暮らしを支えるヒットブランド

日本ののどを守り続けて200年 変わることのない存在意義は「人を助ける」製品づくり

書き手 塚本佳子

写真 栃久保 誠

日本ののどを守り続けて200年 変わることのない存在意義は「人を助ける」製品づくり
世のため、人のためにならなくてはいけない、変なものは世の中に出してはいけない。ヒットブランドには、作り手のブレないコンセプトと社会貢献の精神が強く反映されています。

「暮らしを支えるヒットブランド」は、そんな商品にスポットをあて、ヒットの理由を紐解く連載シリーズ。

今回は株式会社龍角散の代表取締役社長・藤井隆太さんに、200年以上の歴史を持つ「龍角散」、そこから派生した「龍角散ののどすっきり飴」など、のどを守るヒットブランド商品についてお伺いしました。

株式会社龍角散
代表取締役社長

藤井隆太さん

小林製薬や三菱化成工業(現・三菱ケミカル)を経て、1995年、株式会社龍角散の代表取締役社長に就任。基幹である「龍角散」を主軸に、「らくらく服薬ゼリー」や「龍角散ののどすっきり飴」など、QOL(Quality of Life:生活の質)を改善するための商品開発に力を注いでいる。フルート奏者としても活動している。

 金儲けのためではなく、人のためになるものをつくる

——龍角散が誕生したのは、なんと200年以上も前のことだそうですね。

ご先祖さまは秋田藩の医者だったという記録が残っています。喘息で苦しんでいるお殿さまのためにご先祖さまが調合した薬が龍角散で、秋田藩の秘伝薬でした。もともと龍角散は商売のためではなく人助けのために誕生したのです。

その後、一般向けの薬として微粉末の製剤を完成させ販売を始めたのが企業としてのスタートですが、「金儲けではなく、人のためになるものをつくる」という当初から続くコンセプトは、時代が変わっても譲ってはいけない、当社の大きな存在意義だと思っています。

——商品開発において、一番大事にしていることは何ですか?

真似をしないし真似をされない、完成度の高いオンリーワンの製品をつくることです。商品開発に困難はつきものですが、それをクリアにしていくのが社長の役割です。ですから、24年前に社長に就任して以降、戦略はすべて私が考えています。

当社はもうすぐ年商200億円になろうかという企業ですが、社員はたった100名程度です。一般的なメーカーの場合、商品別のプロダクトマネジャーがいますが、当社にはいません。私が全商品のプロダクトマネジャーであり、ブランドマネジャーであり、もっといえば私がブランドイメージだからです。

マーケティング戦略は長期戦です。大手メーカーでは何十年もの間、1つの商品のプロダクトマネジャーを継続している人はいません。その点、当社の場合は何百年と続く歴史と20年以上の戦略がすべて私の頭の中に入っているので、コンセプトがブレることなく、ブランドイメージを築き上げることができています。そこは当社の大きな強みでしょうね。

食品業界にセルフメディケーションの概念を持ち込んだ「龍角散ののどすっきり飴」

——のど関連の商品のみを開発し続けていることも御社の特徴です。

人助けになる製品はたくさんあると思いますが、何でもかんでもできるわけではありませんし、私の目が行き届いた運営ができるよう、社長に就任した時点で、のど関連製品に限定しました。当初、「龍角散」の売上はかなり落ち込んでおり、前時代的な製品は終わりにすべきという意見が社内から出てきていました。

ところが、愛用者の方々に「龍角散」についてどう思うかというインタビューをしたところ、「龍角散がないと困る。のどの粘膜だけを活性化させて、他に悪影響がない医薬品は他にはない」という声が多数寄せられたのです。たしかに飲みにくいしクラシカルだけど、「のどの粘膜だけを活性化させ、血中に入らない」というのはすごいポイントだと思いました。

——とくに女性の愛用者が多かったそうですね。

妊娠中や授乳中に産婦人科の先生に教えてもらったという声が多くありました。とはいえ、やはりこのままでは飲みにくいという声もあったため、「龍角散」を近代化させた顆粒タイプやトローチタイプで飲みやすい「龍角散ダイレクト」を開発しました。

