしては不安ですけど、でも、すごく好きなんです。

──誰でも脳内で高校生に巻き戻したら、可愛く見えてしまう気がする…。

今日
そうそう。すごく面白いんです。この人は真面目な子だったんだろうなぁとかね。

これからも少女たちを描き続けるために

──今後もきっと少女たちを描き続けていかれると思うのですが、具体的にこういう風にお仕事をされたいというものはありますか。

今日
ただただ良い作品が描きたいです。でもやっぱり心身のバランスが大事かなとは思っています。

ずっと誰よりも働かなくちゃいけないという思い込んでいましたが、倒れたことや、10年以上漫画家を続けてきたことで、「私が良い作品を描く」ことと「他の人が良い作品を出す」の二つは全く関係ないことなんだなって気づくことができました。私の中でできることのベストをやればいい。

同じ頃にデビューした人がヒットを出したりすると焦ってしまったり、あんなものは作れない!とすごく落ち込んでしまったり。逆に、マンガを辞めてしまう人もいて、「もっと私は頑張らないと!」と思ったり。でも、そうじゃないんだって。大切なことは、自分の人生の中で、どれだけ良いマンガをみなさんにお届けできるかってことで、他人は関係ないんですよね。

じゃあ、どうするかというと。結局は毎日の積み重ね。一つ一つの仕事に手を抜かないとか。引き受けすぎないとか。常に100%ちゃんと出し切りたい。いや、100だと現状止まりになっちゃうので、101%から120%くらいを常に出せる環境をちゃんと自分で調節してくのが大事なのかなって思うんです。

──いつでも101%でというのは、いちばん幸せな働き方かもしれないですね。どうかお体に気をつけて、これからも素晴らしい作品を生み出してください。楽しみにしています!

 

前編:仕事を受け過ぎてパンク…人生の一回休みが教えてくれたこと

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文中でご紹介した作品。

  

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