2018.04.19

“凸凹人材論”を知ることが「弱いまま勝つ組織」をつくる──おもちゃクリエーター 高橋晋平×クラシコム 青木耕平対談 後編

書き手 長谷川 賢人
写真 廣田達也
“凸凹人材論”を知ることが「弱いまま勝つ組織」をつくる──おもちゃクリエーター 高橋晋平×クラシコム 青木耕平対談 後編
おもちゃクリエイターとして「∞(むげん)プチプチ」などのヒット作を手がけてきた高橋晋平さんと、クラシコム代表の青木による対談の後編です。

前編では自己開示をうまくできることで仕事がしやすくなる良さを始め、高橋晋平さんが「弱さ」を武器にしていくきっかけを伺っていきました。後編は、大ヒットのおもちゃを作るも体調を崩した高橋晋平さんが、自身の会社で独立するところからスタートします。

創業の理念は「健康第一」「不良と仕事はしない」

高橋
僕がバンダイにいた頃のキャリアにおいて最大のヒット商品になった「∞(むげん)プチプチ」などを送り出したものの、病気で体調を崩して倒れてしまって。復職したのは2009年で、独立したのが2014年の10月なんです。

辞めるまでの数年間も働き方を変えたつもりだったけど、それでもやっぱり頑張っちゃう日々で。社会人10年目で「この先のキャリアをどうしよう」と考え始めたところでした。

病気の経験もあるから、青木さんたちの言葉を借りるなら「フィットする働き方」を手に入れないと、再び倒れてしまう……という恐怖もあった。それでまず、自分なりの理念やビジョンを掲げようと気づいたんです。そこで「絶対にしない」と決めたこともあって。

青木
どんなこと?

高橋
とにかく健康第一。それから、不良みたいなやつとは仕事をしない。「自分が健康になれる仕事だけをする」っていう基準を置きました。

独立後も、最初は焦りの気持ちから、起業家の勉強会とか朝活とかに顔を出してみたんですが、それぞれ「会社を大きくしたい」「金を稼ぎたい」みたいに、価値観が全然合わなかったから、すぐにその場を離れられました。

青木
さらっと話しているし、独立にはそれなりの覚悟もあったろうけど、おもちゃ業界に「アイデア」という誠に弱々しい武器を持って出て、食っていこうというのは、なかなかのチャレンジャーだよね。

例えば、取引できるネットワークがあります、売れ筋の商品を持っています、わかりやすく提示できる技術を有しています……とかじゃなくて、“I have idea!”だけで起業するわけでしょ。しかも、「僕のアイデアはいくらです」って値付けするのは難しいことだと思うわけだけれど……そういう前例となる人がおもちゃ業界にいて、真似できたかたちなの?

高橋
いや、いないです。デザイナーとしてアイデアとセットで売ってる人なら多いですかね。だからアイデアなんて無料で、それを企画書として納品するからお金になっている。でも、僕は腕が痛いからイラストも描きたくないし、それに時間を喰われることも健康を害するから、選択肢に入れませんでした。

いろいろと仕事をやり始めて、僕の仕事としてのウリは「小器用なところ」だなと思えてきました。つくったおもちゃをPRする予算が少ない中でも売ってきたという総合力が活きてきています。

今は、月に何度か仕事をする会社に出向いて、新しいおもちゃの案を出して、「デザイナーさんのところで打ち合わせてきます」「ちょっと東急ハンズさんと商談してきますと」といった便利屋のような動きは多いです。商品を持ってメディアにアプローチしたり、販促動画を作ったり……そういうのを提案しつつ、みたいな。

青木
どんな人と組むことが多いの? おもちゃメーカーが多い?

高橋
そうですね。あるいは、おもちゃ的な要素を持っている雑貨メーカーでしょうか。

結果を出せているなと思うのは、社内にデザイナーはたくさんいるんだけれど、企画や商品を社長が考えているような会社です。デザイナー発で商品を考えられるように、僕が入ってアドバイスしながら進めているんです。

やっぱりPRにしても営業にしても、自分でつくった商品を売りにいくのが手っ取り早く上手くいきますし、「自分の魂を込められてるものを売りに行ったほうが絶対いいから」といって商談に同席させたりしています。

最近は、鳩時計を作ってます。

青木
あの、ポッポー、って鳴く?

