マッチョな競争から降り、「コーポレートブランディング」を楽しむと何が起きるか?──hey 佐藤裕介×クラシコム 青木耕平対談 前編

書き手 長谷川 賢人

写真 佐々木孝憲

マッチョな競争から降り、「コーポレートブランディング」を楽しむと何が起きるか?──hey 佐藤裕介×クラシコム 青木耕平対談 前編
いま、クラシコムの代表青木が「入社したい」と口にする会社。それがヘイ株式会社(以下、hey)です。

「キャッシュレス決済サービス」であるCoineyを手がけるコイニー社と、「オンラインストア開設/運営サービス」のSTORES.jpを運営するストアーズ・ドット・ジェーピー社が経営統合して生まれた新会社。両者ともに中小事業者、個人の商売を後押しするサービスを手がけるだけに、「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムにとっても注目の存在でした。

そして、代表青木が並々ならぬ興味を抱いたのは、heyのコーポレートブランディングの手法にありました。サービスとしてはBtoBに属するheyの事業ですが、むしろブランディングはBtoCかのような、明るくて楽しいもの。経営統合のお知らせでは、経営陣がアロハシャツを着込んで挨拶する写真が話題になりました。

その他、hey自らもオンラインストアを開設し、自社のロゴが入ったTシャツやアロハシャツなどを展開。アパレルブランドさながらの商品が並びます。いかにして、コーポレートブランディングの方向性を、現在のような形にしていったのか。その考えに触れるべく、hey代表取締役社長の佐藤裕介さんに会いに行きました。

ヘイ株式会社 代表取締役社長

佐藤裕介

2008年、Googleに入社し、広告製品を担当。2010年末、COOとしてフリークアウトの創業に参画。また、株式会社イグニスにも取締役として参画し、2014年6月にはフリークアウト、イグニス共にマザーズ上場。2017年1月、フリークアウト・ホールディングス共同代表に就任。エンジェル投資家としても活動。

好きなもの:にぼしとアンチョビ

中古品ビジネスはすべてを教えてくれる

クラシコム・青木耕平(以下、青木)
佐藤さんは中古品の買い取りと販売のECをやられていた時期があるそうですね。しかも、年商数億ほどになったと。

hey・佐藤(以下、佐藤)
2005年からの4年ほどです。僕は地元が神戸だったのもあって、ベンチャーな世界観でもなく、中小企業みたいな感じでしたね。

青木
どうして中古品を商材に?

佐藤
元々は趣味で集めているあるものを買い換えるときに、メンテナンスをしてから「ヤフオク!」で売りに出してみたら、すぐに買い手がついたんです。僕は商品の小傷を修復したり汚れを落とすのが上手だったのもあって、新品のように磨いてから出品すると値段に倍くらい差が出ました。

友達に頼まれたパーツも売りに出すようになって、そのうち友達の友達といった人間関係としては遠い人からもお願いされるようになってきたので、「手間賃だけもらいますね」みたいに始めていったら、毎月コンスタントに売れていったんです。

需要を感じたのでウェブサイトをつくり、オンライン査定もはじめました。アトリエ兼倉庫みたいなところを借り、仕入れをしてはメンテナンスを施して売るようになったんです。

青木
あぁ、佐藤さんもそうなんだ!と驚きなのですが、中古品ビジネスの経験で「商売観」が養われて、その後もビジネスパーソンとして立っていく人が多いなと最近思っていて。

先日、古本買取販売サイトの「バリューブックス」を創業した中村大樹さんとも対談させていただいたのですが、その成り立ちはブックオフで買って、Amazonで売るというサイクルでした。いわゆる「せどり」ですね。実は僕も家族を養うためにせどりをしていた過去があり、その後に北欧のヴィンテージ食器を仕入れて売ったのが「北欧、暮らしの道具店」の始まりなんです。

それこそ、heyの取締役をされている光本勇介さんも、裏原系ファッションのせどりをやっていたことがあると、以前にお聞きしました。

佐藤
中古品ビジネスは在庫やキャッシュフローの概念が出てきますし、ビジネスの基本かつ必要なファクターが大体入っているんですよね。たとえば、「売れているのにお金がない」といった現象にちゃんと出会って学べるからわかりやすい。

