不安なことほど価値がある。「開き直り」こそが人生の前進力──ニッポン放送アナウンサー 吉田尚記さん【前編】

書き手 長谷川 賢人

写真 千葉 顕弥

不安なことほど価値がある。「開き直り」こそが人生の前進力──ニッポン放送アナウンサー 吉田尚記さん【前編】
インタビューの前日、午前6時。「外せない割り込み案件」のために開始時間を遅らせてほしいと連絡が入りました。「大丈夫です!」と返すと、当日の朝4時にお返事がありました。いったい、いつ寝ているのでしょう。今回のゲストは、ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さんです。

「よっぴー」の愛称で知られる吉田さん。「実は複数人いるのでは?」ともっぱらのウワサです。月曜日から木曜日まで夜24時スタートの生放送番組『ミュ~コミ+プラス』にはじまり、レギュラーのラジオ番組にテレビ出演、ネットラジオの配信も。雑誌連載を複数抱え、Twitterをマメに投稿し、落語やアニメに関する企画も開催。

ライブ観覧や司会を含めて、年間300回を超すほどのイベントに出没し、さらには『没頭力』や『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』など、これまでに共著を含め8冊の著書も刊行しています。恐れず言えば、どうにも普通じゃないと思えるほどの活動量です。

その著書の一冊に、こんな言葉がありました。

“自分の人生には意味がなかったかもしれない。そう思ってしまうことが、どうやら人にとっては一番怖いことらしい。
 僕たちの人生も、突き詰めていけば同じなんじゃないでしょうか。お金とか出世とかそんなことじゃなくて、「自分の人生に意味はある/あった」という実感はやっぱり誰もが強烈に欲している。(中略)すべての人がそれぞれの個人的戦略で「そこそこじゃない人生」にたどり着くやり方は、絶対にあるはずなんです。”
──石川善樹×吉田尚記『どうすれば幸せになれるか科学的に考えてみた』(p7)


絶対にある、というやり方は、まさに私たちにとっても考えたいことです。忙しい日々の合間をいただいて、吉田尚記さんに聞いてみました。規格外のアナウンサーとしての戦い方をしているように見える、その行動力の源を。

ニッポン放送アナウンサー

吉田尚記

1975年12月12日、東京都銀座生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。
『ミュ〜コミ+プラス』(月〜木曜日24時より放送中)のパーソナリティとして「第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞」を受賞。「マンガ大賞」発起人および選考委員。著書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)が累計13万部(電子書籍を含む)を超えるベストセラーに。近著に『没頭力 「なんかつまらない」を解決する技術 』(太田出版)がある。マンガ、アニメ、アイドル、落語、デジタルガジェットなど、多彩なジャンルに精通しており、年間100本におよぶアニメやアイドルのイベントの司会を担当している。

好きなこと:自転車

ネガティブな感情は「仕向ける」ために使われる

──忙しくて手が回らないとき、どうやって気持ちの折り合いを付けますか?

吉田
それにイライラしないことでしょうね。

相手のいるもので、僕の手が回らなくてイライラさせたらよくないな、とは思いますよ。でも、自分のやりたいことがいっぱいあるだけなら、今やれることをやっていればいい。何月何日までにやらないと腐っちゃうよ、みたいなものから手を動かしていくんです。

──鮮度のある、やりたいことから。

吉田
そうでないものは「いつかやりたいなぁ」と思って、タイミングが来たら動けばいいんです。

例えば、僕は銀座が地元なんですけど、うちの昭和2年生まれのばあちゃんは、生まれてから亡くなるまで銀座に住み続けて、書き残した物が結構あるんです。貴重なこれを整理して世の中へ出すのは、孫たる僕がたぶんやったほうがいい。ばあちゃんが何を考えていたのか、文脈の裏に潜むことも他人よりわかるはずじゃないですか。

なので、いつかはやろうと思っているけれど、今はまるで手がつけられる状況じゃない。体が空いたらマガジンハウスさんみたいな銀座にある出版社さんと組みたいな、ぐらいの気持ちはありますが……それも「ぐらい」ですよ。

──できないことについて、自分を責めたりしませんか?