高橋
そう。スマホをタップすると鳴く鳩時計。僕の中でも超絶に肝入りで作ってます。

いま、僕の自宅にも置いてあって、スマホをタップすると鳩が鳴くんです。そうすると、子供たちが「パパだ!」って、妻が言うには僕を思いだしてくれるらしいんです。それを実家の親元にも置いて、親に電話を毎日のようにするのはできないけれども、鳩を鳴らすだけなら「息子が自分たちを思いだしたんだ」と事実だけ届く。それで愛情を伝えるという、ものです。

超人の論理に乗るな。むしろ「弱くなければ勝てない」でいい

青木
「弱くても勝つ方法」を考えたいって話してきたけれど、結論的に言うと、「弱くないと勝てない」のかも。

高橋
そこまで言い切りますか。

青木
本当の意味で「勝とう」と思ったら、他人とチームを組んでやらざるを得ないじゃない。でも、どこも弱いところが無い人がいたとして、その人とどうやってチームを組んだらいいんだろうと思う。

勝ちたいとしたら、実は自分の「弱さ」を理解して、その「弱さ」を磨いたり際立たせたりすることによって、ちゃんと人が絡めるインターフェースとして用意してあげましょうと。そう考えると、「弱くても勝つ」ではなくて、「弱くないと勝てない」ということかもしれないなぁと。

初めからこの結論を持っていたわけではないけれど、話を聞いてると、やっぱり晋平ちゃんも「弱さ」をうまく利用しているし、その半面の語らない部分に変な強さもあるよね。

高橋
それ、よく言われるんですよ。弱さを武器にしてるって。

青木
おそらく、そのためには自分の弱さであるとか、もっといえば自分の器を把握できてないといけない。自分のことを振り返っても、「弱さ」を強みにしているところがあるもの。

晋平ちゃんにとって「体が弱い」ということは強みのはずなんだけれど、強みとしてこれまで認知されてこなかった。むしろみんなはそれをカバーしなければいけない、あるいは克服すべきっていうことが習慣になっていて。

高橋
うんうん。

青木
もしかすると、組織を「強制的な結合が起きる」という機能で捉えてみたら、会社や学校のように強制的な結合の仕組みがなく、多くの人の力を使って仕事ができる人のことを考えると、その人たちはまさに弱き存在であるほうがいいのではないかな。

強制的に結合できる仕組みがあれば、それぞれが「強さ」だけ持ってきてマウンティングしあっても分解しようがないからいいんだけれど、でもそれではどこかで勝ちきれないんだよね。なんというか、自立しきれない。

だからこそ自立した存在として、たとえば最近耳にする「トラリーマン」※ として生きていくことの根っこには、実は強烈な弱さという武器がある。虎のように生きたいのだったら、弱くなければいけないのかもしれない。

※編集注:レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役社長藤野英人氏による、虎のように強さを備えながら自由気ままな働き方をしている会社員を現す造語。

高橋
組織や会社の中ですごく苦しそうにしている人って、超人を目指してるんじゃないかと思います。やっぱり大きい会社の部長職なんてマジものの超人だなと感じますからね。でも、みんながすべてそうあるべきでもない。

青木
僕もそういう超人的な方からお誘いをもらって食事をしたりすることもあるけれど、僕がいつものように「努力で問題解決したことないんで……」みたいな話をしていると、相手が明らかに納得していなくて、悩みのループに入っていそうなのを見ることがあって。「きっと何か秘密を隠しているんだろう」と疑われているというか……(笑)。

まぁ、僕としてもわかっていない何かがあるのかもしれないけど、きっとそれもたいした秘密じゃないんだろうなって。超人を目指すレースに参加している人を思うと、なかなかハードだよね。

高橋
難しいですよね。莫大な利益を作れているのは、競争させているからなわけで。

青木
でも意外と、競争を辞めたらもっと利益が出るかもしれないなぁ、とか思うんだよね。というより、「本当に競争しないと利益は出ないのか?」とも。

高橋
うまくいっちゃってるから、それを全部ぶち壊すことは、組織上というよりは人間の気持ちとして無理なんでしょうね。

青木
そもそも組織の論理が「強制的に嫌な仕事をさせる」ために始まってるじゃん。組織論の始まりって建築と軍隊だもの。建築は命の危険があるハードな仕事だから、危機を感じるぐらいやりたくないことを強制的にやらせる技術が必要だった。軍隊はお金か強制力で連れてきた人に命を無理矢理に賭けさせるという仕組みだよね。

組織論とかマネジメント論の基礎にはその仕組みがあるんだろうけど、クラシコムって道具屋さんだから、古代の建築と軍隊の組織論でマネジメントすることの合理性が1ミリもないんだよね。本来的に考えると、安全と楽しさしかないはずの仕事だもの。それは、おもちゃを作るのも同じかもしれないけれど。

高橋
うんうん。大変さは否定しないし、それだからこそ面白いものが出来たりもする。うーん、なぜ無理なのか……いっぱい売ろうとするからかな……昔はそれが普通だったとしても、時代のせいもあるのか。

青木
たぶん、売れないものを売ろうとするからだよね。

高橋
まぁ、そりゃそうですよね。核心を言ってしまえば。

凸凹でいい。「本物の感謝」が組織にパワーを与える

高橋
組織をつくる上でコンサルタントという職種を入れることがありますよね。

経営者からすれば頭もすごく良くて、見るからに能力が高い人、つまり「強い」人を雇うという選択肢が常にあるかもしれないけど、自分にはその感覚は理解できないんです。というより、そんなことはフィクションじゃないか、ぐらいに思ってて。

