全世代から愛される理由は仮想通貨を発行しているから?気仙沼ニッティング 御手洗瑞子× クラシコム 青木耕平対談 後編

書き手 長谷川 賢人

写真 長谷川 賢人

全世代から愛される理由は仮想通貨を発行しているから?気仙沼ニッティング 御手洗瑞子× クラシコム 青木耕平対談 後編
気仙沼ニッティング代表取締役社長である御手洗瑞子さんと、クラシコム代表の青木による対談の後編です。

前編では、気仙沼ニッティングの成り立ちや「世界はイタリア化する」という展望にまで話は展開しました。後編はさらに、気仙沼ニッティングが幅広い年代から愛される理由を、昨今話題の仮想通貨「ビットコイン」になぞらえて、解き明かすことを試みます。

お客さまは男女半々、20代から80代まで!

御手洗
「北欧、暮らしの道具店」は、具体的にはどういった方がお客さまなんですか?

青木
いつも冗談っぽく言っているのは「過去にマガジンハウスから影響を受けている人」じゃないかなと(笑)。なので年齢や性別というデモグラフィック的な基準で捉えていなくて、どんな価値観やカルチャーを共有しているかで捉えたいと思っています。

御手洗
それは男女を問いませんか?

青木
価値観はそうですが、お客さまとしては97%が女性です。35歳から45歳くらいの人たちで8割を占めるのですが、この世代は人口としても多いので、マーケットを価値観からセグメントしても、かなりのボリュームがあると思っています。

僕が常に見ているのは30歳から40歳前半くらいの人……もう少し正確に言うと「今、目の前にいるお客さま」を見ているということなんです。そうすると、お客様と一緒に事業が歳をとっていってしまうのではないかとか、お客様が歳を重ねていかれたら卒業してかれるのではないか、などと心配されるのですが、現実にはそういうことは起きないんじゃないかと思ってるんですよね。

なぜなら、年齢ではなく価値観に対して商品を送り出しているので、今はたまたま現在の年齢構成になっているだけだからです。続けていくうちに60代、70代になってもその価値観のアウトプットが好きな人がいて、新たにその価値観に触れて好きになる人がいて……と、長く続けば続くほど、結果的には全年齢に分布していく。

だから、お客様が高齢化するとか、卒業されてしまうというようなことは心配したことがありません。価値観というのは年齢ではなく、意識や考え方に紐づくものですから。

御手洗
「今、目の前にいるお客さま」は具体的な顧客リストの話ではなくて、考え方や暮らし方の価値観が合う人なんですね。

それは、なんだかわかる気がします。気仙沼ニッティングはコアな年齢層すらいなくて、最初からものすごく分散しているので……(笑)。男女も半々くらいですし、お客さんは20代から80代までいらっしゃいます。でも、特に多いのは、20代後半から30代前半のお客さまかもしれません。

青木
へぇ、面白い!ミレニアルズ世代、ここにお金を使っていたのか!(笑)

御手洗
私の世代もそうですけれど、20代の彼らはより、子どものころからモノが身近にあふれていたのだと思います。だからこそ、なんでも欲しい、というわけではないのでしょう。

仕事をするようになってお給料も手にして、贅沢をするわけではないけれど、せっかく買うのなら納得いくものを……と、気仙沼ニッティングの「etude(エチュード)」を手にしてくれているのかもしれません。

「自分が買って着ていたら、大学時代の同級生ふたりも着ていました」と3人で撮った写真を送ってくれる方もいましたよ。

リスクは取れるサイズにまで細分化する

青木
御手洗さんのお話を聞いていて、「僕らは“何を”買っているのか?」と、あらためて考えさせられます。平均で10万円ほどする気仙沼ニッティングさんのセーターを20代の彼らが買うのは、かんたんに説明がつかないなと思うんですよ。既製品のまあまあなブランドのセーターなら4万円くらいで、単純に比べれば2枚買えてお釣りがくるわけですから。

御手洗
“何を”……それは、ほんとうにわからなくて、私が聞きたいくらいです。最近は、「Me」というセーターで、黄色のものが人気なのです。でもそれも、「黄色が売れる」から狙っているのではなく、「いいな」と思ってから出していて……。きっと、オーソドックスな色を手に取る人が多いだろうけれど、明るい色の選択肢もあるといいなと思ったのでした。あ、でも、店頭でちょっとテストはしたかな。

青木
どんなふうにテストを?

