強くない経営者でも、めんどくさい上司でもいいじゃない。アイランド株式会社 粟飯原理咲×「北欧、暮らしの道具店」佐藤友子 対談後編

書き手 編集スタッフ 馬居

写真 鍵岡龍門

強くない経営者でも、めんどくさい上司でもいいじゃない。アイランド株式会社 粟飯原理咲×「北欧、暮らしの道具店」佐藤友子 対談後編
「おとりよせネット」「レシピブログ」「朝時間.jp」などを運営するアイランド株式会社代表・粟飯原理咲さんと、「北欧、暮らしの道具店」店長・佐藤友子の対談後編です。

多くの女性をユーザーに持つそれぞれのサービスについて、知見を交換した前編に引き続き、後編では共に「経営者」としての葛藤や喜びなど、その胸の内を語り合いました。

15年に渡りいくつものサービスを先頭を切って運営してきた粟飯原さん。しかし、実際にお会いすると、その雰囲気は意外なほど優しくて柔らかいことに驚きます。今回この後編における様々な話を通して、私たちはその粟飯原さんが醸し出す空気の理由を少し知ることができたように思います。

経営者だから、管理職だから、先輩だからこうあらねばならない……、実はそんな風に凝り固まって考えなくてもいいのかもしれない。私たちは、私たちの大切なことを守りながら、それでも成長していけるかもしれない。そんな希望が垣間見える対談となりました。

チャーミングさの秘訣はなんですか?

「北欧、暮らしの道具店」店長・佐藤友子(以下、佐藤)
今日、すごく私がお聞きしたかったのは、粟飯原さんのチャーミングさの秘訣というか。

粟飯原さんは、15年間先頭を切って様々なサービスを運営された方なので、もちろんシビアな一面もお持ちなのかもしれませんが、でも私が拝見する限り、とにかくすごく柔らかい印象で。私も御社のサービスを楽しむユーザーとして、まさにこんな方が社長さんだったらいいのになって思う方なんです。

「北欧、暮らしの道具店」店長・佐藤友子

アイランド株式会社・取締役社長 粟飯原理咲(以下、粟飯原)
そう思っていただけたなら、とても嬉しいです。

佐藤
私も経営陣の一人として、みんなを引っ張って行かねばと思いながらも、苦手なことも多いですし、私でいいのかなという不安が常にあるんですよね。代表である兄がいるからなんとかやってこれましたが、でも、どこかでもっと強さを鎧のように身につけて頑張らないといけないのかな、と思うことも多くて。

成功されている女性の経営者の方達には、本当に強く見える方達がたくさんいらっしゃると思うんです。

でも同時に、その方らしさとか、パーソナリティを保ったままで責任を追い続けられるんだ、ということを見せてくださる方がいると、すごく勇気がもらえるんです。私にとって粟飯原さんは、そういう方に見えているのです。

粟飯原
ああ、嬉しい。ありがとうございます。

佐藤
そもそも、粟飯原さんはどのような経緯で今の会社を立ち上げられたのですか。

粟飯原
会社を始めたいというよりも、「おとりよせネット」を作りたかったんです。おいしいお取り寄せグルメが集まっているサービスをつくりたいなと。

佐藤
それは、独立前に会社員として勤めてらっしゃる時から構想があったのですか。

粟飯原
伏線はいくつかあって。まず、新卒で入ったのが「NTTコミュニケーションズ」という会社で、最初に配属されたのが担当したのがオンラインショッピングのシステム構築の部門だったんですね。

そこで何をしていたかというと、当時はまだネットがあまり復旧してない時代だったので、会員になってくださった全てのお宅にパソコンを配って。


アイランド株式会社 粟飯原理咲

佐藤
え、すごい!でも確かに、私と粟飯原さんは同じ世代ですし、そういう時代だったことは覚えています。

粟飯原
さらに、CD-ROMを郵送で送って、パソコンにCD-ROMを入れてもらって、ジジジって回線をつないで、やっと注文ができるといったような。まだAmazonも日本に来ていない、楽天もスタートしてない、そんな時代にオンラインショッピングの未来について考える部署にいたんです。

その影響もあって、プライベートでも生活者の視点でオンラインショッピングを考える女性コミュニティを主催してたりして。

佐藤
すごい。

粟飯原
そんな風に、オンラインショッピングがこれから世の中で伸びてくなっていうのをずっと感じていたんです。

そして、もうひとつのきっかけは、NTTコミュニケーションズ時代の同期の仲良し5人で、食べ歩きのメルマガを運営していたんですね。

2000年くらいだったと思いますが、5人で週替わりで自分の好きなレストランを紹介するというメルマガだったんですけど、なぜかすごく話題になって、読者さんが3万人くらいいたんですよ。

