ブランドの価値を、暮らしに寄り沿う形で伝える。「記事広告」だからできるストーリーの紡ぎ方。クラシコムサロン第6弾レポート

書き手 阿部 花恵
写真 栃久保 誠
ブランドの価値を、暮らしに寄り沿う形で伝える。「記事広告」だからできるストーリーの紡ぎ方。クラシコムサロン第6弾レポート
株式会社クラシコムが主催となり、企業のマーケティング・プロモーション担当の方々に向けて開催している「クラシコムサロン」。2018年11月15日に、その第6弾となる「記事広告におけるメディアとの関わり方、成果を出すためのディレクション」を行いました。

今回のゲストとしてご登場いただいたのは、キリン株式会社デジタルマーケティング部の中村美幸さんと、アイロボットジャパン合同会社マーケティング本部の高川弥生さんです。

記事広告のそもそもの意義や、ブランドとメディアがいい関係を築いていくためのポイント、出稿する際にブランド側として気をつけるべき点にはどのようなことがあるのか。

クラシコム事業開発グループマネージャー・高山がモデレーターとなり、中村さんには、缶チューハイ「本搾り™ 」の事例をもとに、高川さんにはロボット掃除機「ルンバ」の事例をもとに、お話いただきました。

記事広告でKPIはどう設定する?


 高山
今回のテーマにしている記事広告ですが、直接的に売り上げをつくる施策というよりも、ブランドへの態度変容を目的とした施策という考え方がベースになっています。

つまりは、直接的な売り上げ貢献による費用対効果で測りにくい施策ですよね。そういった記事広告を出稿したいが、どのようにKPIを設定すればいいかわからない。そんな風に悩まれている企業さまが多いように感じます。お二人の中に成果を測る具体的な指標はありますか?

中村
記事広告に限った話ではないんですけど、私たちは、最終的な売上目標を達成するために態度変容させなければならない人数を算出して、施策ごとの「態度変容をした人数」をひとつの効果指標としています。

あと、主要なブランドの場合は、記事広告も含めた複数の媒体を対象にクロスメディア調査を行って、CPB(コストパーブランドリフト)で媒体ごとの費用対効果を比較しています。

媒体によっては接触・非接触をログでとれるケースもありますが、基本的にはアンケート調査となり、アンケートで「この記事を読みましたか? どうでしたか?」と聞く形になる。そこで成果を見ます。

高川
弊社もさまざまな調査結果を元に設定していますが、聞き方や回答した人によっては数字が一定にならない課題があります。

だから、まずはマーケティング全体で「興味」や「購入意向度」で獲得したい数値を設定しつつ、それを達成するために各キャンペーン、各施策のKPIを逆算して指標にしています。記事広告を出稿するなら、どんな価値観やライフスタイルをもつ生活者に対して、どれくらいのリーチと態度変容が必要で、だからこの媒体に出稿して、という感じです。

「ルンバ」に関していえば、検討から購入までの期間が平均数カ月くらいかかるんですね。そこの部分が施策ごとに直結して、結果が見えづらいのが、今の課題です。

高山
たとえば「ルンバ」のような高関与商材だと、売り上げに相関関係のあるユーザーアクションってありそうですよね。たとえば、ブランドサイト内にあるスペック比較ページを見た人は購買につながりやすい、など。そういったところをKPIにされることも考えられそうです。

高川
それも考えられると思います。ところが、数字やデータの分析ばかりにかかりきりになると、本質的な部分を見失ってしまいがちなんです。どのサイトからどんなユーザーアクションがあったか、という事象の分析だけにとらわれてしまうと、視野が狭まってしまう。

中村
わかります。見込めるPVや事後アンケートでのトラック、そこから先の購入転換率はある程度見えてきますが、やっぱり数字だけがすべてではないですよね。そういう意味ではうちもまだ試行錯誤中です。「このKPIですべてわかる!」という方法があったらむしろ教えてください(笑)。

記事広告という施策が課題にどうコミットできるのかを見極める

高山
なるほど。手段を目的化しない、ということですね。ところで、社内で記事広告の施策を上長やブランドマネージャーなどに通す際に、お二人はどのような点を意識されていますか。

中村
施策の通し方、ということですよね。それはやっぱり、記事広告という施策がどういう課題に対してコミットしているのかというところを共有できていれば、通るものだと思います。