吉田
どうするんですか?責めて。

──……どうするんだろう。

吉田
僕の考え方は、18歳ぐらいのときに出合ったアドラー心理学がベースです。かつて『LOGiN』なるパソコン雑誌があって、パソコンに関係ないことも山のように載っていたんですが、鹿野司さんという科学ライターさんの『オールザットウルトラ科学』というコラムに「僕はアドラー心理学が最も科学的だと思う」と書かれていました。

たとえば、さまざまな心理学では「乳幼児の心の中はこんなふうになっている」と語るけれど、アドラー心理学は「乳幼児の心の中では何が起きているかわからない。なぜなら、しゃべらないからだ」と。たしかに科学的だと思って、日本におけるアドラー心理学者の草分けである野田俊作さんの本を知り、読んでみたら爆発的に面白かったんです。

アドラー心理学では「自分の中に葛藤はない」とよく言います。右手と左手でジャンケンができないように、「自分で自分を責める」なんて出来ますか?

──うーん。内罰的という言葉はありますね。

吉田
あります。でも、その意味が僕にはわからないんですね……自分のことを好き嫌いで語る感覚も、あまり理解はできないかなぁ。仮に「私なんか」みたいなことを言ったとしても、きっと「そうじゃないよ」と声をかけてほしいのだろうと思いますし。

またもアドラー心理学を引きますが、ネガティブ感情は基本的に「人に言うことを聞かせる」ために使われるんですよ。

──座り込んだ子どもに「立ちなさい!」とか。怒りには人を仕向ける作用があると。

吉田
怒りも、あるいは不安もそうです。ちなみに、悲しみは過去に対する感情、怒りは現在に対する感情、不安は未来に対する感情といわれます。ネガティブ感情としてはすべて同じ物だと考えるんですが、「人は言うことを聞かない」と心の底から思っていれば、ネガティブ感情って、ほぼ湧かないんです。

それで、怒りや不安を敬遠していたら、「結局は運の良し悪しだな」と腹落ちしてしまったんですよね。『ツイッターノミクス』の著者であるタラ・ハントは「数々のIT企業や成功者を取材して、ひとつわかったことがある。共通しているのは、そこにいたってことだ」と言っていましたが。

──ははははっ!痛快ですね。

吉田
世の中、だいたいは運がほぼ全てだというふうに思うと、基本的には不安も何もないですよね。それを実力だなんて、まるで思わないです。

僕にとってはラジオも、今は楽しくてやりたいことですけれど、会社から指名されて「そこにいたから」で、業務としてもやるしかないものです。僕が世界で一番しゃべるのがうまいからやっているなんて全く思っていない。だから、めちゃくちゃラッキー!っていう一点に尽きるかなぁ。

それに僕は24時間、没頭できるのをいっぱい持っているんで、そういう意味でも不安はないです。

不安こそ大切に。最大の価値ある行動は「開き直り」

──ラジオアナウンサー以外にも、イベントMCなどのお仕事も精力的ですが、別のインタビューによれば「声がかかったから出ている」というのがほとんどだそうですね。

吉田
いわゆる営業はしていませんね。基本的には「面白そうだからやろう!」と思うし、スケジュールさえ空いていればお受けします。ぼーっとしているよりも行った方が絶対に楽しいし、お客さんでいるよりも司会をしていた方がさらに楽しいですから。

──断ることはないんですか。イベントの規模が小さいとか、マイナーすぎるとか。

吉田
基本はスケジュール以外で断ったことはないです。だって、せっかく呼んでくれたのに断る理由がなくないですか?全然行きますよ。「アニメソングでDJしてくれ」っていうオファーにも応えてますもん。

むしろ、知らないもの、不得意そうなことに呼ばれたらラッキーですよね。僕にはなぜかわからないけれど、向こうには呼ぶ理由があるらしい。わからないけれど、死にはしないでしょ、と思って行く。

──たしかに実際、死にはしません。

吉田
そうすると「ジェットコースターに乗るからと言われて来たけど、さらに乗りながら蕎麦打ちしろって話になってる!」とかになっても、相手は「できる」と思ったから僕を呼んでいるはずですよね。それならやってみましょうと。結果的に「できた気がする」くらいでも、僕はチャレンジになってドキドキしたからいいかな、という感じ。

