歴史あるル・クルーゼ、新登場のmoogyが大切にしたブランドコミュニケーションの共通点とは?

書き手 長谷川 賢人
写真 廣田 達也
歴史あるル・クルーゼ、新登場のmoogyが大切にしたブランドコミュニケーションの共通点とは?

「良いモノを作っても売れない」という悩みの声が、あちこちから聞こえています。その理由のひとつがコモディティ化。ざっくり言えば、ユーザーが「どの会社のモノを買っても同じ」と感じ、値段や手に入りやすさで購入を決めてしまう状態を指します。

でも、商品は一つひとつに「顔」や「考え」が宿っているもの。作り手側の気持ちや商品の個性をうまく伝え、ユーザーから「これがいい!」と選んでもらうためには、どうすればよいのでしょうか。

その鍵を具体的な事例から見つけ出そうとしたのが、2016年10月6日(木)に南青山の宣伝会議セミナールームにて開催されたパネルディスカッション『コモディティ化に打ち勝つ、ブランドの差別化と共感性の向上』です。

主な登壇者は5名で、いずれもマーケティングやブランディング、商品開発に携わる方々です。まずは、ル・クルーゼ ジャポン(以下、ル・クルーゼ)の堀内亜矢子さんと、キリンの中村美幸さん。(この両社は、私たちクラシコムがご提供しているタイアッププログラム「BRAND NOTE」でも一緒に読みものをつくったご縁があります)。そして、独自のアイデアで展開をするハウス食品の宮戸洋之さん、ヱスビー食品の中島康介さんにもご参加いただきました。

クラシコムからは代表青木が登壇し、それぞれの会社で行われている取り組みを伺って考えたことをお伝えしました。司会は雑誌『宣伝会議』編集部です。 今回の記事では、パネルディスカッションの内容を前後編にまとめました。

前編では、ル・クルーゼとキリンの取り組みを中心にお届けします。

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(写真左)ル・クルーゼ ジャポン株式会社 堀内亜矢子氏 (写真右)キリン株式会社 中村美幸氏

ル・クルーゼの「百年鍋。」キーワードが生まれた背景

ル・クルーゼ ジャポン株式会社 堀内亜矢子氏(以下、堀内) ル・クルーゼは本国フランスで今年91周年、日本としては25周年を迎えました。この年月の中でお客様と共有してきたブランドイメージが今の時代にも通じるかを見直した結果、今年の8月からは「百年鍋。」というキーワードを打ち出すことに決めました。

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ル・クルーゼ公式サイトはこちら

今までのル・クルーゼはカラーリングの美しさをはじめ、あたたかいフランスの家庭に流れる家族愛といった「情緒面」からのイメージをお伝えしていましたが、それと共に今後は「機能面」からもアプローチしていきたいと考えたのです。

そう考えたきっかけは2つあります。まずは、定番のお鍋のモデルチェンジがあったこと。それからお客様とのタッチポイント全てで、同じキーワードが伝えられるかを重要視しました。また、ちょっとおこがましいくらいですけれども、「進化しつづけるナンバーワンブランド ル・クルーゼ」といったキーワードも打ち出しました。

鋳物ホーロー鍋のパイオニア、リーディングブランドとしての立ち位置を振り返って、きちんとメッセージを伝えていかなくてはと思ったのです。

moogyが「コアなファンづくり」をまず課題に挙げた理由

キリン株式会社 中村美幸氏(以下、中村) moogy(ムーギー)は2015年2月にリリースした、とても若いブランドです。いまの課題を一言で表しますと、「コアなファンづくり」が最も重要と捉えております。

moogyは、アスクルさんが運営するECサイト『LOHACO(ロハコ)』との共同プロジェクトをきっかけに誕生しました。『LOHACO』のお客様がだいたい20代から40代の既婚女性、そしてファミリー層も非常に多いということがありまして、必然的に「女性に受け入れられる商品をつくる」「女性の暮らしに馴染む」というコンセプトになっていきました。

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moogy公式サイトはこちら

moogyが目指すのは「飲む生活雑貨」です。女性が日々の暮らしの中で、机やお家に置いておいても気分が上がる、日常が少し幸せになることを目指してつくっています。だからこそ、女性に受け入れられやすいコミュニケーションをしたい、という思いが強くありました。それはファンからその周囲の人に熱量が伝わっていく、moogyの美味しさが手渡しで広まっていくようなコミュニケーションです。まずはオススメをしてくれるコアなファンをどうつくるか。それを発売当初からの課題として設定しております。