青木
そうそう。中古品ビジネスにおいて売り上げのトップラインを押さえるのって、実は供給だったりするじゃないですか。そして、ほとんどのビジネスで売り上げが伸びないのは、意外と供給に問題があることが多い。その意味が中古ビジネスを経ると、体感的にわかるんですよね。

佐藤
消費者の立場から見ると、売り手と買い手の間にある関係値のみに目がいっちゃって、その裏のサプライチェーンには想像が及びづらいからでしょうか。僕も中古ビジネスを始めてから「この仕事は買い取れれば売れるんだ」と気づきました。自分が考えていたことと真逆だったから、そのときは結構ショックで。

青木
商売が初めての人って、やっぱり需要サイドのことばかりに頭を使ってしまうものなんですよね。

今日、最初にこの話をしたのは、佐藤さんが手がけている仕事も、もしかしたらほとんどのビジネスにおいても、強化すべきはデマンドサイドではなくサプライサイドではないかと思ったからなんです。

サプライサイドで肝心なのは「人材の確保」じゃないですか。良い人材が必要な数だけ採用できれば「勝てる構造」はあり得る。そして、「勝てる構造」のプロダクトになるためには、あるいはそういったプロダクトで在り続けるには、どうしても人材の供給が必要。なおかつ人材は一定数が出ていくものですから、「人材が入り続ける仕組み」も重要になってきます。

そういう意味では、heyがとても上手だと感じる「コーポレートブランディング」は、世の中的にはデマンドサイドの寄与に見えるけれど、実はサプライサイドを強化する取り組みなんだろうと。特にBtoB型のビジネスに対しては、その効果が大きいと思っています。

佐藤
そうですね、大きいです。

「僕はなぜか、入りたいんですよ、heyに」

青木
そのあたりを見ていくときに、佐藤さんに聞いてみたかったことがあるんです。「heyというビジネスは何をするつもりなのか?」と。正直、今をもってもよくわからない。現状としてコイニーとSTORES.jpを統合しようという世界観はわかるけれど、「その先に何を考えているか」は、意識的にそれほど明らかにされてないのではないでしょうか。

でも、僕はなぜか入りたいんですよ、heyに(笑)。これ、すごい不思議だなぁと思っていて。「北欧、暮らしの道具店」では「何年も前から買いたいと思っていました」というメールをいただくことがあります。「買いたい物がないのに、買いたいという気持ちが先に起こっている」状態なわけですね。

つまり、「heyが何をするかもわからないのに入りたい」「この店は買いたい物がないんだれけど買いたい」という状況を作ることが、ブランディングなんだろうと思うんです。そこでまずは、経営陣がアロハシャツで現れたお写真はもちろん、どういった経緯で今に至っているのかをお聞かせいただけますか。


heyのコーポレートサイト「会社情報」には経営陣がアロハシャツで登場

佐藤
まず、コイニーとSTORES.jpの事業は、わりと成熟している市場にあります。前者は北米にSquareがいて、後者にはカナダのShopifyがいたりする。マーケットとして10年近い歴史があって、コイニーとSTORES.jpもサービスインして5年以上経っています。そうなると市場での不確実性はそれほど高くなりません。需要はもうわかっていて、ユーザーにもっと喜んでもらう体験や必要な機能をつくるための明確なロードマップが見えていたんですね。

そこを僕がリードしていく立場になったとき、一番にやらないといけないことは、計画を実行し、高い品質で提供して、お客様に喜んでもらえるものをスピーディーに作るチームを築くこと。そして、そのチームをつくるための財務基盤をしっかりさせることでした。

現在のマーケット環境から、僕らのことを気にしてくれそうな方々と、どのように関係を築くべきかを考えると、もっと友達みたいに始めようと思ったんです。求職者とのつながりとして「会社の行く末」や「ビジョン」が重要と言われますし、たしかに実際そうなのですが、そもそも長期のキャリア計画や夢を聞いて友達になることって、あんまりないじゃないですか(笑)。

「なんとなくこの人が気になる」とか「応援したい」とか……「ちょっと気になる」くらいかもしれない。もっとファジーなんですよね。しかも、現在の競争環境の中でいうと、マッチョなコンペンゼーション(代償)は分が悪い。過剰に高待遇を用意したり、壮大な夢を語ったりする方法は非常に混み合っていますから。

