2018.03.01

メディア?広告?動画ビジネスの次なる一手とは──ONE MEDIA 明石岳人×クラシコム 青木耕平対談 前編

書き手 長谷川 賢人
写真 佐々木 孝憲
メディア?広告?動画ビジネスの次なる一手とは──ONE MEDIA 明石岳人×クラシコム 青木耕平対談 前編
昨今は大型の資金調達やテレビCMもあり、注目を浴びる「動画メディア」たち。SNS、YouTube、そしてスマートフォンに慣れ親しんだ世代との親和性から、ユーザー数や視聴回数も増加の一途をたどっています。

国内でも数社が名乗りを挙げる動画メディア業界において、テーマに「あなたの1日、人生、そして世界観を揺さぶるような体験を。」と掲げるONE MEDIA。FacebookやSmartNewsといったプラットフォームを主戦場に、複数の番組チャンネルで動画を展開しています。



創業は2014年6月と国内の動画メディアではいち早く、現在では本田技研工業やサントリーコミュニケーションズといった大手クライアントの動画制作も実施。成長著しい雄として、業界をリードしています。

今回は、ONE MEDIA創業者で代表取締役の明石岳人さんと、クラシコム代表の青木が「これからの動画メディア」についてディスカッション。かねてより親交のあるふたりが、「北欧、暮らしの道具店」でも推し進める動画事業についての意見交換を含め、動画ビジネスの次なる一手、そして組織論を語り合いました。

「映像」と「動画」の違い、知っていますか?

ONE MEDIA・明石岳人(以下、明石)
スマートフォンで動画を見ているときって、スワイプしている間にメッセージが飛んできたりもするから、すごくインタラクティブなんですよね。その中で時間を使って見てもらうためには、いろんなものに打ち勝つ「強さ」が必要です。

そう考える僕らがつくっているものをより知ってもらうために、まずはこの小橋賢児さんのインタビュー動画から観てもらうのがいいかな。

クラシコム・青木耕平(以下、青木)
僕らくらいの世代だと俳優としてのイメージが強いですが、今はイベント事業なども手がける実業家ですよね。


小橋賢児のDo what you can’t from ONE MEDIA on Vimeo.

明石
これは現段階での集大成的な動画であって、「映像」と「動画」の違いを踏まえたいくつかのポイントを押さえています。

青木
そのポイントは創業当初から目算があったんですか。

明石
いや、2014年から制作を続けて、だんだん分かってきたことですよ。

ポイントの1つ目は「動画は音で注意を引けない」。テレビCMで言えば、映像に入った最初が一番強い印象になります。ゲーム機の「PlayStation」のCMでは最初に決まった音が鳴ったり、テレビドラマを見ているとCMで音量が上がったりしますよね。

方や、動画の世界では、Facebookならば音を出して観ている人は全体の10%ぐらいです。音では注意を引けないからこそ、グラフィックやアニメーションといったビジュアルを変化させています。ランチ中の紅茶が来るまで、仕事や電車待ちのスキマ……そういった「生活の継ぎ目の時間」に思わず観てしまうものを作る。これが「動画」です。

明石
ポイント2つ目は「時間軸の凝縮」。映画の『ゴッドファーザー』は見たことあります?

青木
たしか最後までは見きれてないんですが、あれ、すごく長い作品ですよね(笑)。

明石
3時間くらいありますから(笑)。『ゴッドファーザー』の終盤では、進行している別の画面をインサートする「クロスカッティング」という手法が使われています。現代ではアクション映画の冒頭あたりでよく出てきますね。

クロスカッティングは『ゴッドファーザー』によってヒットしたのですが、当時、映画館で観ていた半数はその手法を理解できなかったそうです。でも、今の僕らが簡単にそれを理解できているのは、子供の頃から観ているからです。だから、人間がコンテンツを理解する能力って年々増していると思うんです。

現に、NHKの教育番組ではクロスカッティングがありません。視聴対象の1歳から3歳の間では手法が理解できない。ただ、年齢とともに、画面内での複数進行を理解し始めます。特に今の小学生はYouTubeもたくさん見ていますから。