御手洗
今シーズン出した「Me」は、黄色やみどりといったカラーバリエーションを揃えているのですが、出すときはやっぱり勇気がいりました。すごくきれいな色だし、着ると素敵なのだけど、果たして受け入れてもらえるだろうか、と。

そこで、定番セーターの「エチュード」で黄色を1〜2着だけつくって、私が店番しているときにコーネルコーヒーの店頭(※毎月第1土曜日に気仙沼ニッティングが展示販売会を開く、東京・赤坂にあるカフェ)に、出してみたんです。

青木
その反応で、次のシリーズに入れられるかもしれない、とわかるわけですね。

御手洗
はい。それで置いてみたら、お客さまが最初に手に取って試着をされるのが、その黄色のエチュードだったのです。黄色のエチュードは、1〜2着しかつくっていなかったので、売上としてはその1〜2着分だけです。

でも、みなさん最初に黄色をご試着されるし、鏡の前に立って「わぁ、黄色、かわいい!」とすごくよろこんでくださる。それで、黄色を出しても大丈夫かな、と思えました。お客さんが最初になに色を試着しているかは、私が店頭に立っているから把握できることで、営業報告の売上の数字だけ見ていたら、わからないことでした。

こういうことは、色にかぎりません。ときどき「よくリスクを取れますね」と言われたりもしますけど、私は小心者なので、「これなら万が一失敗しても大丈夫かな」と思えるところまでリスクを小さくしてから、リスクを取っている気がします。

青木
他人からは「大きなリスクを取っている」と見えていて、自分としては「イヤイヤ最小化している」と思えているのはベストなパターンですよ。それは、初めて起業する多くの人が陥りやすい罠でもあるのですが、起業家はリスクを取るもので、「リスクを取る怖さを乗り越えて怖いままに勝負する」と勘違いしていると、一瞬で大きなミスをしてしまうことがある。

僕が最初の事業でコケたのも、まさにそうだと思うんです。でも、実は乗り越える必要なんてなくて、怖いうちはやらなければいい。

御手洗
小さくできる方法が見つかった時に、初めて進めばいいというか。リスクを取れるサイズにまで細分化できて、ステップ・バイ・ステップでいけるなら……って感じですよね。

青木
まさにそうです。売上としては「黄色のエチュード」が1枚だけれど、それをドラッカーがいうところのイノベーションの種である「予期せぬ成功」だと捉えられるかはビジネスのセンスが問われますね。

御手洗
その、自分にとっての「わからなさ」があるから面白いというか。そういえば、最近「これはどういうことかわからないけど、うれしいなー!」ということがあったのです。以前から気仙沼ニッティングの写真をずっと撮ってくれているフォトグラファーの刑部信人さんという方から、ありがたいオファーをいただきました。それは、気仙沼ニッティングを着る人の写真を撮りたいというものでした。

それって普通は、こちらからお願いしなければいけないくらいのことですから、素直に「ありがとうございます!」って(笑)。

青木
言い方は良くないかもしれませんが、費用の面でも助かりますし、歓迎ですよね。

御手洗
ずっと気仙沼ニッティングを近くで見てくださっている刑部さんが、気仙沼ニッティングのことをそう思ってくださっているのも、うれしかった。

それで、気仙沼ニッティングが展示販売会をする際に、「気仙沼ニッティングのものを着てくださっている方は、刑部さんが写真を撮ってプレゼントします」とご案内しました。写真をプレゼントして、もしご本人にご承諾いただけたら、刑部さんのウェブサイトにも載せさせていただくことにして。

そうしたら、毎回いろんなお客さまが、気仙沼ニッティングのニットを着てきてくださるんです。もう、感激でした。

青木
しかも、いちばん良い感じに見えるように、良いコーディネートで来ると。

御手洗
そうなんです!みなさん、素敵なコーディネートで着てくださってて。まだ数日しかやっていないんですけど、もう何十人かの方に、写真を撮らせていただきました。ありがたいことです。

でも、冷静に考えると、これってすごいことだなとも思うのです。たとえば、自分がこれまで服を買ったお店で、「この日の何時から何時まで」と設定されたうえで、服を着てくれたら写真を撮りますよと言われても、なかなか足を運ばないんじゃないかと思うんです。なんでこういうことが起こり得るのか、自分でもよくわからない。

気仙沼ニッティングの秘密は「ニットコイン」にあり?