——「龍角散」や「龍角散ダイレクト」は医薬品ですが、のどをケアするために開発された食品が「龍角散ののどすっきり飴」。これも社長の発案だそうですね。

普段からのどが弱い人やのどを酷使する仕事をしている人に向けた「のどケア商品」がないことに気づき、これだと思いました。現在、「龍角散ののどすっきり飴」が業界トップのシェアを誇っている主な理由は、医薬品品質と同等のラインで、龍角散をイメージして製造された国産ハーブパウダーが入っていることと、広告戦略にあります。

のど飴は菓子なので、医薬品に該当しないパウダーのみを飴の原料に練り込んでいます。食品は効能をうたってはいけませんが、龍角散をイメージしたハーブパウダーと言えば、その効果感は説明するまでもありません。

菓子としてののど飴ではなく、「セルフメディケーション(自己治療)」としての役割を持ったのど飴という概念を持ち込んだのは当社の「龍角散ののどすっきり飴」が初めてです。セルフメディケーションの第一歩として薬ではない「龍角散ののどすっきり飴」があり、調子が悪くなったら医薬品の「龍角散」があります。1つの製品だけでは成立しないのが当社の商品の特徴と言えます。

売れない時期にこそCMを打つ

——もうひとつの理由である広告戦略というのは?

発売してから数年の間「龍角散ののどすっきり飴」は冬場は売れるけど夏場はがくっと落ちるという売上推移が定着していました。しかし、季節を問わず、のどの乾燥や酷使したのどの不快感、春先などの花粉やPM2.5などによるのどのイガイガ感など、のどケアや健康維持増進にも効果的です。

そこで、夏場に大々的にCMを打つことにしました。売れる時期に大きな宣伝を仕掛けるメーカーがほとんどなので、夏場にのど飴に広告費をかけるメーカーはありません。マーケティング戦略は売れる時期にやるばかりが能ではないと私は考えています。売れない時期にいかに売るかという視点も必要です。

——社内から反対はなかったのでしょうか?

もちろんありました。「夏場にのど飴の広告を打つんですか?」と現場は大騒ぎですよ。リスクが大きいので、一般的な会社ではまず通らないと思いますが、当社はいいんです。私が決めますから。

ただし、宣伝効果のある仕掛けをすることが大切です。たとえば、材料となるハーブを実際に栽培している秋田県の畑を映すことで、安全で丁寧に栽培されている国産ハーブを使用していることを強調したり、秋田県知事にも登場していただいたり、インパクトのある工夫をこらしています。

突飛なことばかりするとよく言われますが、人と同じことをしていたら将来はないし、かといって変わったことをやればいいのかというとそういうわけでもありません。根底にある「世のため、人のためにならなくてはいけない」「変なものは世の中に出してはいけない」という考えが、CMづくりにも影響しています。

「自ら健康になる努力をする」ための一助となる製品づくり

——今後チャンレンジしたいことはありますか?

医療費の増加が社会的な問題として取り上げられるようになって久しいですが、保険医療制度をどのように次の世代へと維持し繋げていくかは非常に大きな課題だと思っています。

そのために大切なことは「自ら健康になる努力をする」ことではないでしょうか。ちょっと体調がすぐれないと感じたら、医者に行く前にまずは自分でできることをやってみましょうと。ただ、最近はすぐに病院に行き、薬を処方してもらう人が増えています。

——たしかに、昔は多少の咳や、のどの痛みくらいでは病院には行きませんでした。

ちょっとおかしいなと感じる程度なら家庭薬を使っていましたよね。それで治る症状もあります。病院に行けば回復は早いかもしれませんが、体にはあまり異物を入れないほうがいい。

しかし、病院では症状に見合っているが作用の強い薬を処方されることが少なくありません。強い薬を服用すると副作用が起こり、その副作用をおさえるためにまた別の薬を服用する、こうして薬が増えてしまうことを「ポリファーマシー(多剤併用)」と言います。飲みきれない薬が増えたり(残薬問題)、多剤併用で場合によっては他の薬との相互作用等でより副作用が発現しやすくなる懸念もあり、体にとっていいことではありません。

その前に自分の健康は自分で管理する。普段から気をつけて病気にならないようにする。もし発症してしまったら重症化しないように日々の生活を見直す。当社の製品がその一助になれるよう、今後も人のためになる製品を開発していきたいと思っています。

 

 

 

 

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