YouTubeが映像から動画へのシフトで果たした大きなテクニックがあって、そのひとつが「ジャンプカット」です。会話で生まれる間隔を削ぎ落として、映像をぎゅっと詰めてるんですね。つまり、どちらも「時間軸の凝縮」が行われているわけです。

普通にしゃべっている映像のままだと、モバイルで観るにはすでに体感的に遅すぎてしまう。そう感じる子たちはドラマも1.5倍速なんかで再生しています。作り手側の「間」の工夫とか、なんなんだって感じですけどね(笑)。

青木
最近、僕の息子がNetflixで観ていた『斉木楠雄のΨ難』を横からのぞいたら、登場人物がとんでもなく早口なんです。それでも息子は爆笑していて、スピードの差を体感しましたね。

たとえば、任天堂の『スプラトゥーン』ってゲームでも、キャラクターの会話で音声を出さないのも、普通のスピードで話されてしまうと「遅い」と感じるからなんですかね?

明石
そうだと思います。あれは「イカ語」という独自の音声で世界観を担保しつつ、時間の圧縮もされている。めっちゃ考えられているなと思います。対戦ステージの確認もしなきゃいけないし、みんな早く撃ち合って遊びたいわけですから。

明石
それから、動画のポイント3つ目は、「フレームに収まるものの数」です。発売当初のテレビ放送は一人がしゃべってアップで大きく映る、現在のモバイル動画のようでした。最近言われる「ひな壇芸人」というバラエティの仕組みは、画面の解像度がフルHDになり、一人ひとりの顔が認識できることで成り立ってきたといえます。

一方で、映画は画面が広かったので、より空間を表現できていた。言わば、視聴する環境がクリエイティブの作り方を逆に定義してきたんですね。言い換えると、クリエイティブは視聴する環境に縛られているわけです。

さらに「動画を見る態度」はデータとしても出てきます。動画は最初の3秒間で決まるんです。フリックの指を止めるかを3秒で決め、10秒間までで最後まで見るか判断する。要は、視聴者の期待値を設計しなくちゃいけないんです。その設計がちゃんとできていると、全体の長さが30秒でも、60秒でも、90秒でも、最後まで観る人の割合は変わらなくなります。

よくある「100万回再生されました」というフレーズも、蓋を開けてみると最初の3秒間までの視聴がほとんどだったということもあります。だから僕らは、動画を「能動的に見た」といえる場所での戦い方を研究しています。

ONE MEDIAの社員にはテレビ業界の出身者もたくさんいます。彼らが入社当初の時期はどうしても、その動画の面白いキモの部分を終盤に持っていきがちです。

青木
いわゆる「起承転結」を意識すると。

明石
そうです。ただ、最初が面白くないと見てもらえないので、その構成では厳しいわけですね。

動画マーケティングは「手元」だけでは完結しない

明石
青木さん、先日発表された「Nintendo SWITCH labo」の映像は観ました? あれ、すごく良かったじゃないですか。

明石
ただ、あれは「任天堂が良いものを発表した」という興味があるから見ている。それは任天堂が持つ「積み重ね」があってこそです。そこも、僕らがマーケティングにおいて「映像」と「動画」の果たす役割が全く違うと思う理由のひとつです。

青木
この話でいうと「Nintendo SWITCH labo」の予告は「映像」なんですね。

明石
そうです。むしろ、動画は「何が見えるか」は関係なく、すべてが「人に見てもらえるチャンス」だと思うんです。2017年にホンダのスーパーカブが60周年を迎えて、その記念動画をつくる案件がありました。これも先ほどお見せした小橋賢児さんのとフォーマットは同じです。

明石
普通の会社ならクライアントと3時間くらいミーティングをして、「ゼロから考えてきます」と持ち帰っても、全然内容が決まらなそうな案件です(笑)。

でも、僕らは普段から動画メディアを運営しているから「観られる手法」がわかります。スーパーカブのヒストリーを伝えたいなら、僕らが呼ぶ「テーブルトップ・ドキュメンタリー」で行くか、数字を訴求したいのなら「インフォグラフィック」にするか、どちらで進めますか?と、すぐに提案できるわけです。今回でいくと前者が採用されました。