──なるほど。勝手にハードルを上げたりせず、不安も楽しんでしまうのですね。

吉田
不安って、実は重要なテーマなんです。なぜなら、価値のないものに不安は感じないから。

たとえば、多くの子どもはコミュニケーションに対して価値を認めていないから緊張しないんですよ。でも、「この人に嫌われたらどうしよう」なんて思うから不安になったり、緊張したりするわけじゃないですか。

少し話は逸れますが、僕はコミュニケーションの目的はコミュニケーションだと考えています。コミュニケーションが成立することによって気持ちよくなればそれでいい。「雑談でお金も人脈も引き寄せる!」みたいなことって、そんなんじゃないだろ!と僕は思うんです(笑)。

『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』にも書きましたが、目的達成型ではなく、コミュニケーションそのものに価値があると思っていたほうがいいじゃないかと。

──お金は結果として出てくる副産物ですものね。

吉田
本当にそう!計算できるわけがない。

話を戻すと、僕にとって価値がある……というか、「脳が喜ぶ人生」とは、不安なところに突っ込む以外ないだろうというだけなんです。僕は脳が気持ちよくなることしか考えていないですから。

誰もいない何千メートル級の雪山をスキーで滑降する、というエクストリームスポーツがあります。このスポーツが始まった頃はヘリコプターで雪山の頂上に赴いて、降りてきていました。集中しないと死ぬから、降りるときには極度の集中状態に入っている。没頭です。「ゾーンに入る」という言い方もしますね。

次に彼らは、スキーを担いで自分の足で雪山を登って、頂上へ行くようにしたんですって。なぜなら、そうすれば降り始める前に、すでにゾーンへ入っているから。「なぜ雪山を登るのか」と問われても、ただゾーンに入るためだけなんですよ。

「できない!」と思えるけど「やりたい!」ことを実行する。そうすると世間体とか他人と比べてすごいとか、全て関係なくなります。

──価値ある不安からゾーンへ入ることに主眼を置けば、他の物事にとらわれなくなり、必然的に競争にもならなそうです。

吉田
「したいようにすればいい」ってことですよね。

「したいことをする人生」なんてよく言われますが、それを「楽なことをする人生」だと捉えている人が多いと思うんです。でも、そうじゃない。「したいことをする」という目標を一段階ブレイクダウンすると、おそらくは「不安なことへ突っ込んでいく」になるのではないでしょうか。だからこそ、まさに不安なものほど価値がある。

不安なところへ突っ込んでいくために必要なのは「開き直り」しかありません。『没頭力』でも書きましたが、没頭のステップは「不安→開き直り→没頭」なんです。

不安と没頭が自然と訪れるのに対して、「開き直り」だけが行動なので、自分でコントロールできる。だから、人生で最も価値のある行動は開き直りです。目をつぶって跳ぶ、その開き直りこそが前進力になる。

以前に『嫌われる勇気』を書かれた岸見一郎先生が、「不安とは決めていないということである」とおっしゃっていました。決めると、不安ではなく「困る」になるんですよ。つまり、開き直りを別の言い方で表すなら「決める」です。

何でも良いので決めてしまう。決めてダメだと思ったら、決め直せば良い。だから、まずは決めましょうということですね。

本当にやりたい選択肢は、不安なのに消せないこと

──「これに決めて良いのかな?」みたいな迷いには、どう対応しましょう。

吉田
人間って選択肢が4つまでなら「自由度が上がる」と感じるらしいんですけど、それを超えると多すぎて、自由どころか面倒くさいと捉えるそうですよ。

──となると、まずは4つ以下に絞らないとですね。

吉田
まぁ、それほど慎重にやるならばですが……その後の選ぶ基準は「お金が儲かる」とか色々あるんでしょうけども、僕としては「最もワクワクするものに決める」しかないんじゃないかと思います。

──先ほどの話でいくと、最も不安が大きいものとも言えますか?

