暮らしを支えるヒットブランド

身体にいいものを毎日続けてほしいから。ロングセラーの秘密は、飲みやすさの追求とお客様思いのユーモアだった

書き手 兼田 美穂

写真 ふるやま げん

身体にいいものを毎日続けてほしいから。ロングセラーの秘密は、飲みやすさの追求とお客様思いのユーモアだった
とくに意識はしていないけれど、なんとなく毎日手に取っている。そんな、「つい選んでしまう」商品こそが、安全で、安心で、心地よくて、私たちの日々になくてはならない商品なのかもしれません。自然に手に取ってしまう商品の裏には、開発者の努力と想いがあります。

そんな、永く広く愛されている商品にスポットをあて、その理由を紐解く連載シリーズが「暮らしを支えるヒットブランド」。今回は、キッコーマン飲料株式会社の荻生康成さんに、キッコーマンの豆乳飲料についてお話を伺いました。

キッコーマン飲料株式会社
チルド営業本部 営業企画部 企画グループ グループ長

荻生 康成さん

学生時代は大豆の研究を、入社後は18年間、製造、販売、マーケティングと、さまざまな角度から豆乳づくりに携わってきた。毎朝の日課は「豆乳飲料 紅茶」を飲むこと。豆乳資格検定「豆乳マイスター“プロ”」保有。

豆乳はかつて、“罰ゲーム”の飲み物だった

——キッコーマンの大豆製品といえば、しょうゆですよね。豆乳事業はいつ始まったのでしょうか?

1979年に、魚肉練り製品を扱っている「紀文」でスタートしました。練り製品の原料となる魚肉たんぱくは有限です。そこで、再生可能でエコな資源である植物性たんぱくを活用しようと考えたそうです。発売当時の豆乳は、サラリーマンが飲むエナジードリンクのような位置付けでした。その後、豆乳事業はキッコーマングループが継承し、今日に至ります。

——発売後は、順調に浸透していったのですか?

開始から数年で、豆乳=身体に良いものとして世の中に受け入れられ、「第一次豆乳ブーム」が到来します。おかげで多くのメーカーが参入し、品質も玉石混合でした。いくら身体に良くても、初めて飲む豆乳がおいしくないと続きませんよね。それで、あっという間にブームが去ってしまいました。

我々はその間も着々と技術を磨き続けていたのですが、2000年代前半に「ソイラテ」が登場して国内の認知度が上がり、2度目のブームが来ました。

——時代の空気が変わる中で、豆乳自体も変化してきたのですか?

当初は「豆乳=まずい」というイメージから罰ゲームに使われることも多く、おいしい豆乳を浸透させるのに時間がかかりました。飲みやすくしようと味も変えてきましたので、私が入社した2000年と今の豆乳は似て非なるものです。製法も毎年改善しています。

原料は「大豆」と「水」。だから、製法の違いがおいしさを決める

——おいしさの秘密を少しだけ教えてください。

豆乳は大豆と水から作るので、しぼりたてが一番おいしいんです。そのおいしさをいかにキープできるかが重要です。大豆は皮をむいた途端に劣化が始まるので、フレッシュな大豆を使うために、しぼるまでの工程を何度も見直して、品質向上を目指しています。

他にも、熱の加え方やしぼり方を変えて、のどごしや香り、大豆の新鮮な味をキープする工夫をしています。突き詰めると奥が深い世界ですよ。

——原料の大豆にこだわりは?

もちろん、安全で、豆乳に合う大豆にはこだわっています。我々が生産に関与し、協力的に進められる産地として、カナダ産の大豆を使っています。ほかに、大豆の特徴を生かした北海道産大豆の無調整豆乳もあります。

北海道産大豆の豆乳は甘みが強め。限界まで大豆の味を濃くした、豆乳好きのための豆乳。

——おすすめの飲み方はありますか?

温めて飲むと大豆の風味が広がって、冷たい時とまた違った味わいですよ。それから、豆乳で味噌汁を作るとすごくおいしいんです。これはお客様から教わりました。

「毎日続けて」という願いが、クスッと笑える豆乳を生んだ

——「豆乳飲料」の多様なラインナップはいつ生まれたのでしょうか?

