シュリンクする市場だからこそ事業の完成度を追求できる。バリューブックス 中村大樹×クラシコム 青木耕平対談 後編

書き手 編集スタッフ 馬居

写真 小林直博

シュリンクする市場だからこそ事業の完成度を追求できる。バリューブックス 中村大樹×クラシコム 青木耕平対談 後編
古本の「せどり」で生計を立てていた、バリューブックス ・中村大樹さんと、クラシコム・青木による「元せどラー」対談後編です。

前編ではお互いが1人で古本屋を巡っていた日々から、どのように事業を大きくしていったのかを話しました。後編は、共にインターネットでものを売るにあたっての制約や、世の中の変化への対応から、事業の展望についての議論を深めました。

対談場所は、長野県上田市でバリューブックスが運営するブックカフェ「NABO」です。

Amazonの変更で危機に陥ったことはありませんか?

クラシコム・青木(以下、青木)
バリューブックスさんは、過去に大きな危機はありましたか。事業としては安定して大きくなっているイメージですが、例えば流通面ではメール便が廃止になったことがありました。基本的に販売はAmazonとのことなので、出店に関するレギュレーションの変化も、大きなインパクトを与えるのかなと思うのですが。

バリューブックス ・中村(以下、中村)
そうですね。僕らの事業は、Amazonと運送屋さんに依存している状態なので、そこのルール変更は、それこそ何億円のコストアップというようなこともあって。やばいなーってなることはあります。

でも、案外大丈夫なんだなって思うんですよね。だって、僕らだけじゃなくて、競合もみんなコストが上がるわけですし。

世界で戦うものすごい規模の競合が出てきて、採算度外視でシェアを奪われていったら困りますけど、今いるプレイヤーでそんなにハチャメチャなことをするような規模の会社はないと思いますし。こっちのコストが上がれば、あっちも上げざるを得ない。そういう風にバランスがとれるのかなって今は思ってます。

青木
まあ、僕らもなんやかんやプラットフォームに依存した事業なので気持ちはわかります。

お客様に商品を手渡すにも、宅配便っていうプラットフォームを使わないといけないし、サイトに来てもらうにはSNSや検索エンジンなどを活用する。完全に自治権を持っていることはないんですね。

SNSは基本的に各サービスのレギュレーションの変更で、いかようにもコントロールされるし、検索のルールも同じですね。メルマガが一番自治権があるかなと思いますけど、それも一時期、携帯キャリアのメールアドレスは、パソコンから送ると拒否されてしまって困りましたし。

そういう意味では、支配されていないものがない中でのビジネスなので、常にレギュレーションに揺れ動いて、今があるんですけど。

でも確かに、毎回きついなと思いながらも、喉元過ぎればじゃないけど、その時はわちゃわちゃしても結局は大丈夫だったね、みたいなところに落ち着きついてます。

結局、わちゃわちゃするばかりで、何をしたのかあまり覚えてないんですけど(笑)。

中村
まあ、10年くらいやって、やっとそう思えるようになってきましたけどね。その時々は、やべーってなりました。

青木
なりますよね。

中村
ただ、古本を世の中の人が買わなくなってきたとか、壊滅的に需要が減ってきているわけでもない。業界のポジションとしては変わらないし、多少コスト構造が変わったからといっても大丈夫なんじゃないかって思うようになってきたんですよね。

僕らは、長野に倉庫があるし、たくさんの従業員がいるから、そこそこ高いといってもらえるような買取ができて、かつ、年間を通して安定して迅速に対応ができる。そんなコアな強みは変わらなくて。

例えば、何かのコストが上がって、古本市場が少し小さくなってしまったときに、僕らがその市場の端っこにいるなら潰れてしまうかもしれないけど、実際は市場のトップとは言わないけど、中心あたりにいるから大丈夫だろう、くらいの気持ちにはなってきましたね。

トップ走者じゃないからの安定感

青木
各カテゴリの上位20%に入っていれば大丈夫、というのはなんとなく思ってて。国が滅びるレベルの何かがあっても、上位20%くらいの人が滅びるということは歴史上にもあまりないっていう。トップになるのは大変でも、上位20%くらいには入っていれば、まあ大丈夫みたいな。