青木
要するに、先に「箱」や「スタイル」がある。この動画でも「1億台のバイクとは?」という仕掛けが10秒までのところに出てきますね。

明石
そのスタイル自体も、動画を毎日配信しているから成立します。それと、この案件を通じて、動画がマーケティングに果たす役割としての気づきがあったんです。この動画は評判がよかったので東京モーターショーの展示ブースでも流すことになったのですが、来場者のみなさんが足を止めて見ていたんですよね。それってスマホでの動きと同じだなって。

僕はアートが好きで美術館へよく行くのですが、たまに映画や作品解説の映像が流れているじゃないですか。たとえ興味があっても、15分くらいそれを見続けるのは難しく、特に移動中であれば、コンパクトにまとまっていないとしんどいと感じます。

動画はスマホの中にだけ存在するものだと思っていたのですが、 電車やタクシー、商業施設など、ポスターの代わりとして動画は入る余地がある。それが、今までのマーケティングにおいては「動画」ではなく「映像」だったので、見られるタイミングが限られてしまっていました。

青木
映像との接点は、それこそ人生に占める割合で考えると、家にいる時間を中心としたプライベートの時間という多く見積もっても30%くらいのシーンにしかなかったと。けれど、動画であれば日常の多くに接点がつくれるかもしれない。

明石
朝起きてから、電車の中、仕事の合間、さらに帰宅するまでと、寝る前にも接点がある。僕らは「おはようからおやすみまで」って言ってます(笑)。

まだ多くの家庭のテレビは4K対応もしていないですし、普及するまでにはまだ長い時間がかかると思います。通信が速くなっていて、スマホでの体験がリッチになっていく状況で、いつか「動画」が「映像」のパイを追い抜く時が来る。そこへ向けて動画メディアのコンテンツをちゃんと考えていく。僕はONE MEDIAをそういう会社にしようと思っています。

「それは動画にしなければいけないのか?」

青木
まさにスマホでの体験が求められる状況で、クラシコムとしても「動画」をいかに強化していくのか結構悩むわけです。あるいはどういうメンバーで作っていくのか。

試していく中で、レシピ系など再生回数が伸びやすいものはあれど、まずは僕らにしかできないであろう分野に集中したいと思っているんです。つまり、スタイリッシュな通販につながる「動画」にフォーカスしてみようと。

メンバーは、外注先となる映像のプロフェッショナルではなく、現状いる社員で、映像を制作したことがない人にやらせてみています。この前は、入社1年目の20代歳の女性社員にiPad Proを渡して、試してもらったり。なぜそうするかと言うと、素人で時間がかかってもいいから「自分はどういうものが観たいか」を考え、自分でつくってみるという体験をしてもらいたいからです。

「何からやるか」を考えた時に、まずは自分たちがどこへ向かっているのかを定め、自分たちが特性を出せる部分にフォーカスする。クオリティをいきなり求めていくよりも「動画で私たちは何を言いたいのか」をゼロから考える期間を持たせたいんです。

明石
すごく良いと思います。なぜなら、動画を作る上で深く考えなければいけない要素の一つが、「それは果たして動画にする意味があるのだろうか」ってことだからです。

世の中には動画にしなくていいこと、いっぱいあるんですよ。特にファッションは動画にするのが難しいジャンルだと思っていて。写真のほうが見えていない部分を想像したりとかするじゃないですか。だからInstagramでファッションを見るのは楽しいんですよ。

青木
実は、さっき話した女性社員がつくった動画が、まさにファッションアイテムなんですが……観てもらってもいいですか?

明石
これはコットンブラウスのふんわりした良さを伝えようとする、20代の彼女の気持ちが伝わってきます。動きで「ふんわり感」を出すために、寄ったアングルを選んでいるわけですね。

よくあるファッション動画は引いた画で撮っているじゃないですか。 「ふんわり感」を出すためにウォーキングをさせたり。でも、それだと本当らしく見えないんです。この動画は場面設定も、アクセサリーをつけたり、朝の身支度への導線であったりと、等身大の自分で考えたんだろうなということが伝わってきますね。かっこいい動画ではないけれど、「これでいいんだ」って感じがある。

