暮らしを支えるヒットブランド

最上級の軽さとストレスフリーなかけ心地。軽量メガネの代名詞「Airframe」は日本一のデザイナーがつくっている

書き手 阿部 花恵

写真 鈴木 静華

最上級の軽さとストレスフリーなかけ心地。軽量メガネの代名詞「Airframe」は日本一のデザイナーがつくっている
世の中に数多くあるヒットブランド。開発の背景はさまざまですが、その裏には共通して「ずっとこういうものが欲しかった」というお客さまの声が潜んでいます。長く求められていたのに、今までになかったもの。それが、ヒットブランドのキーワードだといえそうです。

「暮らしを支えるヒットブランド」では、そんな商品やサービスにスポットをあて、ヒットの理由を紐解いていきます。

今回、お話をお聞きしたのは、株式会社ジンズの北垣内康文さんと田中亮さん。2010年度「日経優秀製品・サービス賞 日経MJ優秀賞」から2018年度「グッドデザイン賞」まで、数々の賞を射止めてきた大ヒット軽量メガネ「Airframe(エアフレーム)」誕生の背景について、お話をお聞きしました。

(写真左)
株式会社ジンズ
アイウエア事業部 商品企画グループ

デザイン チームリーダー
北垣内 康文さん
広告デザイナーとして大阪の会社に勤務する傍ら、個人でメガネのデザインを行い、外部のコンペティションなどに出展。2005年に株式会社ジンズに入社。AirframeやJINS PC(現:JINS SCREEN)など数々のヒット商品のデザインを手掛ける。

(写真右)
株式会社ジンズ
ブランドマネジメント室

事業統括リーダー
田中 亮さん
2011年、レディース雑貨を中心に扱う株式会社ジンズの子会社に入社。MD(マーチャンダイザー)、事業部長を経て2016年に株式会社ジンズに入社。現在はブランドマネジメント室でマーケティングから販促まで全体のブランディングを統括。

社運を賭けて勝負に出た「Airframe」

──「Airframe(エアフレーム)」が誕生したのは2009年。現在まで売上約1700万本という異例の大ヒット商品となるまでの経緯を教えてください。

北垣内
2008年に、当時の商品責任者が上海の展示会で「TR-90」という素材のフレームを見つけてきたんです。TR-90という医療用のナイロン樹脂なのですが、日本では当時ほとんど流通していなかった。

その素材をフレームに使ったメガネをかけてみたら、装用感がすごくよかったんですよ。かけ心地はすごく軽いのに、フレームが柔らかくて弾力があるから締めつけ感がない。私も長年、メガネを使っているのでわかるんですけど、メガネってきついとダメだし、緩いとすぐズレますよね。

それでこの新素材を使って新商品をつくろう、ということになりました 。

──未知の素材だったぶん、デザインも試行錯誤だったのでは?

北垣内
そうですね。どういう風にサイズ設計をすればいいか、重量のバランスを取ればいいのか、デザインで質感をどうカバーすればいいか……。改良しながら試作を繰り返しました。

当時は「JINS」としてのヒット商品もなく、会社として低迷していた時期でした。そんな状況下で「Airframe」が完成間近になった段階で、社長の田中が「社運を賭けて売る」と言い出し、過去にない7万本の大規模発注をかけました。さらに1年間の広告宣伝費の5倍額を、1カ月の広告費として投入することが決まって。あのときは、あまりのプレッシャーで震えましたね。

田中
「Airframe」発売イベントもすごく気合いを入れました。原宿店リニューアルオープン記念で先着1000人に「Airframe」を無料プレゼントと宣伝し、「JINS MAN」というキャラクターで軽さを表現するパフォーマンスを企画して。その甲斐もあって、発売直後から大きな反響をいただきました。

実際に店頭で「Airframe」を試したお客さまたちも、その弾力とこれまでにない軽さに非常に驚いたそうです。当時のメガネはまだ「硬くて、重くて、かけ心地が悪い」状態が普通でしたから。その常識を「Airframe」が覆しました。

 毎年リニューアル、進化する軽量メガネ

──今年で11年目を迎える「Airframe」ですが、発売当初と現在では素材やデザインもやはり変化しているのでしょうか。

北垣内
デザインは毎年リニューアルしていますし、素材や細部にも改良を重ねています。最新のモデルは鼻にあたる部分(鼻パッド)が柔らかいシリコン素材になっていて、鼻パッドとメガネ本体をつなげる金属部分にも弾力性の高い素材を使っています。

