20年のキャリアから学ぶ「質問力」と「ラジオが教えてくれること」──ニッポン放送アナウンサー 吉田尚記さん【後編】

書き手 長谷川 賢人

写真 千葉 顕弥

20年のキャリアから学ぶ「質問力」と「ラジオが教えてくれること」──ニッポン放送アナウンサー 吉田尚記さん【後編】
ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さんへのインタビュー後編です。前編では、人生に前進力を生む「不安」と「開き直り」の効果などを伺いました

後編では、アナウンサーとして20年のキャリアから得た「質問力」やラジオの効用、さらには日頃から行うメモの習慣まで、さまざまに教わります。

日替わりゲストと生放送。会話が弾む「質問」と「ルール」

──昨日の『ミュ~コミ+プラス』(※吉田尚記さんがメインMCのラジオ番組)は、バンドのジェニーハイがゲストでしたね。

吉田
僕の向かいに新垣隆さんが座って、隣に川谷絵音くんが座っていましたよ。

──出だしで、新垣さんが小声でゆっくりしゃべるのに合わせて、吉田さんも最初は低くて小さな声に合わせていたように感じました。

吉田
その方が面白いかなって。

ラジオはミキサーさんがいて、どんな声の大きさでも放送にちゃんと適するようにしてくれるんですけど、話す上では声の大きさは重要です。人間は「大きな声」と「小さな声」で言えることが違う。同じように「大きな声の人」と「小さな声の人」の会話って、たぶんあり得なくて、音量は同じくらいじゃないと会話にならないんですよね。

で、新垣さんが小さかったんで、僕も小さく出ました。

──空気を合わせていく、みたいなことなんでしょうか。

吉田
そうですね。必ず合わせます。

でも、僕は空気を読む、という言葉が嫌いなんです。あの言葉、意味がわからないですよね。「空気を読めよ」って人を黙らせようとする攻撃的な言葉ですよ。

空気、なんて全然具体的じゃないものを読むなんて、変な言葉です。ちゃんと考えてみると、「空気を読めていない=テンションに大きなズレがあるから」でしかない。ラジオ番組なので最終的にはテンションを上げた方がいいのですが、まずは向こうのテンションに合わせないと。

もし、先にテンションを上げてしまって、相手が低いままだと、単に距離が出来るだけ。でも、一回合わせてからだと、テンションが低い人も高いところまで連れていけるんですよ。

スタートは小声だった新垣さんも、最後は大きな声になっていましたよね。あれはまさに「連れて行った」という事例ですね。

──ゲストが日替わりのようにいらっしゃって、打ち合わせも事前に長くは出来ない中でも会話をしなければいけない。その環境下で、決めているルールはありますか?

吉田
結構ありますよ。たとえば、自分が知っていることを聞かない。茶番っぽくなりますから。

インタビューって、どれほどインタビューを受けている人でも完璧な年表はないはずなんです。必ず項目と項目の間に隙間があり、それを埋める作業がインタビューだと言っていた人がいて。だからこそ、礼儀として可能な限り調べた上で、それでもある隙間の知らないことだけを聞くように決めています。

あと、質問は「なぜ(WHY)より、どうやって(HOW・WAHT)」を聞く。たとえば、登山家に「なぜ山に登るのか?」って聞いても、具体的な話が出ずに面白くなりにくい。でも、「どうやって山に登るのか」は面白いんですよ。「なぜ」が聞きたければ「どういう経緯で山に登り始めたんですか?」と聞けば、HOWの問いになりますよね。

「あなたにとってインタビューとは」って聞かれて、答えられます?

──難しいですね……。

吉田
「ちゃんと話を聞く」って考えると、「ちゃんと」って何?って話になる。基本的には話を続けることだけが重要だと思っています。本当に相手に興味があって、具体的な質問を重ねていけば、重要な話がぽろっと出るんです。

それから、「この人にひとつだけ質問できるとしたら何を聞く?」というのも、よく使う思考法です。聞くことを極限まで絞るんです。

──具体的な話を重ねた上で、そのひとつを聞ければ光るものになるわけですね。

吉田
昔、マライア・キャリーが来日したとき、一社一問に質問が限られていたんです。「マライア・キャリーにひとつだけ質問するとしたら……」って、頭の体操としても結構面白いじゃないですか。僕が考えたのは「好きな日本のアーティストは誰ですか?」でした。

──それは気になります!