青木
ぼくは今日、ここへ来る途中の食堂で思い当たったことがあります。気仙沼ニッティングさんは実際のビジネス的な売上に加えて、ある種の仮想通貨ともいえる隠れた売上が大きく立っているのではないか、と。仮にそれを、ビットコインならぬ「ニットコイン」と呼ぶとしましょう。

一般的には写真家とイベントを開こうとすると、現実にはお金が何万円とかかる。お客さまも結果的には気仙沼ニッティングさんのモデルになるために交通費をかけて来てくださる。だけれど、それに対して気仙沼ニッティングさんは何も払っていないのかといえばそうではなく、ニットコインで払っているんです。

つまり、気仙沼ニッティングさんは会計上の売上外で稼いだ“何か(=ニットコイン)”を使って費用を支払っているものがある。

御手洗
ふーむ。たしかにこの撮影会には、お金は動いていないのです。お客さんも刑部さんも、時間を使ってくださっている。私もお店に立っている。そして、なにか楽しいことがここで起こっているし、みんなうれしい。でも、誰の間でも、お金のやりとりは起こっていない。なんなのでしょうね。

青木
それこそ「ニットコインを払っている」ってことですよ!(笑)

というのも、それを「信用」や「ソーシャルキャピタル」と言い換えてしまうと、なんとなく善行のように聞こえてしまうのが、ぼくはモヤモヤしていて。もっとわかりやすく「得をしている」と思うんです。一般的には生産ラインを拡充するために支払っているお金の代わりに、ニットコインで編み手さんが引き寄せられている、とか。

だから僕は「気仙沼ニッティングは稼ぎ出したニットコインを使ってマーケティングしている」と言いたくなったわけです。

御手洗
その発想はなかったけれど、うーん。マーケティング、とも思っていないですし。でも、なんなのでしょうね。そういうふうに言わないとわからないくらい不思議な現象は、たしかにいろいろ起こるのです。

青木
毎年の会計上の売上と、ニットコインの売上を、仮にでも定量化できないかなと思いますよ。それに、もし仮想通貨になぞらえて話すのであれば、昨今もビットコインの値動きが話題になりましたが、「1年前」と「今」で価値が上がったた場合、先行で持っていた人に利益が出る仕組みでもある。それはニットコインも同じなのではないかと。

御手洗
そうだ、刑部さんが写真を撮ってくださる機会に、気仙沼ニッティングが始まったばかりのころに「MM01」をご注文くださったお客さまが、いらしてくださったんです。その方が「僕は、初期のころに『MM01』を注文したのだけど、その後気仙沼ニッティングがこうやって成長して、よかったなぁと思って見ています」と話してくださっていました。うれしかったなぁ。

青木
ぼくがなぜニットコインでのマーケティングを引き合いに出すかといえば、これらの行いを「コストがかかっていない」とは捉えられたくないな、と思うからです。

それに、前提となるコストを引き受けた結果として、それらを叶えているわけです。たとえば、MM01を機械でたくさんつくれば事業機会があったかもしれないとか、品質の基準をある程度は落とせば量産できるだろうとかも、我慢しているわけじゃないですか。

でもその機会損失を受け入れることでただ損してるわけではなく、実はニットコインを稼いでいる。そして、そうやって稼いだニットコインを実際には支払ってマーケティングしてたりする。たとえ会計上の費用を負っていなくても一般的な「コスト削減」とは違う軸なんですね。

僕はこんなふうに、「なんでうまくいってるんですかね?」って話からたどっていったほうが、結果的に面白く仕事ができるんです。「御社のどこに問題点がありますか?」なんてコンサルタントの方に言われたこともあるけれど、いやいや、問題点が特定できていたら解けてしまうじゃないですか、と(笑)。

御手洗
たしかに「解くスキル」ってコモディティだから、人工知能ができちゃうかもしれない。そして、問いを立てられたら、もう半分は解いてるようなものですよね。

青木
だから、問うことができるのが希少価値だと思うんです。今、御手洗さんと話していて、なんで黄色が売れちゃうんだろうとか、なぜ京都から来ちゃうんだろうとか、これら全部「なんでうまくいったんだろう」という軸の問い方じゃないですか。