それは自分を売り込みに行くようなことを思ってもそう。スベる感覚って割と体感しているつもりだけれど、やっぱりどこかに「寒さ」が伴う。

むしろ、弱い自分が役に立つための在り方を考えたり、だからこそやれることがあったらやるんだろうって思うんです。なんなら、こっちが手伝いに行ってるのに「僕を助けてください」みたいなことが言えるくらいの関係で、それをわかってくれる人は本当にありがたい存在だと感じています。

青木
でもさ、自分としても、そういう人と仕事したいと思うじゃん。

高橋
思います。

青木
「あ、彼のここに僕がぴったりハマるじゃん」みたいに思えると、お互いに貢献できる。

高橋
あっちが凸で、こっちが凹だとすると、きれいにいきますよね。

青木
そうそう。自分が一緒に仕事してみたいって思った時、相手に凹がないと、凸としてはアプローチしにくい。凹が見えれば「ここは僕がやりますよ!」って言えるから。

高橋
僕も、自分を振り返ってみてもそうだと思えます。

青木
全方位が凸だったら、ハマるところないもんね。

高橋
そんなブロックは使いづらい(笑)。

青木
あとは、凹を埋めてくれる相手に対して「本物の感謝」が生まれるでしょ。

僕もそうなんだけれど、自分としては「こんな事業をやったら面白いかも」って思っても、実務的にはひとつも自分で進められないタイプだから、誰かが名乗り出て進めてくれるだけでも「ありがとう」って思える。

失敗しても「どうせ僕がやってもうまく進まなかったやつだから」と声をかけられるだろうし。万が一うまくいきようものなら、「本当にありがとう!」って感謝できる。

だけど、「自分でやったらすごくうまくいくんだよね」みたいな全方位に凸の状態だったら、たとえ誰かにやってもらっても、「もっとちゃんと進めてくれよ」みたいに常に思い続けるんじゃないかな。……絶対に、一緒に働きたくないよね、そういう人とは。

高橋
まったくです。

青木
凹のある人にとっては「感謝」がパワーの源泉にあるというか。

高橋
でも、僕もそれは独立したからこそ、わかる話かもしれません。それまで大企業にいて、エラい面をしていたんだというのを、独立した最初の年に振り返ってゾッとしたんです。

もし、今の状態のまま、昔に戻ったらもっといい仕事ができただろうなっていう妄想をするんですよ。本当にわかってなかったなって。今は感謝しかないですよ。

青木
感謝のパワーっていうと……なんか宗教みたく聞こえるけど(笑)、すごいなと思うのね。

まず、基本的には在庫が無尽蔵。物理的な制約を受けないし、湧き上がってくる以上は無限にある。ただ、「エセ感謝」と「リアル感謝」は存在していて、「リアル感謝」じゃないとうまくワークしないんだよね。

以前に「良いリーダーとはどういう存在か」という話をしていたときに、興味の範囲がものすごく広いんだけれど、どの分野もからっきしダメなやつが適任かもしれないって話をしたのね。

要は、デザインも企画もエンジニアリングも興味はあるけれど、自分では何一つできない。だから、やってくれる相手には感謝の気持ちが本当に湧き上がるでしょ。そうすると、感謝というエネルギーを組織へ無限に供給できる主体になるから。

高橋
僕の体験では、うまくチームが回っている時のマネージャーは、部下全員が認めるダメな人だったんです。その「ダメさ」というのは、ダメなのに権威を振りかざしたり威張ったりするわけではなくて、自他ともに認める「ダメさ」だったんですね。

たとえば、率先してボツになるような企画を出す。誰もが凍り付くような会議で、誰にも報告していない企画をぶちこむクセがあって、年下の上司とかにすごい怒られるんですよ(笑)。メンバーがそれを見ていて「やっぱり僕らがいないと……!」って感じになる。

彼がそこまで計算していたら怪物だけど、たぶんそうじゃないんですよ。それは自分でやろうとしてできるものじゃない。笑いでいえば「フラ」に近いものだし、それを「才能」の言葉で片づけるのも癪だけれど、知らずに「愛される力」をわかっていたと思うんです。

青木
それも、自分の器を認識して、弱いという状況を受け入れて、それが自分のプライドを傷つけない状況になれているっていうことですよね。

高橋
さらに、そのマネージャーがうまくいった要因としては、それでもたまにものすごい働きをするんですよ。ここぞという時にトラブルを一撃で回避したりとか、数年に一回は特大ホームランみたいな企画を出したりする。

青木
さすがに凹だけだと、ただのヤバいやつだものね(笑)。

高橋
凹のぶんだけ、すごい凸の部分があるというのは、ひとつの条件かもしれません。

青木
さっきは「弱くないと勝てない」と言ったけれど、「弱い」とか「強い」じゃなくて、「人間らしくないと勝てない」ということなのかもしれないね。それぞれに凸凹があり、ホリスティックな人間らしさを認めることに価値がある。

あまりに普通の結論なんだけど、晋平ちゃんとするこの旅にこそ意味があった。そんな時間でした。今日はありがとう。

前編「「弱みの強み化」でコンプレックスは武器になる