「北欧、暮らしの道具店」広告ビジネス戦略の裏側、すべて話します。クラシコムサロン第3弾レポート。

書き手 長谷川 賢人
「北欧、暮らしの道具店」広告ビジネス戦略の裏側、すべて話します。クラシコムサロン第3弾レポート。
株式会社クラシコムが主催となり、企業のマーケティング・プロモーション担当の方々に向けて開催している「クラシコムサロン」の第3弾を、2017年11月28日に行いました。

今回のテーマは『「北欧、暮らしの道具店」広告ビジネス戦略の裏側」』です。

従来のクラシコムサロンでは、毎回異なるゲストを社外からお招きし、代表・青木とそれぞれのテーマについて掘り下げていくかたちをとりますが、今回はクラシコムの事業開発グループよりマネージャーの高山達哉を加えて、これまで「北欧、暮らしの道具店」が推し進めてきた広告事業についてお話しました。

クライアント企業とのタイアップ広告メニュー「BRAND NOTE」も、2015年7月に立ち上げて2年が経ちました。2017年10月からは「BRAND NOTE PROGRAM」をリリースし、従来の「読みもの」形式でのブランデッドコンテンツの企画・制作・配信以外にも、さまざまなお取り組みが可能となりました。

2017年12月現在までに32社/46ブランド/144本のコンテンツを配信し、広告事業はクラシコムの営業利益において2割を占めるほどに成長しました。広告ビジネスは、ウェブメディアにおいて切っても切れない生存戦略のひとつ。「北欧、暮らしの道具店」の実践例は、その他のメディアからも興味の対象としてご質問をよくいただきます。

クラシコム代表の青木と高山が(そして、話を振られた店長の佐藤が!)ビジネス立ち上げ期から未来の姿まで語った時間から、その言葉たちを5つのポイントにまとめてみました。


▲司会は、クラシコム コーポレート・スタッフの筒井あい子が務めました

1.目指したのは「ウェブにおけるテレビ的なプレミアム商品」

青木
「北欧、暮らしの道具店」で買い物をするお客様は、1000人の訪問があれば4人くらいなんです。つまり、996回の訪問は全くマネタイズできていないということで、それを収益化するのに広告はわかりやすく、トライしたいことでした。

全体のページビュー(PV)が1000万を超えたらいけると感じていたのと、この広告事業に責任を持って立ち上げてくれる人がいればと思っていたときに、高山と出会ったんです。

高山
とはいえ、僕は前職でオウンドメディアの立ち上げ、コンテンツマーケティング支援、女性クリエイター向けのオウンドメディアの広告担当を務めていましたが、いわゆる「プッシュ型」の広告事業は経験があるとはいえませんでした。だから最初は、青木とふたりで様々なクライアントにお会いして、そのインサイトを探っていくことから始めたんです。

青木
僕らは素直さには定評があるから(笑)。

まずは広告代理店に務める知人に「御社の新入社員に教えるように広告とは何かを語ってほしい」とお願いしました。レップやメディアバイイングといった業界構造を聞いたうえで、クライアントのインサイトを伺い、自分たちの制作リソースや約束できうる成果への見込みを掛け合わせることで、「北欧、暮らしの道具店」が輝ける立ち位置がありそうだと仮説が立ちました。

その知人から「テレビCMはなぜ価格が高いか」を教わったことは大きなヒントでしたね。テレビは免許事業でプレイヤーが増えない、時間の制約があるから24時間以上の放送ができない、それゆえに有限である「放送枠」を各社で取り合っているから、という理由です。一方でウェブメディアは「枠」を無限に増やせるところがあった。むしろぼくらが手がけるべきは、ウェブの中でテレビ的なプレミアム商品を作ることだと行き着いたんです。

そこで調べてみると、当時はウェブメディアの記事広告は1本200万円が最高峰でしたから、その1.5倍にあたる300万でも売れる商品を、数を少なく提供するところから始めました。座組や価格を変えながら、現在は記事前後編の2本セットに、Instagram、Facebook、Twitterのソーシャルメディアへの投稿を合わせた形になっています。

2.「広告事業に参入する理由」をスタッフに丁寧に説明した

高山
スタッフからは、広告事業を進めることでお客さまに嫌われてしまうのではないか、クライアントの意向がサイトに出すぎてしまうのではないか、と不安がる声もありました。

その点について、青木や店長の佐藤といった経営陣が「コンテンツの意味合いや守るべきことは何か」「広告事業の収益がクラシコムにとってどれぐらいプラスになるのか」をスタッフにどんどん伝えてくれました。それでスタッフも腹落ちして、意識が変わっていったようです。

青木
商業ウェブメディアの根底にあるものは収益性だと思うんですね。高い収益性を実現することができれば、コンテンツに対してより多くの金銭的/時間的コストをかけられる状況が成立するので、結果的には良いメディアを作れることになります。

例えば、ウェブメディアを運用型広告でマネタイズしようとすると、1PVを0.5円にするのが非常に難しいといわれています。一方で、いまのクラシコムは広告事業単体でも1PVで1円ほどの収益をあげられる状態になっています。メディアの収益性を高めていく上で広告ビジネスに取り組んでいくのは、さらにメディアへコストをかけられる体制づくりでもある、という関係性をスタッフには繰り返し語っていました。