今は、たとえばインスタグラムやツイッターといったSNSで、お客さまが自ら語り手として商品を伝えてくださっている状況が自然にできています。通常、インスタグラムのキャンペーンを行なう場合も、私どものような「飲料」は写真を撮る機会が日常的に少ない商品ですので、プレゼントなどのインセンティブを設定しなければならないケースが非常に多かったんです。

でも、moogyはそういったインセンティブを提示しなくても、お客さまが自分から写真をアップしてくれる状況にあります。moogyの場合は「デザインの力」が大きかったかと思いますが、そういった点でも従来のマスプロダクトのコミュニケーションとは違うと感じております。お客さまが写真を撮りたくなる、自然な動機づけが大事かなと思っております。

ル・クルーゼが大切にした「誰が語り、信頼をつくるのか」

──次に、各ブランドごとに、その課題を踏まえたお取り組みの実例をお伺いしたいと思います。では、まずル・クルーゼさんから。

堀内 競合他社が台頭してきた現状で、リサーチをしてみると「ル・クルーゼのお鍋ならではの良さとは?」と質問が出てくるようになりました。そこで、機能面の良さをどう噛み砕いて伝えていくかを考えました。

まず考えたのは、日頃当ブランドの愛用者でおられる料理家の栗原はるみさんを始めとする著名な方々に、私たちのブランドを第三者の視点で語ってもらうことでした。普段からみなさんお使いいただけているだけあって、「ル・クルーゼならではの良さ」をたっぷり語って下さり、お客様への強いメッセージを発信することができました。ただし、「普通の生活している方が使って、本当に良いと感じられるか」を、さらに噛み砕いて伝えていく必要があるんじゃないかと思ったとき、タイミング良くクラシコムさんのBRAND NOTEに出会いました。

名物店長の佐藤さんやデザイナーでモデルの雅姫さんに、ライフスタイルに寄り添った形で機能面を語っていただくことで、きちんと訴求していけるのではと感じたんです。正直なところ、自分のブランドの良さを自分で語っても受け手は親近感がわかないですし、信頼性も見えにくいですよね。それを彼女たちの言葉を借りて、代弁してもらえるコンテンツにできるのではと思って、クラシコムさんとのお取り組みをスタートしました。

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ル・クルーゼ様とのBRAND NOTEコンテンツより抜粋

──BRAND NOTEの効果や発見、実施した感想はいかがですか?

堀内 今回、BRAND NOTEで3本の連載記事を制作しましたが、第2話でフライパンの「TNSシリーズ」を紹介してもらいました。そもそもル・クルーゼがフライパンを作っているところから話は始まり、その良さを一つひとつ噛み砕いてご説明いただいているんですね。

熱伝導が素早く均一で、耐久性の高い素材。ハンドルの部分が絶対に熱くならない仕様。それから、他社さんではなかなか出てこない視点の「S字フックにかけられる」工夫のこと。そういった機能面をきちんとご説明いただいたので、ありがたいなと思いました。

自分たちで語るより、お客さまが本当に信頼できる方から語ってもらう方が親近感もわきますし、その「信頼感の醸成」が効くのだと思います。

moogyが「草の根」の次に行くために考えたこと

──ありがとうございます。moogyはどのような差別化の取り組みをなさいましたか?

中村 moogyは、ECサイト『LOHACO』とアスクルさんの企業向けカタログでの先行販売でしたから、店頭やその他のチャネルで実際にお客さまの手にとっていただける機会がないのがハードルでした。 そこで最初に重視したのは「リアルでの接点」です。逆説的に聞こえるかもしれませんが、ECでパッケージを実際に見られない、商品を手に取れないからこそ、一部のお客さまでもいいから実際にmoogyを飲んでいただく機会を草の根的につくっていくところから始まっています。

moogyのマーケティングは、20代から40代の女性5人がメインで行っています。3人のデザイナーと、マーケティング責任者と、コミュニケーションを担当している私です。この5人で、アスクルさんや弊社とお付き合いのある会社さまの食堂に出向いたりとか、サンプルをお贈りしたりとか、そういった活動を地道に始めていきました。

お客さまの反応が直接聞けるのも大事でしたが、知り合いを頼るようなやり方だけでは広がりをつくることができなくなっていました。インスタグラムは早い段階から活用していましたが、ウェブメディアを活用したきっかけづくりを考えたとき、真っ先に話に上がったのがクラシコムさんのBRAND NOTEだったんです。弊社は以前にキリンビールの「一番搾り」で出稿経験がありましたし、個人的にも好きで訪れているサイトでしたので、どういったメディアかはよく存じ上げておりました。

キリンのmoogyがBRAND NOTEをえらんだ、3つの決め手

──現在はメディアがさまざまあり、コンテンツをつくる方法もさまざまです。その中で「北欧、暮らしの道具店」と取り組まれた決め手は?