そうすることで着用時のストレスが少なくなるのはもちろん、鼻にもメガネの跡が残りにくい。耳にかかる部分もラバーになっているので、さらにフィットしやすく、かつずれにくい設計になっています。

田中
素材も少しずつ進化しているんですよ。より軽くて、弾力性があり、壊れにくい樹脂を採用していて、実用性の部分の価値を感じていただけると、うれしいですね。

目指すのは、「快適さ」の最上級

──「Airframe」の大ヒットによって、他社からも「軽量メガネ」が続々発売されるようになりました。そんな状況の中でも「JINS」ブランドならではの強みはありますか?

北垣内
今は各社から色々な「軽量メガネ」が出ていますし、軽量という点においては大きな差はありません。頭打ちの状態ともいえます。

そのため、私たちもすごく悩んだ時期があって……。「『Airframe』でお客さまにどんな価値を提供するのか?」ということについては社内でも部署を超えて、何度も話し合いました。

田中
「軽さが最重要の価値なのか?」「それとも柔軟性か?」「壊れにくいことがいいのか?」という話し合いを、もう何時間やってきたのかわからないですよね。

北垣内
でも今年になってようやく、そのあたりの価値がすごくはっきりと見えてきたんですよ。結局、私たちが目指すのは「最上級の快適さ」。かけていて本当に楽なメガネ、かけ心地のいいメガネをつくっていきたい。国によって好まれるデザインは違っても、そこは世界共通ですから。

田中
鼻パッドの改良も、そこがはっきりしたからこそ出てきた発想でしたよね。2009年に「Airframe」が誕生してCMを打ったときは、とにかく認知してもらうことが一番大事なことだった。それから10年経った今は、もう一度「Airframe」の価値を捉え直して、ストレートにそれを伝えていくことが重要な段階に来ていると思っています。

WEBページも徹底してシンプルに仕上げています。「この商品の価値とは何か」という一番伝えたいメッセージだけを打ち出して、お客さまにとって余計であろう情報は極力削ぎ落としています。

「価値の共有」を徹底した結果、売上150%増に

──店頭でのお客さまとの直接のコミュニケーションにも、その方針はすでに反映されているのでしょうか。

田中
もちろんです。弊社は素材の仕入れから商品デザイン、マーケティング、店頭での接客まで、すべて一貫して自社で行っています。だからこそ、全社員が「最上級のかけ心地、快適さを追求する」という「Airframe」の価値を共有しておかなければならない。

昨年、店頭でお客さまと直接対面する自分たちが、もう一度きちんと「Airframe」の価値を確認して意識して伝えていこう、という方針を徹底したんですよ。その結果、売上が約150%増になりました。目に見えて数字が変わった。開発においてもマーケティングにおいても、「価値」を共有することの重要性を再確認しました。

JINSには日本一メガネのことを考えているデザイナーがいる

──最後に、「JINS」というブランド、「Airframe」が目指すところを教えてください。

田中
JINSは「日本で一番多く、お客さまにメガネを売っている」会社です。だからこそ、どういうお客さまからどういう声があがっているか、日本人の平均的な顔の形は、といった膨大なデータを参照しながら開発・改良できることが強みだと思っています。

それに何よりも、JINSには北垣内のように日本で一番にメガネのことを考えているデザイナーたちがいる。素材の特性からフレームの微妙なカーブまで、すべてを綿密に計算しながら、常に理想のデザインを追求し続ける。そんな彼らの姿を間近で見ていますから、これは自信を持って言えます。

北垣内
いい商品をつくると、やっぱり真似されるんですよ。でも、真似されてもいい。より多くの人が、軽くて楽なメガネをかけられるようになった、ということですから。

さきほど、「軽量メガネは今、頭打ちな状態」とお話しましたが、それでも私たちとしては「Airframe」に関していえば「快適性」に絞って商品開発していくことを明確に決めました。そこの核を定めたことで滲み出るものは絶対にありますし、それが大きな変化や差につながっていくのはこの先のステージなのかもしれないな、と思っています。

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