解決していかなければならない課題をまずは上長と握り、そのための手段をニュートラルに考える。

たとえば、「本搾り™」という商品は香料・酸味料・糖類無添加でして、缶チューハイでありながら甘すぎず食事と合うという価値があります。そこを伝えていきたいとなった場合、じゃあバナーのような平面で伝えるよりは、レシピと一緒に伝えたほうがいいよね、じゃあ記事広告にしよう、という流れですね。

費用対効果だけを見て記事広告が選択肢にあがるというわけではなくて、常に課題・企画とセットで考えています。

高川
アイロボット社はアメリカに本社がある企業で、世界共通のクリエイティブやメッセージを打ち出しています。

そんななかで、メディアタイアップである記事広告などの製品理解を深める施策に関しては、マーケティングの方向性を合わせながら、各国ごとに行なっています。

高山
となると、アメリカとは違う形で、日本仕様にコミュニケーションやクリエイティブをローカライズしていく必要がある?

高川
そうですね。アメリカで、広いお家に土足で過ごす暮らしをしていると、ルンバは清掃性が高くて、掃除をお任せできることを伝えたら、「買いたい」と思ってくれるかもしれません。

でも日本では清掃性能と同様に、家事労働をサポートとしてくれる、忙しさを助けてくれるためのもの、というコミュニケーションも重要です。日本とアメリカでは違うコミュニケーションが必要。そうやって少しアプローチを変えるだけで、ユーザーさんは近づいてくれる。

だから、弊社に関していえば、暮らし方の違いや背景、調査結果を理解してもらった上で、メディアさんとの記事広告への出稿にOKしてもらう、という感じです。

 

メディアの文脈に添ってメッセージを届ける

高山
なるほど。では記事広告という施策は商品のどういった側面、価値を伝えやすいと思われますか? 機能面なのか、生活の中での価値なのか。お二人ともどんな風に捉えていますか。

中村
商品にもよると思うんですけど、「本搾り™」ももちろんCMやグラフィックで、商品の価値を表現することは私たちもできます。ただ、生活者主語でのストーリーテリングを自社だけで行うのは難しいと感じます。「本搾り™」は、先ほど申し上げたとおり、香料・酸味料・糖類無添加という点にずっとこだわっているんです。でも、その点でまったく同じような商品を他社に出されてしまったら、そこでいったん価値が下がってしまうんですね。

▲当店スタッフが、日頃「本搾り™」とあわせている食事とともにご紹介しました。お取り組みの記事はこちら

中村
そういう意味では、機能的な価値だけではなく、一般の方々のリアルな生活の中で、どんな風に「本搾り™」を飲んでもらいたいのか、というストーリーをメディアさんに生み出していただければ。

メーカー側が自社の商品の愛を一方的に語っても、やっぱりちょっと嘘っぽくなる。でも、それについて聞いてくれる人がいて、一人の人間として真正面から話せるという機会をもらえることはメリットだと思っています。

たんに宣伝したいのであれば、純広告でOKなんですよ。でもわざわざ記事広告を選ぶのは、ブランドメッセージをメディアの文脈に沿って届けてくれるからですよね。

高川
私、最初にクラシコムさんとお取り組みしたときは、実はちょっと半信半疑な気持ちもあったんですね。「北欧、暮らしの道具店」の読者さんって箒やハタキとかで丁寧にお掃除する人たちというイメージが勝手にあったから、「ルンバ、必要ないんじゃ?」って(笑)。

でも記事広告それ自体はルンバで伝えたい生活の価値や昨日価値を丁寧に書いてくださったので、予想とは違う結果が出ても違和感をどう受け止めていくか考える機会にしよう、というわりと挑戦的な気持ちでのお取り組みだったんです。

▲BRAN NOTEでは、ライフスタイルの異なる当店スタッフ4名が、「ルンバ」を暮らしに取り入れた感想を伝えました。記事はこちら

高川
結果、反響がすごくよくて。事後アンケートの数も500件近く、本当にたくさんの声が集まりました。想定外のいい反響をいただけたことで、「メディアやユーザーさんの暮らしに合わせて切り口や見せ方をしていけばいいんだ」と私自身の価値観が変わった部分もあって、すごくいい経験になりましたね。

中村
社内に想定外のいい効果が及ぼされる側面もありますよね。以前にクラシコムさんと「氷結®のお取り組みをしたときに、弊社の開発担当者が氷結®で使う果物を作っていただいている産地の農家さんを訪問する、という企画の記事広告をやらせていただいたのですが、その社員が「今回の機会をいただけて本当によかったです」とあとで教えてくれたんですね。