吉田
「いない」と答えられたときのために「では、日本のアーティストが海外で知られるためにはどうしたら良いですか?」という質問も考えておきました。実際に来日したとき、さまざまな放送局が集まって代表インタビューになったんですが、僕の質問をほかの番組のオンエアでも多く使ってもらえていました。

言ってみれば、大喜利ですよ。それに「良い質問を思いつかないと!」って思うほど不安になりますから、価値がありますよね。だからこそ、ひとつだけに決めれば良い。しっくりこないときは決めてから困って、もう一回考える。決めて困って、決めて困って……続けていくと、良いものが浮かぶんじゃないですかね。

メモは覚えるためでなく、忘れるためにする

──今教えていただいたようなことの言語化や体系化は、日頃から意識してやられているんですか?それとも昔から考えることが好きだ、とか。

吉田
「考えよう」と思って考えたことはないですね。ただ、あるプログラマーさんに言われたのが、僕は「多考症」だそうです。多動症と同じようなもので、常に考えているんですけれど、努力したり苦労しているわけではない。「だって考えって浮かんじゃうじゃん!」っていうのが先にあります。

どうも考えることにカロリーのかかる人がほとんどらしいのですが、僕からするとあまりよくわからない。常に何かを見れば、何かを連想してしまう。それを「ずっと考えているよね」と言われると、「そうなのかな?」としか思わなくて。

──空気を吸うように何かを考えてしまう。

吉田
今日も渋谷駅でクレーン車が並んでいるのを見て、「そういえば僕が高校生くらいの頃から渋谷って工事していなかった日がないぞ」とか思ったりするんですよ。

「なぜかな?」と思いますが、結論が出ないこともよくあるというか……だいたい結論は出ないんです。そこでは出なくても、ある日に「そういうことか!」って突然わかったりすることもある。だから、結論を求めて考えているわけじゃないんです。考えているだけ。

──目の前の物事から一旦は考えて、ふわふわっとしたものは引き出しにしまっておくと。必要な時に、考えたものを持ってくることもできるんですか?

吉田
それは運次第ですね!思い出せるときもありますが、よく忘れてもいます。僕はスマホにめっちゃメモしますよ。特にスマホを「Galaxy Note8」に替えてからというもの、異常な量の手書きメモを取ってます。

先日、歌手の藍井エイルちゃんがゲストで来たことがあったのですが、先駆けて彼女の日本武道館ライブを見ていたんです。ライブの最中は、当然「藍井エイル」のことをずっと考えていて、メモったりしているわけです。メモがないと、そのときのことなんて絶対覚えていないですよ。「MCが短めだった」とか、「なんだか郷ひろみっぽいって思った」とか。

──郷ひろみっぽい?

吉田
と、僕は思ったんでしょう(笑)。

あと、書くと忘れられるんですよね。書くことの良さは覚えるんじゃなくて、忘れること。忘れたら机が片付くみたいに空きスペースが出来るイメージ。だから覚えておこうとバーッて書いておかないと、その分だけ容量がいっぱいになっちゃって、新しいことを考えられない。メモでストックして、後で思い出せたらラッキーって思うくらい。

──片付けないと次が入らないじゃないか、と。

吉田
僕に関してはそんな感じです。なので、どんどん外に出します。かといって、それはなくなった記憶じゃなくて、机の下とか棚の奥とか、どこかには残っている。手書きメモによくわからない絵が残っていたとして、メモを見るまでは1ミリも覚えてなかったのに、何を描きたかったかをハッと思い出したりしますね。

本は全部、自分に向けて書いている

──その「外に出す」という活動に執筆もあるのではと感じます。いつも吉田さんは著書から「ニッポン放送アナウンサー」の肩書きを外されませんよね。

吉田
アナウンサーを前振りにして生きていると、ちょうど良いんですよね。「アナウンサーなのに」っていうのが、おいしい。これは僕が得たラッキーだから使い倒そうと。

たぶん、アナウンサーという看板は生涯下げないですね。「番組も出ているし、変わった人だけど、たしかにアナウンサーだよね」みたいに活動実績があれば誰にも怒られないでしょうから。辞めない限りはアナウンサーであることは嘘ではないですし、この仕事は体力的な限界で退くような仕事でもありませんから。

──吉田さんの本を拝見していると、どこか僕が10代後半から抱えていたような悩みを解決してくれているように思えたんです。意図して、不安がっている人や若い人に届けようと作っている部分もあるのでしょうか?

