激動の時代、社員が自ら変化に対応できる環境を。ソニックガーデン倉貫義人×クラシコム青木耕平対談【前編】

書き手 編集スタッフ 馬居

写真 佐々木孝憲

激動の時代、社員が自ら変化に対応できる環境を。ソニックガーデン倉貫義人×クラシコム青木耕平対談【前編】
約30名のプログラマーで構成される株式会社ソニックガーデン。

「プログラマーを一生の仕事にする」という理念のもと、早々に導入したリモートワークや、様々な会社のシステムサポートを「月額固定契約」で行う安定したビジネス展開などで、新しい会社のカタチとして度々メディアで取り上げられています。

まだまだ成長過程ではありますが、近年少しずつエンジニア部門を強化している私たちクラシコム。兼ねてより代表・青木は、ソニックガーデンさんの経営を参考にしておりました。

そこで今回、ソニックガーデン代表・倉貫義人さんと対談を行うにあたり、選んだテーマは「これからの安定した会社とは?」です。

変化の激しいこの世の中で、まだまだいわゆる「安定した会社」とはいえない規模の両社が、これから先どうすれば、社員の心穏やかな毎日を守れるのだろう、これからの「安定」ってなんだろう。そんなことを一緒に試行錯誤しました。

前編では、ソニックガーデンの取り組みを中心に、後編では少し視点を変え、ジブリ映画に見る「安定」などを取り上げながら、さらにテーマを深掘りしていきます。

株式会社ソニックガーデン 代表取締役社長

倉貫義人

1974年京都生まれ。1999年立命館大学大学院を卒業し、TIS(旧 東洋情報システム)に入社。2003年に同社の基盤技術センターの立ち上げに参画。2005年に社内SNS「SKIP」の開発と社内展開、その後オープン ソース化を行う。2009年にSKIP事業を専門で行う社内ベンチャー「SonicGarden」を立ち上げる。2011年にTIS株式会社からのMBOを行い、株式会社ソニックガーデンの創業を行う。

好きなこと:料理をする、漫画を読む、愛犬との散歩

なぜ、そんなに幸せそうなんですか?

青木
今日は倉貫さんと「これからの安定した会社とは?」をテーマに話したいと思います。

というのも、初めて僕がソニックガーデンさんを訪れた時に感じたのが、まさに「安定」なんですよね。自由が丘のマンションの一室で、御社はリモートワークをされている方が多いので、全員いらっしゃったわけではないのですが、みなさんの圧倒的な安定感と幸せ感がすごくて。

でも、いわゆる「安定した会社」という言葉でイメージするのは、従業員が1万人いて、100年続く会社で、とかなのかと思うのですが、御社は…

倉貫
全く違いますね(笑)。

今回、「これからの安定した会社とは?」というテーマとお聞きして、面白いなと思ったのですが、僕たちが安定してるかといわれると、まだ30数人の会社で7期目だし…安定してるなんて言えません。

実際、うちに新しい人が入るときは、いつ潰れるかわかんないよと伝えてますし。いわゆる安定した会社の社長さんなら「なにかあったら、君の給料は俺が出すから安心して!」とか言うかもしれませんが、僕はそんな事ができるほど給料をもらってないですし。

会社が潰れても、みんなが困らないように、自立できる環境や成長の機会は用意するけれど、まあ、潰れる時は潰れるよって。

青木
確かに、会社を絶対に潰さないって断言するのは無理ですよね。そんな風にぶっちゃけて話せるのは、経営陣と社員の間に信頼関係があるからですかね。

倉貫
そもそも、経営陣と社員の間に境目がないんですよね。経営陣だから経営のことだけ考えればいいとか、社員だからそこは考えなくてもいいかとかはなくて。取締役といっても、創業時にいた5人を取締役にしちゃっただけですし。

代表取締役も、僕と副社長の2人なんですが、これもそんなに意味はなくて。はじめは僕だけ代表にしようと思ってたんですが、営業を担当していた副社長が、営業の書類に自分でハンコを押せたほうが都合良かったので代表になってもらっただけで。

青木
広報的代表と、営業的代表っていう、単なる役割分担でしかないんですね。

倉貫
そうです。

会社の決断は、社員が見ている前で

青木
とはいえ、重要な経営的な意思決定は、代表のお二人で決められるんですよね。

倉貫
そうですね。でも、だいたい社員も見ている掲示板ツールで議論するので、決定が急にくだされるということはなくて、過程が見えてるんです。倉貫が悩んでる、副社長が回答してる、こうしようぜ、やりますか、やだなあとか、全部。