私たちは流通を介してお客さまと接する立場ですから、生産者やお客さまと直接会い、目の前で商品を飲んでもらって素直な感想を聞ける機会ってそうないんです。とくにマーケティングや開発の現場の人間にとってはすごく貴重。そういう意味では社内の人間にも喜んでもらえてよかったな、という嬉しさもありましたね。

 

「あなたの生活にどうフィットするか」を伝える

高山
記事広告という枠組みの中で取材撮影の現場に同行することで、マーケティング調査ではわからない本当のリアルなところをインプットできる、という効果はきっとありますよね。

あとは、記事広告で商品の魅力を伝えることで、もとから好きだった人たち、既存のファンの自信にもつながる、という側面もあると思っています。アンケートで読者の声を集めると、「実は私もずっと好きで飲んでた、使ってたんです」という声が意外なほど多いんですよ。「自分はこのよさを知ってるけど、みんなも知ってるかな?」「よかった、私の選択は間違ってなかった!」と思ってもらえることも、記事広告のひとつのプラスな側面かもしれません。

高川
商品の魅力・価値をどう伝えていくかって難しいですよね。掃除機の市場では「自分でかける掃除機」のシェアがいまだ90%以上。ほとんどの人にとっては、自分で掃除機を動かして掃除をするのが当たり前のこと。その人たちに、「ルンバは賢いんです」「部屋の隅々まで掃除します」という機能価値をいくら伝えても「自分でかけるから大丈夫です」と言われ、価値が伝わりません。

そうではなくて、「あなたの生活にこんな風にフィットしますよ」ときちんと言い添えないと。そこは私たちも大事にしています。

高山
たとえば、具体的にはどんな風に?

高川
お客さまから「でもルンバって部屋の隅っこは掃除できないんでしょ?」と言われたら「はい、ルンバのブラシが届かないところではできません」とまずは正直にお伝えします。

その上で、「でも部屋の隅になぜほこりがたまるかというと、数日に1回だけの掃除だからなんです。毎日ルンバを動かすと、ほこりもたまりませんよ」というお話をする。そういう伝え方をすると、お客さまにもきちんと響きます。

 

メディアとメーカーはプロ同士、チームメンバーの意識を持てばいいものができる

高山
記事広告を出稿する際、広告主として意識していることはありますか?

中村
メディアさん側が過去に手がけた記事広告の事例を持ってきてくださることが多いんですね。もちろんそれらの媒体資料にも目を通しますが、それだけではそのメディアの普段の本当の姿まではわからない。

ですから、雑誌の場合ならその雑誌のほかの編集記事、普通の記事も含めて全体をしっかり読み込んでから、一緒にお仕事させていただくかを判断します。この雑誌の読者さんは本当に私たちの商品を好んでくださるのか? 自社のブランドや商品とメディアの文脈は沿っているのか? という点を選定の際に心がけていますね。

高川
私は「この媒体となら合うかな?」と思ったら、自分でお問い合わせ窓口から連絡を入れて、その媒体の担当者の方にお会いします。それで過去の記事広告を見せていただきながら、「じゃあ、ルンバだったらどんな企画できますかね?」とちょっと強気に打診してみる。

そこで提案された内容が、私たちの伝えたいメッセージとかけ離れていると、「ああ、ちょっと違うな」と判断します。メディアさん側にしてみれば失礼な話かもしれませんが……。

高山
そんなことないですよ。僕たちメディア側からすると、直接プレゼンテーションさせていただく機会があるのは本当にうれしいことです。企画内容だけでなく、数字だと伝えきれない世界観も伝えることができますから。

高川
もうひとつ、私たちは広告主という立場ではありますが、撮影から記事の校正まで、すべてとは無理でもできる限り現場に立ち会っています。メディアさんに任せすぎると、途中から自分たちが意図していない方向性の記事になることもあって……。それは我々の伝えたい価値ではない。ルンバの価値を正しく伝えてもらうためにも、メディアさんにあえてお任せしすぎないようにしています。

中村
丸投げや意見の押し付けって、自分のチームメンバーにはしませんよね? 私たちはメーカーというプロであり、最終的な決定権はクライアントが持つことが多いのですが、メディアさん側は読者を知っているプロでもあり、頼りになるチームメンバーでもある。プロ同士、協力しあうことができれば、いいものが仕上がるはずだと思っています。