中村
逆にトップじゃないという安心感もありますね。

トップって市場のシュリンクをダイレクトに受けるじゃないですか。古本市場だと、ブックオフさんという圧倒的なトップがいますから、うちなんて、まあ、別に大したことないって。古本市場が10%減ったとなった時、圧倒的なトップだったら影響が大きいかもしれませんが、うちはどっちにしろ誤差程度のものかなと。

青木
恐竜の時代に小さいものが生き残るというものに近いんですかね。

とはいえ、ネット専業の古本事業の中では、御社はかなり大きいと思います。でも、事業って大きくなっていくことで、小回りが利かなくなったり、ビジネスの強みが一部失われたりするはずなのですが、そこはどう思われますか。

中村
僕たちはまだ、そこまで大きいわけではない、という感覚で。去年の年商が22億円くらいなんですが、自分のイメージでは100億円以上になると次のステージに上がってしまうかなと思っていて。

でも、100億円までは目指したいんですよね。それは、やっぱりAmazonさんだけではなく、自社の販売サイトを作りたくて。Amazonさんと真っ向から戦うつもりはもちろんありませんが、例えばうちが培ってきた本を中心としたカルチャーの部分だったり、チャリティ活動だったりを混ぜて、なんらかのポジションを狙いたいなと。

会社を存続させるのは「少しずつ早い」参入の積み重ね

中村
北欧、暮らしの道具店がメディアを始めたのはいつ頃なんですか。

青木
立ち上げたというか、僕らの事業がメディアなんじゃないかと気づいたのが2011年ころですね。

というのも、最初は北欧のビンテージ食器を販売していたのですが、出品したら当日に6割くらいは売れてしまう。サイトに来ていただいても、だいたいは売るものがないような状態で。そこで、仕方なく妹と僕が交代でブログを書いてたんです。でもそのうち、そのブログを楽しみにしてくれる方が増えてきて。

それで気づいたのは、雑誌って中身はほとんど商品の情報じゃないですか。僕らのサイトはそれを買えるけど、雑誌は買えないというだけの違いなんだって。構成要素としてはほぼ同じ方向だからこそ、僕らは最初からメディアをやってるってことだっただろうと。

だったら、広告で集客をするECサイトではなく、自分たちのメディアで集客をして、そのお客様に商品を買ってもらったほうがいいのでは、とメディア運営にシフトしていきました。

中村
SNSの存在も大きかったのですか。

青木
僕らがメディアとしてコンテンツ作りにリソースをふり始めた時に、スマホとSNSの波がドンッ!ときたんですよ。

それまで僕らのお客さんは、一家に一台あるPCを使って訪れてくれることが多かったんですけど、それがスマホになり、一人一台になって。さらに、それまで検索エンジンやブックマークからサイトに来られていたのが、ソーシャルメディアで情報が流れないと認識してもらえなくなった時期がきて。

普通のECは商品ページしかなかったから、ソーシャルで言及してもらえるものがなかったんですよね。でも、僕らはその波が来る前にコンテンツを作り始めていた。スマホとソーシャルの波の中でコンテンツが足りなくなって、僕らぐらいしかこの分野でコンテンツを持ってない時期が数年あったんですよね。

それで、まずはFacebookの公式アカウントがたくさんいいね!されるようになって、それが落ち着いたころにInstagramがきて、LINE@がきて。ただ、2018年に入って、ソーシャルのボーナスタイムは完全に打ち止めになったなと思っているので、僕らも次の展開を考えないと、と思っています。

中村
ECをメディアにするのも、ソーシャルメディアへの参入も、ちょっとずつ早かったってことですね。

僕らもその感覚はあって、せどりも最先端の稼ぎ方ではなかったけど、まだ市場がある時期で、そこから買取りにうつったのも、まだライバルがほとんどいない時期で。そこで、Amazonの中で売上げをかなり取れていたから、Amazonが商品の箱の中にチラシを入れるようになった時も、僕らが一番最初にトライさせてもらって、また顧客を増やすことができました。

青木
何かの終了ホイッスルが鳴った時点で、システムが充実してるか、人数が十分いるか、ということが、次の章への参入の容易さを左右しますよね。もちろん、その分のリスクも伴いますが。

縮小する市場だから追求できる、事業の作品性

青木
この先、バリューブックスさんは、どんな未来をみていますか?