青木
「これでいいんだ」って大事なことだと僕は思っています。ここで勝ちパターンが見出せれば、あとはそこへスタイルをつけていけばいい。だからこそ、まずはプロの関わる制作体制で走り始めるのではなく、伝えたいことの本質や、注力すべきテーマへの理解を重視したんですね。僕らは今この瞬間に成果を出したいというよりは、コツコツ進んでいきたい。やればやるほど成果が出るようにしていきたいと思っています。

明石
それは動画の指標にも関わってきますね。言ってしまえば、「再生回数はクラシコムのビジネスにとって必要なのか?」という話です。

ほとんどの企業ではKGIを利益において、それを因数分解することでKPIが出てくるわけですけど、散見されるのが「ライバル会社も再生回数やフォロワー数だから」と他に指標を合わせてしまっていること。それではダメです。

メディアなどで「流行っているから」という理由で動画を新しく始めると、そんな罠にハマってしまう。そうではなく、自分たちの事業において動画の果たすファンクションがあり、それが何を満たすのかが先行していないと。だからこそ、この数字がいるのだと導けるといいのではないかと、だんだんわかってきますよね。

ブランド広告は「約束」と「関係性」があるから成り立つ

明石
僕らも目的を持って動画を作っています。大きなところでは、動画を観た後でポジティブな気持ちや明日への希望を抱けることです。それが僕らのメディアと視聴者との「約束」だと思っていて、僕はメディアビジネスってその約束をクライアントへ貸すことだと考えているんですよね。

僕らと視聴者とに約束があるから、何かについて深く理解して、気持ちを変えたいと思っているお客さんが使う。その約束の質が、クライアントの質を決める。

「ブランド広告をどうすれば獲得できますか?」と質問をよくもらうのですが、ブランド広告を取るために何かをするのではなく、ブランドが約束を貸してほしいと思えるメディアだから依頼が来るわけですよね。その流れでいえば、クラシコムさんの動画も「フィットする暮らし」を伝え続けている約束があるから、みんな観ているのだと思います。

青木
僕らも「ブランド広告」ではなく「紹介」ですと言いたいんです。まさに紹介って関係性を貸すことじゃないですか。たとえば、僕が明石さんに友達を紹介したいとして、この紹介が良い機会じゃなかったとしたら、僕と明石さんの関係を毀損してしまう。だから、良き紹介しかしたくないし、そのためには僕と友達が仲良くなることが第一です。

僕らも「お客さんにどうやったら伝えたいことを聞いてもらえるんですか?」ってよく聞かれるんですが、それは聞いてもらえるかどうかではなく、どういう関係性を先に作っておくかだと思います。

先ほどの明石さんの話から思うに、もっと重要なのは「こういう関係性になりたい」と相手が思ってくれる自分ではなくていけない、ということです。それを「伝わる」ところだけテクニックで切り取っても、それだけでは何も起こらない。動画もきっと同じですよね。

明石
その意味では、配信者を隠していても、自分たちの名前を思い出してもらえるかが超重要で。 テキストだと相当に独特な文体でない限りはわからないのですが、動画が持つ「ストーリーテリング力」なら可能だと思っていて。動画のようにビジュアルとセットだと僕らのスタイルを認知させる力がある。

ONE MEDIAがスタイルに注力するのは、その意味を大切にしているからです。

※では、ブランド広告を得ていくために必要な「スタイル」は、どのようにすれば作り上げていけるのでしょうか。制作体制を組むうえで、大切にしなければならないこととは?
後編:ダサいと言える勇気を!センスを育む組織論

PROFILE
明石岳人
ONE MEDIA株式会社 代表取締役 1982年静岡生まれ。上智大学を卒業後、エキサイト株式会社へ入社し、2011年に独立。雑誌「Pen」のWEB版や、企業のオウンドメディアを中心に、デジタルメディアの立ち上げと事業化を専門に活動。2014年6月に分散型動画メディアを主軸にした「Spotwright(スポットライト)」を創業、その後「WHITE MEDIA」と名を変え、2017年には現在の「ONE MEDIA」となった。Facebookを中心に自社メディアを運営しながら、様々な企業広告やPR動画を制作している。

好きなもの:Netflix鑑賞