青木
たしかに混みあってますよねぇ……。

佐藤
僕は元々の性格からいってもマッチョなタイプじゃないですし、そこで競争するメリットも特段感じなかった。そういう競争から出来るだけ降りて、経営統合するタイミングで「heyがなんとなく気になる、なんか応援したい、なんか好き」という気持ちを抱いてくれる人との関係を、このマーケットで作れるかということにトライしたかったんです。

だから、出来るだけチャーミングな会社に見えるようにしたいし、実際の社員もチャーミングな人たちで溢れるような会社に出来ると良いな、と。僕の目線では、経営陣の佐俣(奈緒子)や塚原(文奈)、それに光本もすごくチャーミング。

見た目も可愛らしいけれど、一生懸命で誠実だからこそ抜けているものがあったりして、それを手助けしたくなったり、役に立てることがあるといいなと思える。単純に生き物として見ていて面白いですし(笑)。そういった可愛らしさが、経営としても乗ってくるようにしたかったんです。

会社の外側からの見え方を一定の方向に位置づけて、ある意味で演出している部分もあります。

ブランディングのDay1は、とにかく楽しそうに仕事をすること

青木
なるほどなぁ。

コーポレートブランディングをしていく上で、クリエイティブが必要になりますよね。heyは社名含めて、僕はすごく好きです。

それで、そのあたりを決めていくときには2つの軸のいずれかから考えていくと思うんです。「どう見せたいのか」あるいは「自分たちがどういうものであるか」です。heyの場合は、先ほどのお話にあった、もともとの「チャーミングさ」をある程度ソフィスケートして、世の中に伝えたいみたいな感じだったんでしょうか?

佐藤
そうですね、出発点は自分たちにあります。

自分たちの中にないものを持続的に表現し続けることは、やっぱり無理が出ますよね。僕らの事業は3年くらいで世の中がアッと変わることをやるというよりは、しっかり長い時間をかけて育てていくものという認識があります。そう考えると時間軸に耐えうる強度がいる。そのためには、自分たちをグッと掘り下げた時に出てくるものを出した方がいいな、と。

僕も含めた経営陣はみんな似ているところがあるんです。それは「友達と仕事をしたい」という欲求への優先度が高いこと。世の中を変えるよりも、そっちの方が高いんです。青木さんの世代なら知っているかもしれませんが、裏原宿にNIGOさんとジョニオさんがつくった古着屋があって。その記事を中学生くらいのときに読んで、「友達と仕事をする」ことってアリなんだと衝撃を受けたんです。

青木
あぁ、超憧れました。REVOLVER(リボルバー)とかね。

佐藤
そうなんですよ。友達の輪でコラボレーションして仕事の幅が広がっていき、みんなを驚かすことが出来るっていう多様なフォーマットも、めっちゃすごいと思った。友達とそんなふうに仕事をエンジョイするのがオッケーなルール、反則だ!と(笑)。

青木
僕も20代の前半くらいの頃に音楽をやっていて、今は一緒にクラシコムをやっている妹とバンドを組んでいたんですね。でも、潮時を感じて離れていきそうな時に、「こいつらと稼げたら一生こんな感じでやれるじゃん」って思ったのが、僕が起業を志したふわっとした動機で。もしかしたら僕も友達と……というより「良いチーム」でずっとキャッキャとやりたいって気持ちは大きいかも。

佐藤
それこそheyの成り立ちも、それぞれの会社が事業を育てて、お客さんとの良い関係をすでに築けているのはもちろん、それ以上に経営陣との「なんかやりたい」という気持ちが発端だったかもしれません。統合前から「一緒に何かやったら面白いんじゃないか?」とチャットベースで話がどんどん進んで、「本当に具体化してきたけど、なんかすごいかもね」となって。

青木
「おいおい、本当にやるのか?」みたいな!(笑)

佐藤
思い返すと、チャット内に「雰囲気」って言葉をよく入れていたんです。「我々は雰囲気で統合します」くらいに。それぞれの価値基準や存在意義はあれど、そういう動機から始まっていて。

そこから「今の自分たちがやっていること」と「これからやりたいこと」を再定義しようと3ヶ月くらいかけて揉んだんです。結果として、友達や家族といったスモールチームで商売を楽しく続けられるインフラをお客様に提供していこうと定まりました。これは自分たちがチームを作ったときの感覚や、提供していく価値とも実はすごくリンクしています。自分たちも家族や友達といった近い関係値を持って働きたいと思っていたから、外部のパートナーや採用ターゲットになるような方々との関係も、同じようにできたらと思ったんです。