御手洗
そうやって問いを立てるには、やはり、ものごとを見る「解像度」がいるのだと思います。店頭に立たず、売り上げレポートだけ見ていたら、「黄色のエチュード」には気づけないはずだから。逆にいえば、レポートから立てられる問いは、人工知能でも立てられるようになるかもしれません。とは言いつつ、ただ私の性格もあって、そういうことを「なんでだろう」と考えるのが好きなだけかもしれません。

青木
ただ、今まではそういった「ものの問い方」って稚拙だときっと思われていた。売上レポートから立ち上がる事実よりも、「なぜ遠方からお客さまが来るのか?」といったことに問題意識を向けられることの重要性が増しているんだと感じますよ。

御手洗
そういえば、ちょっと話は変わりますが、先日札幌の展示販売会である発見をしたんですよ!

その日は吹雪いていて、心配になって「この雪でもお客さんは来てくれるだろうか」とつぶやいたら、札幌出身の人たちはことごとく「あぁ、札幌市民はこんな雪、日常茶飯事だから全然関係ないですよ」って言うんです。

だけれど、3日ほど店頭に立っていたら、雪はびっくりするほど客足に影響することがわかりました(笑)。吹雪はじめると、お客さんの足はパタリと途絶える。雪がやんだなと思うと、その1時間後ぐらいから、まただんだんお客さんが来てくださる。

これは私たちだけのことではなく、札幌市内の飲食店や百貨店の方に伺うと「冬はてきめんに客足に響きますよ」と教えてくださいました。話を聞くだけではわからないことは、たくさんありますね。

青木
Eコマースも天気が関係なさそうで、「むしろ雨だと売れるでしょう」と言われるんですけど、いやいや、天気が悪くなると売上は下がりますからね(笑)。

御手洗
えっ。なぜ?

青木
わからないんですよ。それは、クラシコムの業態も一因で、なんとなく気分が上がった状態で買いたいものだからかもしれない。日々の売上を見ている担当に聞いたら「天気は深い関係があります」と言うんです。

御手洗さんがおっしゃったように、これも「解像度」の問題。売上データだけを見ていたら天気との関連性には気づけないですからね。問いの実例なんだと思います。

自分が外れた後にも、ますます栄えるように

青木
先ほどリスクを細分化してステップ・バイ・ステップで進むというお話もありましたが、御手洗さんとしては、気仙沼ニッティングの事業に対するコミットメントは、長期の時間軸でお考えなんでしょうか。つまり、言葉は悪いですけれど、いつまで御手洗さんが気仙沼ニッティングに関わり続ける想定なのか、ということなんですが……。

御手洗
それにお答えするなら、会社は長く育てるものだと考えています。ただ、私にも寿命があります(笑)。なので、いつか次の人にバトンタッチしても大丈夫なように会社を育てるのは、私の責任だと思っています。

今はそれこそニットコインを稼いでいるかもしれないですけれど、規模としては、まだまだ吹けば飛ぶくらい。だから、もっと丈夫になるまでは、私がやらなくてはなと思っています。思ったより、「長くかかるなぁ」とは感じていますが……(笑)。

青木
「長くかかる」ということは、時間軸で見れば、自分の他の可能性を捨てて賭ける部分もあるじゃないですか。ただ、それを「できる人」と「できない人」がいる。ぼくは「できる人」かはわかりませんが、今のところはそうしたいと思っていて、基本的にはクラシコム以外の可能性を捨てて考えているもので。

御手洗
私としては、気仙沼ニッティングをピカピカに育ててからでないと、私個人の「次」だってないと、思っているんですよ。やっぱり、「御手洗さんが去った後の気仙沼ニッティングは、ますます栄えましたね」って言われないと。

青木
そう言われないと、稼いできたニットコインもポータビリティのないものになっちゃう。

御手洗
そうかもしれないですね。そういえばつい先日、「いつかやりたいけれど、いい形が見つかってなかったもの」について、いいことを思いついたんです!

それは時間も労力もかかることですが、すごくワクワクしています。これができたら、気仙沼ニッティングはまたぐっと面白くなる。やりきりたいなぁと思っています。春くらいに発表できたらな、と思っています。

 

前編 「気仙沼ニッティング」はイタリア的?唯一無二のブランド力を解析!

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