中村 理由は大きく3点です。1点目は、moogyを好きになってくれそうなお客さまが、「北欧、暮らしの道具店」にたくさん訪れていそうな実感があったこと。「フィットする暮らし、つくろう。」というコンセプトを掲げていらっしゃる通り、日々の生活、日常の小さな幸せみたいなところを大事にしてくれるメディアですから、それに共感する多くの30代、40代の女性が集まっていらっしゃる。その上、エンゲージメントも非常に高い。定性・定量的に見ても、ここならmoogyを愛してくださる潜在的なお客さまがたくさんいらっしゃるだろうと思って選びました。

2点目は、クラシコムさんのBRAND NOTEご担当の方であれば、moogyが持つブランドの本質的な価値に光を当ててくれるパートナーとなりえそうだ、と思ったからです。平たく言うと、moogyを本当に良いと思って紹介してほしかったですし、その熱量は必ず読者へ伝わるだろうという確信があって、お声掛けをしました。

3点目は、記事の読後にアンケートという形で、実際にお客さまの反応を見られたことです。新商品のmoogyはまだお客さまと接する機会が少なかったので、ぜひその声を聞いてみたいと思いました。結果的に、回答へのインセンティブはなくとも、たくさんのアンケートを拝見することができました。

先ほど、ル・クルーゼさんのケースで堀内さんもおっしゃっていたように、自分で自分のブランドを語るのが難しい中で、立場上はメディアとクライアントであっても、チームのようにまとまってコンテンツをつくれたところが、お客さまからの反応を引き出せた大きな要因かなと思っております。

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キリンビバレッジ様「moogy」とのBRAND NOTEコンテンツより抜粋

──今回行ったBRAND NOTEでのコンテンツづくりで、工夫やこだわりがあればお聞かせください。

中村 コンテンツにはmoogyをつくった弊社のデザイナー3名が登場しています。mooogyは意図的に女性向けを狙ってパッケージをおしゃれにした、という商品ではありません。デザイナーの彼女たちがほしいもの、心から良いと思うものを具現化しているので、それをしっかり読者にも丁寧にお伝えしたいという思いがありました。

あとは、飲料では欠かせない「中味」の話としても、女性の悩みで多い「冷え」を気にして生姜を効かせた風味に仕上げて、毎日でも飲み続けられるように考慮してつくっていることを、しっかり記事の中で伝えていきたいとクラシコムさんにお伝えしました。moogyのように16種類のパッケージがあると、デザインばかりで中味に注目されづらいのが欠点でもありましたから。

「一個人としての驚き」を読者とも共有したかった

──ル・クルーゼとキリンが抱えるブランドの課題感と、それについてのお取り組みをお話いただきましたが、青木さんはどのような感想を持たれましたか?

株式会社クラシコム 青木耕平 クラシコムとしては両社とも、われわれがひとりの生活者として驚きを感じた部分や、商品開発の努力で関心した部分にフォーカスを当ててコンテンツを作りました。

たとえば、ル・クルーゼさんなら、パリからほど近いフレノワ・ル・グランという村の工場ですべてのお鍋を手がけていて、親子4代でつくっている職人さんがいること。moogyはバーコードまでかわいくデザインされて手作り感のある、愛のあるプロダクトであること。両社がそういった人間味のあるブランドなのは、クラシコムのメンバーも、一個人としても発見だったんです。

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それぞれのBRAND NOTEコンテンツより抜粋

そういうところを解きほぐして、彼らのこだわりは「わたしたちにとって、どういう価値を持つのだろう?」ということを考え、その驚きを読者を共有したかったんですね。だからこそ、まずはそれぞれのプロダクトをつくった人たちのキャラクターやパーソナリティ、あるいは置かれている属性みたいなものが、読者とも「本当に」同じなんだというコミュニケーションをしたかったのです。

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要するに、キリンさんのような大企業をイメージすると、工場や、大きなビル、会議室で難しい顔をした男性の姿が浮かぶかもしれませんが、実はみなさんと同じような美意識や価値観を共有している人たちがつくっているんですよ、というのをまずは明らかにしたかった。その上で、機能的な良さや商品のこだわりついて、お話していきたかったわけです。

■関連リンク
BRANDNOTE ル・クルーゼ編
BRANDNOTE キリン moggy編

 

後編:ハウス食品&エスビー食品の取り組みに学ぶ、定番商品と新商品で変わるブランド世界観の作り方