佐藤
ええ、すごい数!うちだって、10年やってやっと10万人に到達したくらいですよ。どうやって集めたのですか。

粟飯原
それが、全部口コミなんですよね。ブログも普及していない時代でしたし、珍しかったのかもしれない。本も出すことになって、Amazonでも1位になったりして。そのうち、ケーブルの番組を持たせてもらったりしてたんですよ。

佐藤
趣味なのに、すごい。

粟飯原
本当ですよね。それで、そのメルマガの中に、Q&Aのようなコーナーがあって。取り寄せられる美味しいグルメを教えてください、という質問がたまにきて、答えるとすごく反応があったんですね。ですから、サイト掲示板のような形でお取り寄せコーナーを設けると、盛り上がっていったんです。

そんな二つの流れで、当時はまだ「お取り寄せ」という言葉もなかったのですが、「オンラインショップで美味しいものを買うというジャンルは絶対伸びるぞ!!」というようなことを思っていたんですよね。

それで前職に勤めている時に、「otoriyose.net」というドメインを食べ歩き仲間で取得して、2003年に会社をやめて本格的に始動させることになりました。

喧嘩はする?パートナーとの相性

佐藤
最初はお一人で起業されたのですか。

粟飯原
そうですね。ただ、実際には今のうちの副社長と、今でも「おとりよせネット」のディレクションをやってくれてる女性と3人で始めたんです。

副社長は前の会社の同僚だったんですけど、一緒に読書をテーマにした「Hon-Cafe」というサイトを運営していて。それがとても楽しかったので、他のことも一緒にやりたいね、と話していた時に、おとりよせネットのアイデアを話したところ、いいじゃんいいじゃん、とのってくれて。

でも当時、一緒に勤めていた会社が頑張り時だったので、副社長はすぐには辞められなくて。休日と平日の夜に手伝ってもらうっていうかたちで丸3年。

前の会社の仕事も一区切りついたし、そろそろフルタイムで入社してもらってもお給料を払えるぞ、という感じになったので、2006年頃に正式に入ってくれました。

佐藤
私と兄がクラシコムを作ったころに、副社長が完全ジョインという感じですね。3年できちんと成長されていたのですね。

粟飯原
いえいえ、最初はもうほんとに貧乏すぎて、オフィスを借りれなかったんで、3人で我が家か、副社長の家か、モスバーガーかで仕事をしていました。

佐藤
わかります。私たちも、四畳半だった私の家の一室をオフィスにしていたこともありましたから。でも、今思い出すと、それって最高に楽しかった時代だったんですよね。

粟飯原
そうそう、懐かしいですね。

佐藤
3名はどんな役割分担だったのですか。

粟飯原
私以外の2人はディレクションが得意ですね。副社長と私は、佐藤さんと(クラシコム代表)青木さんに似てると思います。私は佐藤さんと同じ右脳派で、副社長が左脳派。

そのあたりの相性はすごく良いので15年一緒にやれてこれているのかなと。全く喧嘩をしたことがないんですよ。

佐藤
喧嘩をしたことない!そこはうちと違いますね。

粟飯原
まあ、きっとお二人が喧嘩されるのはご兄妹だからですよね。私たち二人も意見を率直にいう方なんですけど、喧嘩にはなりません。すごくウマが合うんでしょうね。

佐藤
そういう相手に、会社の同僚として出会えるって奇跡だと思います。ひとつの運ですよねそれって。

粟飯原
たしかに、私がラッキーだったなと思うのは、経営者は孤独っていいますけど、確かにそういう部分はあるんでしょうけど、副社長がいるのでその孤独をわけあえているところかなと。

佐藤
本音で腹を割って話せることが多いんですね。

粟飯原
多いというより、全方面で腹を割っていますね。お互いの弱いところも強みも全部、もちろん5%くらいは見せない部分はあるんだろうけど、ほぼ話せますね。

佐藤
とはいえ、心が弱くなっちゃったりするタイミングってありますよね。スタッフには見せられないけど、副社長には見せられたり、ということもあるのでしょうか。

粟飯原
軽い愚痴みたいな感じだったら副社長にはいうかもしれないですね。ただ、私はそういうことを、他人にシェアしたいと思わないタイプなのかもしれないです。

佐藤
自分の中で処理をするということですか。

粟飯原
そうですね。そのほうが自分的に楽なのかもしれないです。

目指しているのは「突っ込みやすい上司」

佐藤
粟飯原さんは副社長とも喧嘩をされないということでしたし、垣間見えるスタッフさんとの関係性もとてもフラットで柔らかくて。

でも、経営者だし、代表だし、たくさんのユーザーさんを抱えるサービスの責任者でらっしゃるから重責も当然あるんだと思うのですが、どうやってバランスをとってらっしゃるのか。