吉田
不安の大きいものに決めれば、ワクワクしますよね!不安なのに選択肢から消えないというのは、つまりは本当にやりたいことだからです。

──しかも、不安に突っ込んでいくと、必然的に活動領域も広がっていく。吉田さんが異なるフィールドで活躍する理由が垣間見えました。片や、世の中には「安定を求める」なんていうフレーズもありますが……。

吉田
安定なんかしないですって!(笑)

たとえば、終身雇用という言葉もありますが、まるでみんなが当たり前のように信じている様にも思えます。が、終身雇用として勤め上げた人は全体の何パーセントいるのかと。僕はニッポン放送に入社して20年経ちますが、同期は10人いましたけれど、今も残っているのは3人もいません。

この世のどこにも安定なんてないですよ。ふいに病気になられる方とか、会社がなくなってしまう方もいるわけで……「なんで安定なぞあると思う!」っていう話ですね。

──基本的に不安定なんだから、そのまま受け止めればいい。

吉田
それに安定させようとすると、「守りに入った、能動的になれない不安」が生まれません?地震が起きたらどうしようとか。

没頭は、まさにジェットコースター

──不安へ突っ込むことに加え、吉田さんはご著書で「ご機嫌に生きる」ことの価値を話されています。身に起きることを運の良し悪しでしか判断できないなら、ご機嫌でいたほうが良くなる確率も高まるからなのかな、と感じました。

吉田
それほど目的達成的でもないんですけどね。単に「脳のモード」があるじゃないですか。それが常に「やる気があって楽しい」となっていればいいわけです。

そのために、一回は不安を経由する必要がある。結果が保障されていないところに飛び込むからワクワクするわけですし。その時に、死なない保険だけかかっていれば良いかなと。

──『没頭力』で「やらなきゃ死ぬという感覚は最高の開き直りポイント」だと書かれています。そこでは先ほどのようにエクストリームスポーツの例を挙げていますが、吉田さんはどういうシチュエーションで開き直れたんですか。

吉田
生放送ですね。だって、ブースに入ると僕以外にしゃべる人はいないんですよ!それはやらなきゃいけない……というのを繰り返しているうちに、「あぁ、死なないんだな」って。ある時から、論理的に理解するわけではなく、その実感だけが確かに残ったんです。

吉田
先日、NHKの『ためしてガッテン』でディレクターをなさっていた北折一さんという面白い人に話を聞いていたのですが、「ディレクターとは紐があったら引っ張る人」だと言うんです。引っ張ると、何が起きるかわからない。その時に最悪のことが起きる可能性もある。それでも引っ張るのがディレクターだ、と。

でも、たとえ紐を引っ張っても起きるリスクはたかが知れていて、それほど酷いことは起きないと思っているのが重要なんですね。『心配事の9割は起こらない』という本もありますけど、事実、起きないものですよ。僕らの心配事って、論理的じゃないんです。

──たとえば、ジェットコースターほど危なそうな乗り物はないけど、事故が起きないから今日も運転しているわけですものね。

吉田
ジェットコースターはまさに「没頭」を生む乗り物のひとつです。明白に不安じゃないですか。猛スピードで降りる瞬間なんて有無を言わさずに他のことを考えていられない。でも、降りてきたときはみんな憑きものが落ちたように笑顔ですよね。「没頭力」の観点からすると、ジェットコースターは没頭マシーンですね。世の中でニーズがあるのもうなずけます。

──そうすると、ある種、吉田さんはジェットコースターからジェットコースターへ乗り継いでいるような日々なんですか?

吉田
結果的にそういうことになりますね。このジェットコースターに乗らされたのはアナウンサーになったせいですよ!はじめは怖くて嫌でしょうがなかったけど、乗り続けているうちにだいぶ慣れてきて、「ジェットコースターは面白いな!」と思える状態になった。

それに、ジェットコースターも乗り続けていると慣れてくるので、「ジェットコースターに乗っている上司のかつらを落っこちないように押さえ続けるまでが面白い」みたいな感じに今なっている。「何ならもう一個乗っけてみる?」と、チャレンジしないとドキドキしないんで。

 

さらに後編では、アナウンサーとして20年のキャリアから得た「質問力」、ラジオの効用などをお話いただいきました。
後編:20年のキャリアから学ぶ「質問力」と「ラジオが教えてくれること」

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