2000年代にマーケットが伸び悩んだ頃、普段豆乳を飲まない人にも売り場で足を止めてもらおうと、豆乳に見慣れたドリンクを加えたのが始まりです。

豆乳って、毎日の健康とか、機能性とか“頭でっかち”になりがちです。そうではなく、お客様にワクワクしてもらいたい。立ち止まって「なんじゃこりゃ」って言ってもらいたいという思いがありました。

おいしいのは当たり前なんです。それに加えて「これはもしかしたら喜んでくれるかな」という部分を大事にしています。

——これまでの自信作を教えてください。

どれも好評なのですが……新商品の「チョコミント」はたくさんの良い評価をいただきました。「もうないの?」とよく聞かれるのは「無炭酸シリーズ」です。「健康コーラ」と「健康ラムネ」、「ジンジャーエール」というのを出して、すごくヒットしたんですよ。

——季節限定や地域限定商品もおもしろいですね。

毎年秋冬は、季節限定商品として「やきいも」「おしるこ」「マロン」の3種類を出しています。「有田(ありだ)みかん」は関西限定商品です。

——「さくら」も気になります。

「さくら」は、受験シーズン限定の桜もち味なんです。そういえば、豆乳の紙パックをたたむと「たたんでくれてありがとう♡」というメッセージが書かれているのですが、「さくら」だけは、合格祈願バージョンがあるんです。他にも色々とネタを仕込んでいるのですが、話すとつまらなくなっちゃいますね。

ちなみに「フルーツミックス」は沖縄ですごく人気があります。「フルーツミックス」の1Lパックは、沖縄からの強い要望に屈して、出してしまったんです(笑)。それから、北海道では「ココア」が人気です。

——パッケージのマークも存在感がありますね。

このブランドマークは「鳥・森・太陽(とりもりたいよう)」といって、すべてのキッコーマン豆乳に入っています。鳥は希望と躍動感に満ちた生命、森は豊かな自然の象徴、太陽は明るく健康な未来、という意味合いです。

実はこのマーク、過去には、森が雲になったり、目線が少し上になったりと、マイナーチェンジもあったんですよ。

実は裏側にもブランドマークが入っている。「笑ってくれるかなと思って」。

毎日飲むものは、意識されない方がいい

——キッコーマンの豆乳は後味がすっきりしていますね。

我々は「毎日、少しでも豆乳の栄養を摂ってもらいたい」と思って商品を作っているんです。毎日続けるのは難しいですよね。昨日まで続けていたのに、ある日突然、なんとなく止めたりする。そこには必ず理由があるんです。ですから、そういう引っかかりはできる限りなくして、意識せず自然に飲める味わいを大切にしています。

一方で、まだまだ豆乳を飲んだことがない方もいらっしゃいます。その方たちに届けるには、やはり、豆乳をもっとおいしくすることに尽きるでしょうね。おいしい商品を通じて、何か少しでも関係性を築いていけたらいいなと思います。

——豆乳マイスターとしての情熱が伝わるひと言です。最後に、荻生さんにとって、豆乳とは何でしょうか?

うーん、「飽きずに、続けられる」ということでしょうか。豆乳の原料である大豆は万能で、色々な魅力があります。食品でいうと、古くから食べられてきたお味噌やお醤油もあれば、豆乳のような新しいものもあります。

そこには長く続いてきただけの理由がありますから、自信を持って「これはいいものですよ。ほんの少しでも摂ってみたらいかがですか?」とご提案できます。まだまだ豆乳への興味は尽きませんね。

編集後記
身体にいいのはもちろんのこと、大豆のおいしさや後味へのこだわり、「楽しんでほしい」という遊び心、そのすべてが「キッコーマン豆乳」をヒットブランドに導いたのですね。「いい方向に改良しているからお客様は気づかない」との言葉に、私たちの生活に溶け込むロングセラー商品の秘密を知った気がしました。

【編集協力】そこそこ社

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