粟飯原
いやそれは、私も日々すごく模索していることで。

私自身は、すごくリーダーシップを発揮するようなタイプではないので、いわゆる「女性起業家」という感じというか、私についてきなさい!と言えないのは、コンプレックスでもあります。これでいいのかなって思うことも多いし、決して自分が正解だとも思ってなくて、迷いながら今日まで来たような感じではあります。

でもその中で、心がけていることがあるとすれば、お客さまの投稿で成り立っている私たちのサービスと同じで、社員のみんなにも自由に思ってることを率直にアウトプットしてもらいたいと思っているんです。

だから、みんなが私に意見しやすいようにする、ということは意識してるかもしれないですね。実際、私が会議で言った意見にも、みんな平気で「全然違います!」とか言ってきますよ(笑)

佐藤
最高ですね。意見のしやすさって、どうしたら作れるのでしょう。

粟飯原
実は、私はもともとは没頭体質で、集中して本を読んだり、ものを書いたりすると周囲の物音が全く聞こえなくなるタイプなんですよ。気がついたら何時間も経っていた、みたいな。

それでは、みんなが話しかけられないので、会社では自分が集中する仕事はしないと決めています。打ち合わせやメールチェックはするけど、文章や企画書は一人のときに作ります。席にいるときは、なるべくいつ話しかけられてもいいように、いつでも中断できるようにしています。

もう一つは、これは特別に意識してるわけではありませんが、くだらないことをしゃべるっていう。

佐藤
あー、大事ですね。

粟飯原
ドラマの話とか。

佐藤
雑談ですね。

粟飯原
そうですね。ミーハーな部分の自分が興味をもってることを主にしゃべるというか。

あとは、たとえ社員が、自分や会社に対してネガティブな意見を言ったとしても、一旦は、なるほどこの人はそう思ってるんだな、と聞くようにしています。

私がみんなのために良かれと思ってしたことでも、意外と喜ばれていなかったり、むしろ迷惑がられていることもあったりしますから。

佐藤
私だったら良かれと思ってしたことに「迷惑です」なんて言われたらショックを受けてしまいそう。

粟飯原
ショックは受けますよ。まじで!ガーン!って(笑)。でも、自分の生きてきた文化と、他人の文化は違いますから。異文化との出会いだな、と思うようにしています。まずは冷静に、その人は嫌でも、8割のみんなは嬉しいと思っていることであれば続けた方がいいし、とか。

佐藤
それは、サービスについても同じですか?「粟飯原さん、ユーザーはそんなこと思っていませんよ!」とか進言してくれる部下の方がいらっしゃるんですか。

粟飯原
はい、いっぱいいます。私はわーっとアイデアを出すんですけど、華麗にスルーされたりしますしね。

佐藤
あ、それは私もあります。私がどんなに熱弁していても、みんなそういう時は、「ん?」という顔になって固まるんです。おいおい、君たち顔がおかしいよ、顔に出てるよって。

憧れの経営者のようにはなれないから…

佐藤
粟飯原さんは、経営をされる中でこれは苦手だな、ってことはありますか。

粟飯原
たくさんありますよ。でも一つ挙げるとすれば……、私のやり方って年輪経営だと思うんですね。木の幹の年輪のように、ちょっとずつ歴史を積み重ねて、今日より明日、明日より明後日、気がついたら幹が成長してたというような経営が好きだし得意なんです。でも、逆を言うと、ものすごく大きなビジョンを立ち上げて、今は想像もつかないような夢や未来をメンバーに見せて、そこに引き上げてくという能力は足りないと思います。

佐藤
そこは何かで補完しようとしていますか。

粟飯原
そういうタイプの経営者の方には会いに行ってお話を聞いたりはします。

佐藤
学びにいくんですね。

粟飯原
どうしてそんな思考になれるんだろうとか、どうやっているんだろうとか考えるんです。いつか取り入れられたらいいなって思ってる部分もあるんでしょうね。

佐藤
でも、粟飯原さんが社内で突っ込まれやすいような空気にしておくことで、きっと毎日少しずつ会社はチェンジしていくんでしょうし、そういった蓄積が年輪になって。私が感じていた柔らかな佇まいというものをつくっているのは、その経営方法なのかもしれないですね。

粟飯原
でもそれでいいのかって、自分の中では模索中ではありますけどね。副社長からは、もっと自分が思うことを押し切ってもいいんじゃないの、と言われたりします。それができない弱さがあるわけで。でも、それが良いところにもなったりするから、都度迷いながら。