吉田
他にそういう人がいるんじゃないかなと思ってはいます。でも、基本的には自分用です。『没頭力』は大学4年生の自分へ。『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』は社会人1年目の自分に向けています。向後千春さんと書いた『アドラー式「しない」子育て』も、まさに子どもを育てている自分用ですね。

──自分用であるものが、もしかしたら同じような誰かに届くかもしれない、という目標の置き方ですか。

吉田
そうでないと、面白さのジャッジが出来ないですもん。「これは絶対に自分だったら超面白いから本として残したい!」みたいな話。僕は自分を凡人だと思っていて、きっと同じような人もいるはずだから、たくさん手に取っていただけるものもあるんでしょうね。

──出版という手段を取るのは、アナウンサーの仕事に加えて、何か新しい道を作りたい意図があったのでしょうか。あるいは、アナウンサーのキャリアのひとつとして、あった方がよいと思ったのか……。

吉田
いや、アナウンサーのキャリアは考えたことがないですね。他のアナウンサーと競争している気が1ミリもないので。いやぁ、ないでしょう!だいたい、何を競争すれば良いのかわかりませんし!(笑)

単純にテンションの上がることを考えた時に、本を出すことが楽しそうだと感じたから、それに向けて頑張った結果です。

──非競争っていう言葉を使うまでもなく。

吉田
非競争って言われますけども、アナウンサーってどう競争するんですかね?

──なんかこう……人気番組を作っていく、とか?

吉田
でも、運じゃないですか?それって。

──出た!運次第のところ……!人気は自ら上手くは……つくれないものか。

吉田
どうなんでしょうね。でも、YouTuberなんて見ていると、「自分たちの人気が出る」と思ってやっていない人ほど、人気が出ている気がしますが。

YouTubeに毎日動画をあげていたら人気が出るはず!とわかってやっていた人なんて、ちょっと前には誰もいなくて、単にYouTubeで本気で面白がっていた人たちが、結果的に人気が出ているんだと思います。

本人がその時に面白いと思えないとテンションが上がりませんし、続きませんからね。

ラジオは「大したことをしなくても、別に良いじゃん」とわかる場所

──20年のラジオ生活で、吉田さんなりに掴んだ「ラジオの良さ」って、どんなことが挙がると思いますか?僕は趣味で音声配信をしていて、ラジオも好きでよく聞きますが、話す側にも聞いている側にも、日常から離れた特殊な効果があるように感じています。

吉田
以前、『嫌われる勇気』の岸見一郎先生と対談させていただいた際に、ラジオについてのしっくりくる話を聞きました。

アドラー心理学で「オープンカウンセリング」という手法があります。たとえば、不登校で悩んでいる親子がいる。一般的な心理学だと1対1で暗い部屋に入り、秘密を打ち明けたりして深層に迫ったりするのですが、オープンカウンセリングではそうしません。不登校の子を一同に集めたら、一人を前に出して、カウンセリングしている様をみんなに見せるんです。

何が起きるかというと、「もう半年は学校に行っていない」と言ったら、どこかから「うちは2年行ってないよ!」なんて人が現れる。そうすると、会場から笑いまで聞こえたりするそうです。

この手法の何が良いかというと、当人から「深刻さ」が落とせるんです。すると、自分の問題はたいしたことないな、と自然に思えてしまう。前に出た人はもちろん、聞いているだけで改善してしまう人もいるそうです。

吉田
同じように、深刻になって物事が解決することなんて、僕はひとつもないと思っています。そう考えると「深刻なラジオ」なんてイヤじゃないですか。

チャップリンは「人生はクローズアップで見ると悲劇だが、ロングショットで見ると喜劇だ」と言葉を残しています。ラジオは瞬間的にはクローズアップなんだけれど、全体の状況としてはロングショットなんですよね。それが、とてもいい感じでして。ラジオをやればやるほど、何も自分が大したことを成し遂げなくたって、別に良いじゃんと思えてくるんです。

大したことがないつもりでやったのに、そういうものこそ世の中に受け入れられたりします。一生懸命やりたいなら、やればいい。でも、一生懸命やったからといって、それに比例して結果が出るわけじゃない。それがラジオだと、よくわかります。

──人生も、ビジネスにも、近いところがあるように感じます。

吉田
そうなんでしょうね。

クラシコムの青木社長にも以前お会いしたことありますけれど、「北欧、暮らしの道具店」だって、今みたいな商売を最初から想定してはいなかったそうですね。それを聞いて、まぁ、そんなものだよね!って、やっぱり思いますもん。

前編:不安なことほど価値がある。「開き直り」こそが人生の前進力

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