青木
それ面白いですね。

情報の開示や共有が徹底してるって重要ですよね。人間て、この先どうなるかがわかるというか、「予測可能性」が高まると安定しますよね。

現状が安定してるかどうかが重要なんじゃなくて、なんとなくでも将来が見えていることが大切で。ダメになるならダメになるで、わかっていれば準備もできるじゃんみたいなもんで。

たとえば、大学生は4年後に卒業するとわかってるからそれに向かって準備をする。4年後には大学生じゃなくなるという予測可能性のもとに動いてるから、大学生というテンポラリーな立場が不安なんて人はそうそういないわけで。

要するに資本が厚いから、人数が多いから、100年続いてる、だからこの会社は大丈夫!なんてことが予測しにくい時代になっていて、だったらリアルな状況をぶっちゃけてくれたほうが予測可能性ができて、安定するのかなあとか。

倉貫
確かに。まあ、そもそも、僕は変化と安定でいえば、変化のほうが好きなんですけどね。でも、変化に振り回されるのは嫌なんです。

青木
わかります。

倉貫
それは、僕らが使うプログラミングの手法「アジャイル」の考え方と同じだと思っていて。

アジャイルって何かというと、もともと、システム開発は、1年、2 年の長期計画を立てて、そのとおりに作っていたんですが、段々と世の中の変化のスピードが上がるに連れて、1年、2年経ったら必要なシステムも変わるということが起きてしまって。

昔は良いシステムを作るために、たくさんドキュメントを書いて、たくさんルールをつくって、たくさんの人を入れて管理をして、しっかり計画通りに進めることで良いゴールができていました。でも、そもそもゴールが変わってしまう時代に、その重たいやり方だと不可能なので、もっと身軽になって変化に対応しましょうというのが、アジャイルの始まりなんです。

これが、僕のプログラマーとしての強烈な原点になっていているので、経営も同じようにやってるだけなんですよね。

アジャイルを日本語でわかりやすく砕くと、重要な要素は2つ「見える化」と「小口化」とあって。

「見える化」というのは、なぜこれを作っているのか、自分たちはどこに向かっていくのかがわからないと、何を改善したらいいかもわからないから、色んなものをもっと見えるようにしようという。

青木
経営的判断の過程を、社員のみなさんが見れるということも、そういう意味なんですね。

倉貫
そうですね。

規模を小さくすることで変化に対応する

倉貫
そして、「小口化」というのは…たとえば、クラシコムさんにもエンジニアさんたちがいるので、わかると思うんですけど、リリース(サービスや機能を公開すること)ってしますよね。

リリースが1年に1回だと、これはお祭りになるんですよね。その日に向けて徹夜が続いて、ドキドキしながらリリースを迎えて、翌日の反応をみて、ってすごく大変で。でもこれは、1年に1回だから大変なので、月に1回にすればちょっと楽になる。

青木
なるほど、こまめにリリースしようと。

倉貫
そうそう。それがさらに、週1とか3日に1回になってくると、もはや日常なので、怖くないし楽。経営もこの「小口化」で語れると思うんです。

青木
たしかに、長期的な視野って変数が多くなるから心は乱れますよね。僕も、経営者として聞かれる質問の中で、一番ざわっとしちゃうのは、「この会社を5年後どうしたいんですか」というもので。

倉貫
わかります。それ考えてない経営者はだめだろって言われてる感じがしますよね。

青木
そうそう。考えてないとだめかな?って、自分の弱さがこう顔をもたげるんですよ。

開発もたしかに、1年半のプロジェクトです!とか言ってしまうと、ああ、まだ5分の1かとか…

倉貫
しんどいですよね

これからのクリエイティブな仕事は大量生産できない

青木
このアジャイルの小口化というのは、期間だけの話じゃなくて、もっと概念的にというか、関わる人の数やプロジェクトの規模自体小さくするという考えなんですね。

それって、いわゆる、これまで発展してきた、大きいものや、たくさんのものをみんなで作る産業革命的な「大量生産」ではなくて、もっと個人にフォーカスして人間らしく働くことが成果につながるようなことを目指していたりもするんですかね。