中村
うちの会社のミッションは、「日本および世界中の人々が自由に本を読み・学び・そして楽しむ環境を整える」なんです。つまり、本は大切だから、本にアクセスできる環境が、今も昔もずっとあったほうがいいよね、という話なんですけど。

ありふれたミッションなのかもしれませんが、これに決めたことによって、それまで競合に対して、面白くないな、という思いがもちろんあったんですが……いや、むしろ、彼らは協力者なんじゃないかと思うようになったんですよね。

競合だけじゃなく、出版社には本を作ってくれてありがとう、Amazonには本を売ってくれてありがとう、僕らの手の回らないところまで、本当にありがとう、という感覚になる。競争意識から解放されるんですよね。

そして、このミッションを形にするには、メディアが必要なんじゃないかと。うちはうちがやれることをやる。でも、うちがやれないところで、ミッションに協力してくれていることは、そのメディアで伝えたい。そんな「メディア事業」と、自分たちの役割を果たすための「古本事業」をやっていきたいですね。

古本事業にしても、今の形だけでなく、C to Cもやっていきたいです。今はきっとメルカリとかでみなさん販売されてると思うのですが、もっと最適化された形があるのではないかと思うので。

僕は、本の業界って、成長産業じゃないから面白いと思っているんです。とにかく、一個の綺麗な形を完成させていく作業に集中できるというか。

成長産業って、ガーっと伸びていく中で、どれだけパイを取れるかという話になるじゃないですか。でも、出版はそもそも市場が小さくなっていく業界だし、だからこそ、「本って大事だよね」ということを大切にした完成度の高い事業モデルを追求していくことができるんじゃないかと。

青木
本をとりまくエコシステムみたいなところにアプローチしていきたいということですね。

中村
そうですね。その中でまだ足りてないところを埋めていくことができればと思っています。

それが成長産業じゃない面白み。成長産業はいろいろ足りてないから、全部必要なように思えるけど、そうじゃない産業で足りないことは、気づいてないことかできなかったこと。これまで欲しいけどできなかったことを、インターネットを通じて解決していくのは、面白そうかなって思います。

青木
シュリンクしていくマーケットって僕も好きで。そっちでやるほうが、事業に作品性が出るんですよね。

中村
まさにそういう考えですね。まあ、結果論ではあるかもしれないけど。人類と本の関係ってドラマチックだし。その歴史の中で、僕らの事業という一つの作品を作っていくっていうのは楽しいなって思っていて。

青木
初めて北欧に行った時、古本屋も回ったんですよ。そのときに、まさにシュリンクした後の希望というものを見ることができて。

スウェーデンとかフィンランドで本屋に行くと、新刊本を扱っている本屋よりも古書店が多いし、大きいんです。つまり、母国語で発刊されている本がすごく少ないので、時間をかけて蓄積している古書店のほうがバリエーションがあるんです。しかも、古書店にある本のほうが値段も高かったりする。新刊と全然競っていない、別物のマーケットなんです。

それで、もしかしたら、出版業界が縮小する中で、新刊の本が減ると、相対的に古書の価値があがるポイントがどこかでくるのかなって勝手に思っていて。

その日が来たら、ストックされていた本が、ある時からめちゃくちゃ価値を持ったりして。それは、アンティーク雑貨やビンテージファッションの業界で起きたことで、早めに仕込んで貯めておいた人が勝つんですよね。

そう考えると、出版の電子化が進んだり、新刊の規模が小さくなっていったりしたほうが古書の価値も上がるとかいうのもあるのかな、って。北欧の古書店をみて、そんなことを思いました。

中村
もともと本は、そんな風にもっと貴重なもので、資産だったのに。良くも悪くも、大量生産された消費財のようになってしまった。そうなったことで、多くの人が気軽に手に取れるようにはなりましたが、そういう情報はもうインターネットでもいいのかもしれないし。資産になるようなものとしての本の価値ってあるんだろうなって思います。

 

前編:就職したくない僕らは「せどり」を始めた、その後のストーリー。 

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