落ち込むのは、理想があるから。自分の至らなさは、サービスの糧になる。──ラブグラフ 村田あつみ×クラシコム 佐藤友子対談【後編】

書き手 小野民

写真 忠地七緒

落ち込むのは、理想があるから。自分の至らなさは、サービスの糧になる。──ラブグラフ 村田あつみ×クラシコム 佐藤友子対談【後編】
ラブグラフのCCO(Chief Creative Officer)村田あつみさんと「北欧、暮らしの道具店」の店長・佐藤の対談後編です。 前編では、佐藤の質問から始まった村田さんのラブグラフ設立からのお話や、2人が会社を続けていくために大切にしていることをうかがいました。後編は、村田さんから佐藤への相談から始まりました。

もうすぐ30代。「冒険はこれから」でもいい?

ラブグラフ・村田あつみ(以下、村田)
職業柄たくさん家族をみるけれど、自分が家族を作ることには、ハードルをすごく感じているんです。佐藤さんは28歳くらいの時にご結婚されていますよね。

私も今年27歳になるし、親友は3人とも結婚しちゃって、みんな落ち着いていっている一方で、私はマンガの『ONE PIECE』に最近ハマっているんです。「海賊王を目指して航海に出るのっていいな」みたいな思考回路なんです。26歳で、海賊船に乗って冒険するのを夢見てるの、痛くない?って不安になってきました。

海賊王にときめく自分の直感と、なんとなく歩むはずだと思っていたレールが全然違っていることに対して、今、劣等感をめちゃくちゃ感じているんですよね。

佐藤さんは今の私とあまり違わない年齢で、どういう風に考えてご結婚されたのかなって相談してみたかったんです。

クラシコム・佐藤(以下、佐藤)
なるほど……。でも、私そんな大事な相談に乗れるような生き方していない(笑)。しっちゃかめっちゃかなんですよ。起業したのも、30代に入ってからですし、冒険はね、今。今がちょうど航海している状態。

だから、結婚したあたりの話を聞いても全く参考にならないと思いますよ(笑)。

村田
結婚したら、船から降りなくちゃいけないって、ステレオタイプなイメージを持ってしまっている自分がいるんです。

佐藤
そうなんですね。私は、結婚する前に壮大な自分探しの時間があって、どういう仕事についたらいいのか迷って、相当紆余曲折している20代を過ごしているんですよ。

だから、自分と向き合う戦いに結構疲れてきちゃって、結婚して主婦になってそれまでの自分を一度リセットしようと思ったんです。

暮らしの領域で働きたい気持ちは明確にあったのだけれど、分野が広すぎて、いろんな職業に就いては、すぐに違うと見切りをつけて長続きしない。そういう自分に辟易していました。

でも私の場合は、結婚してみたら逆に逃げ場がなくなった。ますます自分ってものと向き合わなくてはいけなくなって、体調まで悪くなっちゃって、結局再び働き始めることになるんです。

結局、自分という人間は結婚してもしなくても、何も変わらなかったんですよ。

村田
なるほど、そうですよね。

佐藤
逃げ場がなくなっちゃったからもう格好つけている場合じゃなくて、インテリア業界に飛び込む覚悟ができたのは、結婚した直後なんですよ。そこで実績のない私を雇ってくれる会社と運良く出会えたので、インテリアデザインの事務所に入社して、そこから北欧というテーマに出会いました。

自分って本当に変わらないんだと、出産した時も思いました。お母さんになったら自我が消えるんじゃないかと、期待感を持っていたんですよ。自分のやりたいことは捨てて、子どものために頑張れるだろうって思っていたら、一向に、未だに、引き出されてこない(笑)。

私はいろんなライフイベントを経験して、健全な野心のある人間なんだと思い知ったし、職業を通じて自分を成長させたいという好奇心がある。「苦しい」と言いながらも負荷があった方が、自分らしく生きられるタイプ。だから、ライフイベントは、自分のことを改めて知り直すチャンスとして捉え直しました。

予想外の「経営者」としての自分と向き合って

村田
結婚したいと思える人と出会えたのも、羨ましいな。

佐藤
クラシコムジャーナルっぽくない話になってきていいですね(笑)。トキメキや運命を感じて結婚したかは、疑わしいです。

正直に言うと、ある種の野心を持った自分に引かないでいてくれる男性が、当時は自分の周りには夫しかいなくて。私にとって頑張ることの大変さよりも、頑張りたいのに頑張れない状況の方が強いストレスになってしまうんです。