青木
いやぁ、話してみると、繋がりますね。

「ブランディングのDay1は何が大事なんですか?」と聞かれたとき、僕はいつも「自分たちがキャッキャと楽しくやることだ!」と返しています。ブランド構築において大切なのは「仲間になりたい」という気持ちだから、自分たちが楽しくないものに惹かれたりしませんからね。『トム・ソーヤの冒険』に出てくるペンキ塗りの逸話が、まさにそうです。

heyもチャットの「良い雰囲気」から始まって、同じノリをお客さんに提供したいという筋がつながったときに魅力ある原型ができていたんだなぁ、と。

なぜheyは、アロハシャツを着るだけでなく「作った」のか?

佐藤
もしもheyを応援したいと思ってくださった人がいたとき、「社員になる」のはハードルが高いので、ゆるやかにつながれる象徴が欲しいと考えたんです。クラシコムさんなら「提示しているスタイルや価値観」だと思いますが、その身近なものの一つがアパレルだろうと。

僕らもサービスを使ってくださるお客さんと横に並んで、同じ風景を見るようにサービスを作れたらと思って、最近は頑張ってオリジナルのアロハシャツまで制作しました。

青木
すごいですよね!しかも値段がまずまず高い!(笑)

佐藤
そうなんですよね……下代が結構してしまって。

青木
あれは驚きました。まず、ブランディングのクリエイティブにグッズじゃなくてアパレルを使った事例が思いつかなかったんです。自社Tシャツを作っている会社は数あれど、それらとは違って見えました。しかも、僕の目からすると非常にうまくいっている。そのままアパレルブランドの事業部が社内に立ち上がっちゃうんじゃないかな?って感じもするくらいで。

佐藤
本当に、それこそ「キャッキャと楽しくやっている」っていう感じです。

僕らはheyのグッズを用意しているというよりは、自分たちのブランドとコミュニティを作りたいんですね。そう考えると、適当なボディのTシャツに、すぐ剥がれそうなプリントを施して終わりのグッズ……というようにはしたくなくて。

青木
プラットフォームの運営会社でありながら、まさにアパレルブランドをサイドビジネス的に走らせていますよね。その活動は、ユーザーにとっても親近感を持ちやすそうです。

佐藤
STORES.jpでショップを開設するアパレルストアやクリエイターの方々は、作り方や売り方が一般的なブランドとは結構違うんです。ほぼファンビジネスなので、エンゲージメントで商品を販売してらっしゃるんですよ。

だから同じように、僕らも納得できる品質のものを、単価をことさら下げずに設定しています。heyのTシャツは5千円、アロハシャツは2万5千円もするんです。

青木
あれ、でもアロハシャツ、売り切れてませんでした?

佐藤
はい。すぐ完売しました。すごいですよね、僕のSNSアカウントで販売を告知したんですけど、買ったうちの半数以上は「フォロワーだけれど知らない人」でした。

STORES.jpのようにファンへのエンゲージメントで売ることと、Amazonみたいに効率・効能で売ることって全然違うので、サプライチェーンやロジスティクスも、僕らのお客さんが欲しがるものにしていきたいです。

配送ひとつとっても、スピードは「一番」重要ではない。明日届ける必要はない代わりに、もっと好きになれる要素を付けたいですね。倉庫サービスも新しくリリースしたのですが、梱包材をブランドオリジナルのものを使えるとか、ちゃんと手紙を同梱できる余地があるとか。それが「当日配送」とはちがって、1週間かかっても次にリピートする機会になるので。

自分たちが本気でアパレル事業部を作るかはわからないですけれど、少なくともそれが出来るだけの隣接する機能をちゃんと作っていくのは、むしろ僕らの今の計画においては、ど真ん中の部分ですね。

青木
なるほど!heyの服作りは、コーポレートブランディングの取り組みを通じたスタディでもあり、事業企画でもあるっていうことなんですね。

佐藤
そうそう、そういうことなんです。

 

さらに具体的なビジネスへの話を深めた後編「美しくて愛される、今こそビジネスの「ロマン主義」が復権する!」もぜひご覧ください。

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