倉貫
そもそも、僕らの会社がこうあるべきと考える「プログラマー」という仕事は、大量生産に向かないんです。たぶんライティングも、企画も、デザインもそうだと思うんですけど、今どきのクリエイティブな仕事って全然大量生産じゃなくて。同じことをする人をたくさん並べても、たくさん出来るわけじゃないですよね。

青木
そうですね。

倉貫
一個一個つくっていくしかない世界なので、人をたくさん並べて仕事をさせる大量生産のマネージメントとは、まったく違うやり方が有効だなとは思っていて。

僕らの会社は、「プログラマーを一生の仕事にする」というビジョンのもとに、プログラミングを好きで楽しくやれてる人たちが、プログラミングを仕事にしてずっとプログラマーのまま楽しく暮らしくことを目指していて。

それができる「プログラマー」というのは、誰かが作った仕様どおりに作る人のことではなくて、お客さんと話をして、要望への答えをゼロから自分でアイデアを出して、そのアイデアをプログラムに落とし込む人のことだと定義していて。

それは、リーダーが作業する人に、これしなさい、あれしなさいって簡単に言える仕事じゃないんですよね。職人の世界なので。

青木
全員棟梁みたいな。建築でいうと、設計者と製作者が別れてるというよりも、棟梁の塩梅で線を引っ張って図面を作って、自分で作っちゃう、みたいな。

たしかに、プログラマーとしてずっと生きていくなら、そのほうが楽しいかもしれない。

倉貫
エンジニアっていいながら、全然工業っぽくないんですよね。再現性もないし。

青木
エンジニアリングじゃなくて、ブリコラージュなんですね。

倉貫
ん?

青木
つまり、理論や設計図に基づいて物を作る「エンジニアリング」と対照にある、その場にあるものを寄せ集めて、何かを作るというのが「ブリコラージュ」で。

例えば、今日の夕飯は何をつくろうかなと思った時に、レシピをみてその通りに買ってきてつくるってのはエンジニアリングで、冷蔵庫の中にあるものでその場にあった美味しいものを作るのがブリコラージュ。

倉貫
なるほどなるほど。

青木
これから必要な能力って、エンジニアリングよりも、ブリコラージュなんじゃないかと思っていて。

倉貫
そうですね。僕らの会社では、プログラマーのことを寿司職人って呼んでいて。お客さんがきて、会話をして、お茶を出して、最初はおつまみでってしていくうちに、だんだん好みがわかってきた上で、握りを出すのが職人なんじゃないかと。

ただ握るだけじゃないし、しゃべるだけでもないし、お茶を出すタイミングを給仕さんに合図するところも含めて、現場のリーダーになるというか。

だから、注文どおりにプログラムを打てばいいというわけではなくて、お客さんの話を聞いて、今抱えている問題は何かをわかったうえで最適なものを提供しましょう。なんだったら、僕らはプログラマーだけどプログラムをつくらないでお客さんの問題をしゃべりで解決してもいい。

それが、僕たちが「納品のない受託開発」っていっている肝で。

青木
月額でお金をもらっているからできるんですね。

倉貫
そうですね。これが、作らないとお金をもらえないなら、作りますよね。ちょっと体調が悪そうでも、料理を出さないとお金をもらえないから、まあ食いましょうよって言っちゃう感じ。

でも、月額固定契約のしばりがあるから、作らないほうがいい時は作らないで、こういうサービスがあるから使ったらいいですよって教えてあげれば喜ばれます。

青木
そりゃそうですよね。

倉貫
そして、その方式なら、一気にたくさんのお金を貰おうとしなくてもいい。

お客さんと長くつきあうほうが、会社としては経済合理性が高まるので、今お金を貰うために、いい加減なこといってお客さんに切られちゃうよりも、真摯に対応したほうが得だなってプログラマーも思いますよね。お客さんもそのほうが嬉しいですし。

青木
利益相反しないんだよね。「納品のない受託開発」にこだわるのはそういう理由なんですね。

倉貫
そう、そして、それが一社強いところと契約するんじゃなくて、複数の会社と契約することで変化に振り回されることも少なくなる。

僕は、経営とは何なのかなんてわかっていないかもしれないですが、こうやって人間が、無理をしないように自然とやるなかで、自然とお金が入ったり、会社が良くなったりする仕組みをつくってあげることが一番大事だと思っています。

 

後編は更に議論が深まり、ジブリ映画にみるリーダー像、そして「会社の死」というテーマにまで切り込みました。
後編「会社の不安定さが社員を安定させる?

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