もう結婚して14年も経っているので、もちろん紆余曲折あるんですけどね。

でもがんばって青木と起業したくせに、それから3、4年は「私はこんなに働く予定じゃなかった」ってすごい反発がありました。青木ともめちゃくちゃぶつかりあいましたよ。

村田
なるほど。想像した以上に事業が伸びてきたからですか。

佐藤
そうですね。ありがたいことに、いきなりどんどこ忙しくなってきて。といっても18時には帰れているから、全然ぶーぶー言うことじゃないんですけど、当時の私のキャパからしたら、「好きなことで、お兄ちゃんとwebで雑貨屋作れた、何か買い付けてみたら、売れるようになった、いえーい」くらいの短絡的な感じだったんです。

経営者になろうなんて考えていなかったから、「予定にない。そんな責任負うつもりはない。こんなに心労があるなんて思っていなかった」っていう余裕のなさで。もちろん、会社は伸びてきて楽しい部分はあるけれど、私はもうちょっと楽になる方法を知りたかったんです。

村田
わぁ、まさに今の私の状況と悩みに似ていますね。

私が今の仕事をしているのは「周りに笑顔が集まるような幸せの領域で仕事がしたい」という想いがあってなんです。だから、いずれはケーキ屋さんになりたいくらいで、ジャンルにはあまりこだわりはないんですよ。

ラブグラフは、カップルや周りが笑顔になることだからと始めたけれど、「経営者」は大変でした(笑)。バリバリ働くイメージを持っていなかったから、経営の仕事は泥臭いし、葛藤はすごいありましたね。

佐藤
分かります。ちょうど先週は忙しすぎて、一回も晩ごはんを家族に作ってあげられなくて外食とか買ってきたものとかで何とかしのいだんです。

そういう時ってどういう精神状態になるかというと「この責任はもう背負い続けてられない。暮らしまわりの仕事をしているのに、自分がごはんを1日も作れないなんて。なんとかしないと幸せにはなれない」って。

村田
私は、彼氏と同棲しているので、「今週は一回も一緒にごはん食べてない!」となります。

佐藤
それでも、なんとかがんばれるんですよね。案外しぶとく辞めてないんですよ。「もう無理だ、私の風船はもう弾けるぞ」って5年くらい前から思っているんですけど、案外私の風船伸びるんです(笑)。

もう無理って思ってしまうときは、必ず私は5年前の自分を思い出すようにしているんです。5年前は、違うレイヤーで「無理」って思っていたけれど、今となってはそこは超えてきているから。

5年前を思い返して今と同じようにいっぱいいっぱいだったなと思い出すと、もしかすると、5年後また全然違うレイヤーのことで悩んでいるかもしれないけれど、今の悩みは解消しているはず。前後5年くらいの長い物差しで今を判断する訓練をしています。

村田
それは素晴らしいですね。5年後の自分から見てどうか、客観視するんですね。

共通する部分があると思うんですが、私は「他の人が見たらどう言うか」をいつも意識しています。「本当にやめちゃうの?」って外から自分に問いかけると、冷静になれることがあります。

歳を重ねて、なりふり構わない自分と意外な出会い

佐藤
1人ひとり絶対葛藤があると思うんですよね。とくに女性の方が、暮らしも含めてバランスのいい状態に自分を置きたいという価値観の人が多いんじゃないでしょうか。

バランスが取れていない自分と対峙した時に、落ち込んだり、理想と違うと思っちゃうことはあります。そういう状況が辛いとか面倒臭いとか辞めたいとかは、自然な感情だから、そういう風に考える自分を隅まで追い込まないで辞めないことがすごく大事だと思うんです。

なんだかんだ言いながらも辞めていない自分をどれだけ大事にしてあげられるかが結構大事。

今、ストレングスファインダー*をやると、最上位が「成長促進」。人の成長を促進するところに一番の強みがあるって出てくるんですけど、自分では結構意外なんです。

*編集注:ストレングスファインダー
心理学者ドン・クリフトン(ドナルド・O・クリフトン)氏が開発した診断ツール。177問の質問に答えることで、自分の才能(=強み)を知ることが出来る。

私は起業をした時点では、社会人経験の中でチームリーダーのようなものにさえなったことがないくせに、「まあ、やってみせてりゃいいんでしょ」ってタイプで。

今でもはっきり覚えているんですが、起業して間もなく入ってきたスタッフを、私は放っておいたんですよ。「なんか分かんないことあったら聞きにきて」くらいで。でも、10年経った今、42歳の自分は声を枯らして伝えたり教えたりするシーンがありますからね。