3.広告を、商品と同じく「仕入れ」と捉える

高山
今のところ、3割はメールの問い合わせ、7割が僕らからアプローチしています。ただ、いただいたお問い合わせはお断りするケースが多いですね……。

青木
その「断る」ということに関連するのは、広告事業のKPIとして数字のノルマを課していないんです。事業計画はあるけれども、無理して案件を取ってくる必要はない。それはクライアントと僕らとお互いのためもあり、パフォーマンスが出せない広告ではお客さまのためにもならないからです。

それに、出稿に関しても、相容れないことがあれば最終的にはその案件から降りるという選択肢も僕らにはあるわけです。

高山
そうですね。例えば「お鍋」のご依頼があったとして、A社はOKだけれどB社は難しいと判断することもあります。

それは僕たちの主観になるんですけれども、大切にしているのはお客さまに対して「広告する=紹介する」というスタンス。「この商品を本当に紹介したいか?」は僕たちの主観でありながら、「北欧、暮らしの道具店」としてのポリシーにも通ずることなんです。

特にマスプロダクトに多いのですが、「この商品の、この部分をもっと知ってもらえたらお客さまが好きになってくれるのでは?」と思えれば取り上げることもあります。

クライアントの商品担当者はプロダクトに携わってきたからこそ、本当は伝えたいメッセージがある。でも、伝え方がわからなかったり、自分たちから言い出すのは難しかったりする。

それを僕らがすくい上げるという図式ですね。

青木
そのスタンスが成り立ちやすいのは、お客さまにとって僕たちが「メディア」ではなく「お店」として認識されているのが大きい。つまり、普段から主観に基づいた商品紹介をされるコミュニケーションにお客さまが慣れているんです。

広告商品を正面から勧めるのをクライアントに心配されることがあるのですが、むしろ僕らは主観的に語りやすい媒体。そもそも他社の商品を仕入れて、その商品の良さを伝えているECサイトの事業がメインですから、言うなればお客さまのゴールが「カートボタン」から「ランディングページ」に変わっただけともいえる。「北欧、暮らしの道具店」を10年間運営してきた体験が、そのまま僕らなりの広告制作のノウハウとして使えているわけです。

4.お客さまとの「ふだんの関係性」を大切に考える

店長 佐藤
広告といえども「北欧、暮らしの道具店」で提供しているコンテンツのひとつなので、「これは広告だから」と線を引いてディレクションすることは避けようと思っています。

メディア全体として目指していることは「自分らしく、よりよく生きたい」と思っている人に、記事を読んだ時間に対して「ありがとう」と言ってもらえることです。ほんとうに役に立つものを提供するのはBRAND NOTEでも変わりませんし、読んでいる時の空気感や気持ちよさも同じように届けたいんです。

そのために意識しているのは、ちゃんと「北欧、暮らしの道具店」らしい取材対象者にオファーをして、お客さまに親和性を感じていただけること。それから、写真のテイストから醸し出される空気感はとても大きく働きますから、ふだんの記事からお願いしている写真家さんをアサインすること。そして、BRAND NOTEでも「うちらしい」と感じていただけるものに編集することです。

青木
「広告のメッセージを伝えるにはどうすべきか」とご質問をいただくこともあるのですが、伝わる/伝わらないを考えるより前に、関係性のない人の話は「聞いてもらいにくい」というごく当たり前の原理原則があります。

街中でいきなり声をかけられるのと、親しくしている人から誘われるのと、どちらが食事を共にする成功率が高いかを考えれば、圧倒的に後者ですよね。「どうすれば伝わるか」という問いは根本的に間違っていて、「どのように関係性を作るか」が最も重要なわけです。

以前、3000人ほどご回答いただいたお客さまアンケートによれば、「北欧、暮らしの道具店」に週1回以上訪問すると答えている人が96%、毎日来る人は72%でした。さらに、アクセス解析の数字で言えば、全アクセスのうち50%ほどが過去に20回以上訪問した履歴のある人たちです。習慣的に来ていただくことができているといえるでしょう。

5.クラシコムでしか成し遂げられない広告事業をつくる

青木
今後も変わらず、コツコツと事例を積み上げていこうと思っています。

「BRAND NOTE PROGRAM」が稼働し始めているところですが、企業様の商品を当店でお買い物されたお客さまに「ギフト」としてお届けする「BRAND GIFT」は、僕らにとっても特徴的な広告商品だと感じています。

広告が出せるウェブメディアで、物流機能を持っているのは、おそらく「北欧、暮らしの道具店」くらいしかない。金額として大きく育つ期待感よりは、僕らにしかできないことでお客さまやクライアントにも喜んでいただけることではないかと思います。

また、最近はクライアントのオウンドメディアに提供するコンテンツ制作や、メディアコンサルティングを依頼されることも増えてきました。自分たちのポリシーを曲げずにプランニングしたコンテンツスタジオのようになれれば、新しい試みとして成り立つかもしれません。米国ではメディアの大きな収益源なっているモデルですからね。

高山
僕たちは「枠を売る営業」というよりも、クラシコムのコンセプトや考え方を伝えて、仲間づくりをしているようなイメージなんです。

「クラシコムサロン」で共感してくれる人と時間を過ごしたり、先日制作した『BRAND NOTE BOOK』という冊子で僕らが考えたい未来について思いを深めたりするのも、その手段のひとつです。説明コストはたしかにかかりますが、それをしっかりやっていけることが案件につながっていくと考えています。

※今回のトーク全編は、書き起こしメディア「ログミー」でも記事化される予定です。興味を持たれた方は、ぜひ併せてご覧ください。