佐藤
揺れながら

粟飯原
そうですね。揺れながらやっているっていうところはあるかもしれないですね。

部下からのツッコミにうまく答えられない時は…

佐藤
でも、私も同じです。「佐藤さんはやさしいから」って言われるとなんかドキッとしちゃうんですよね。やさしくなんかないよって思うんです。心の中ではいろんなこと考えてるのに。でもそれをびしっと表現できないことがある自分に、すごくコンプレックスがあるんですよ。

粟飯原
そうそう、まさに。

佐藤
実は厳しいことを心の中ではすごく考えてるし、こうすべきだって意思も強いほうだと思うんです。

でも、何かを言われると、その場では「そっかぁ、なるほどね」「そういう意見もあるなぁ」なんて思ってしまって、後からあの時こう言うべきだったなとなる。飲み会でも同じで、帰宅してから咀嚼し直して、夜中とかにあの表情は取るべきじゃなかった、あそこでぴしゃっと言い返すべきだったかもとなってしまうんです。

粟飯原
わーー、もう全く同じです。

佐藤
それでですね、私はそれは肥やさないほうがいいと思っているので、できるだけ時間を空けずにできるだけ最短のタイミングでチャットで「ごめんちょっと話したいことがあるんだけど、今日ちょっと30分くらい時間取れる?」って時間をもらって、昨日飲み会で言ってたあれなんだけどって話したりするんですよ。

粟飯原
すごい!!!

佐藤
スタッフも、えってなりますよね。飲みの席の話するの?みたいなかんじにはなりますけど。私、そういうことが適当に流せないんです。変なところで超真面目になってしまって。

昨日の話なんだけど、もう一度考えたらこう思って、ちゃんとコミュニケーションをとっておかないと誤解が生まれそうだから、もう1回シラフのときにしゃべりたかったわけねみたいな感じで。

粟飯原
それってすごく素敵だと思います。素晴らしい。

佐藤
だからって、飲み会で自由に発言しちゃいけないっていうにはしたくないので、怒るということは絶対にないですけどね。

私が上司としてスタッフとフェアでいるためには、あの一言で私はこう感じたこう考えたよっ、ってことを伝えるべきなのかなと思うんです。

なぜなら、佐藤さんてこういうふうに考えるんだっていうのは、スタッフにとっては、たぶん今後もいい関係で仕事をしていくうえである面においては意味のあるインプットになるかもしれないと。

粟飯原
そんなこと、考えたこともなかったです。

めんどくさいリーダーだと思われてもいい

佐藤
うちは女性がすごく多いので、女性特有のマネジメントなのかもしれないんですが…、というか、私の個人的な話なのかもしれないのですが、いかにスタッフに、私がめんどくさい人だと思われるか、ということを意識してるというか。

粟飯原
おもしろい!

佐藤
なんらか違和感を感じる発言を受けたとしても、そこでは「なるほどねー」とか言いながら、首かしげたまま家に帰っちゃうこともあるタイプだから、首かしげたよってことを必ず相手にフィードバックするっていうことだけは意識して頑張ってるんです(笑)

めんどくさいですよね。わかります。だって、私だって私のことがめんどくさいんです。でも、佐藤さんって、さっぱりしてるよねっていうんじゃなくて、佐藤さんってさっぱりぶって実は超めんどくせえんすよって思われていないと、私のビジネスにかけている本気って伝えられないような気がしていて。

まだ私には、飲み込めたふりをする強さがないから、今の自分の武器はめんどくさい自分なんだ、と嘘をつかずにスタッフにバラすということくらいしかなくて。

粟飯原
でも、それはすごく大事だと思います。そのめんどくさい自分とちゃんと逃げずに向き合うってことですよね。

佐藤
そうなんです!

粟飯原
私は、全然そこまでいけてないんだきっと。よし、私もやろう。

佐藤
私はそういうめんどくさい人間だから、めんどくさいなって思われることを嫌がらないことで責任をとると言いますか……。

でも、私も粟飯原さんがおっしゃった年輪経営じゃないですけど、やっぱり徐々にそのめんどくささに付き合ってくれるスタッフとは信頼関係が築けてるなと思うんですよね。

すぐにピシャッと言い返せない、みんなを強く引っ張れない、そんなコンプレックスはありますが、もうこの年で自分をかえることも大変ですから、諦めた上でどうやって自分らしくチャーミングに経営していこうかなってすごい考えてます。

粟飯原
それ私もエッセンスいただきます。勉強になるなぁ。

佐藤
そんな私こそ、今日はもう粟飯原さんから学ぶことしかなくて。

粟飯原
こちらこそです。今度は、御社に遊びに行かせていただきたい!

佐藤
わあ、いつでも大歓迎です。ぜひぜひ!

 

前編「もっと女性をワクワクさせるために、私たちが今挑戦するべきことは?

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