自分自身のコアな部分は変わらなくとも「やり方」においてはこんなに人って変わるんだなと、自分の10年を総括しても思います。どんどんなりふり構わなくなってきている。なりふりを構わず声を枯らして仕事において大事なことを伝えちゃう。得意じゃないんだけど、伝えようとする熱意が先に出る。

途中で辞めていたら今の鬱陶しい自分には出会えなかったし、そんな自分が出てくるとも思えなかった。だから長いスパンの中でひとつの仕事に関わって、自分を成長させていくことに興味があるタイプなんですね、きっと。

「足りてない」からいいサービスが生まれる

村田
なんだかすごく安心しました。責任ある立場なのに辞めたいって思っている自分に対して、すごく罪悪感を抱いていたんです。こんなに弱気になるってことはそもそも向いていないのかな、と考えちゃったり。こういう弱みって人に話せないじゃないですか。

佐藤
言えないですよ。でも辞めたいって思うこと自体、私は責任感の強さだと思うんですよね。

要はサービスを愛しているし、本物のサービスであろうとしているから、私なんかでいいの?っていう自己ツッコミに疲れてしまうんです。だから本質をたどっていくと、それって無責任さの現れじゃなくて、責任感が強すぎるから辞めたいっていう極端な選択肢まで取ろうとしてるんだって、私は思うようにしています。

家庭に関しても、「こんなお母さんじゃダメ!」って思うのは、高い理想を持っているってことだし、その差が自分で読めている、自覚的であるってことですよね。

裸の王様だったら、イエイイエイってご機嫌に経営できるけれど、それなりに客観的に自分を見られると、至らないところばっかりなわけですから。

村田
その通りですね。辞めたいと思うこと自体、会社のためを想っているとか、その乖離を自己認識しているというのは、言ってもらって勇気をもらいました。

佐藤
私から見たら、兄であり、会社の代表でもある青木って、いつでもロジカルに冷静に判断できているように思うけど、彼だって「俺も来年はこの風船は破裂するって思いながら経営しているよ」ってさっき言っていたから。言えない人ほど、そういうことってあると思うんですよね。

ネガティブなことを考えちゃう時は、自分をそれ以上追い詰めない思考の訓練も必要だと思っています。会社にとってそれが負のオーラみたいになって暗い雰囲気になってしまったら本末転倒ですよね。

「ラブグラフ」もまさにそうだと思うんですけど、「北欧、暮らしの道具店」も、私たちがまとっている雰囲気そのものがサービスなんですよ。私がいつも暗い顔をしているとか、書くことが暗いとか、スタッフがピリピリ怒るとか、インターネットを介してもばれると思っているので。

「私にはできない」ことに目を向けるんじゃなく「私でもできる」経営の方法を探していく。キャパの小さい人間でもやればできるんだって、がんばっているんです。

村田
なるほど。すごく共感しました。

佐藤
私も日々自分に言い聞かせていることをこの場で喋っているだけなんですよ。

自分自身がうまくできていないことが、お客様の切実さをキャッチするひとつのアンテナに変わるだろうなってことも感じています。

たぶん御社のサービスもそうだと思うんですけど、いろんな家族ってきれいごとばかりじゃないけど、「ラブグラフ」で撮ってもらった写真を見たとき、「私たちっていい家族だな」って一瞬でも思えるって、すごい価値を提供されていると思う。そういう動機って自分が満ち足りていたら、込められないものじゃないでしょうか。

実は私、家族写真というものをちゃんと撮ったことが一度もない。子どももうすぐ8歳なので、そろそろ3人揃ったいい写真を撮りたいと思っていたんです。そんな目線で御社のサービスをずっと見ていて、本当にいい写真ばかりですごいなって。

家族も、カップルも、生きるってこと自体が幸せなことばかりじゃない。けれど、写真に写っている自分の家族は、ないしは私たちカップルは、「家族になれて良かったんだ」とか、「出会えて良かったんだ」っていうすごい自己肯定感を促すような気がするんですよね。それがきっと、「ラブグラフ」のサービスの本質なのかなって。

村田
そう感じていただいて、すごく嬉しいです。写真撮影を通して、当たり前になっている幸せを再認識してほしいという想いがあります。幸せは大きさではなく数が大事だと考えているんです。

ごはんがおいしいとか、今日も子どもが笑っているとか、そういったことに幸せを見出せる感度をあげることができたら、幸せと思えることが増やせるかも。「ラブグラフ」の写真撮影は、きっと笑顔の連鎖を生んでいる。そのことを実感しながら働けるのは、私にとっても幸せなことだと思っています。

前編:「想いだけのヤツ」と「伝えるヤツ」のタッグは、No.1No.2の最適解?

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