日本人の目が厳しいってホント?B品の定価販売が教えてくれる大事な視点。フードデザイナー・モコメシ 小沢朋子さん【後編】

書き手 編集スタッフ 小野

写真 高木あつ子

日本人の目が厳しいってホント?B品の定価販売が教えてくれる大事な視点。フードデザイナー・モコメシ 小沢朋子さん【後編】
「食べるシチュエーションをデザインする」をコンセプトにした「モコメシ」のフードデザイナーでありながら、インドの定番グラス「VISION GLASS」を販売する「國府田商店」をご夫婦で運営する小沢朋子さん。

前編では、「VISION GLASS」を販売するに至った経緯や、B品を"NO PROBLEM品"と名付けて定価で販売するNO PROBLEMプロジェクトについてのお話をうかがいました。

後編では、NO PROBLEMプロジェクトについてさらに詳しく。課題に対してのひとつの答えが、ライフワークに発展しています。

それぞれの NO PROBLEMの境界ってどこにある?

──私は、これまでもVISION GLASSは愛用していたのですが、今回初めてNP品(B品をあえて定価で販売する NO PROBLEM品の略。前編参照)を取り寄せてみたんです。それが、「NP品だぞ」と心して手にとったはずなのに、全然どこがNP品なのか分からなくて。これでもNP品になるんだなと改めてその基準の厳しさに驚きました。

小沢
うーん。そうでしたか。それも、見方を変えると問題ですよね。

検品する私たちは勝手にNP品にしているけれど、お客さんは全然気にしていなかったら。展覧会をやった狙いのひとつにも、実情を探りたい気持ちもあるんです。みんなどれくらい気にするのか。

私たちは卸売りをしているから、小売店さんから返ってくるリスクがあるんですよね。小売店さんはお客さんから返ってこないかっていうのを気にしている。お互いを気にし合っている。

もしかしたら、気にし合いすぎて、それが過剰になっているんじゃないか?という仮説があるんです。

NPにまつわるイベントで、いろんなメーカーの人が参加してくれて話を聞くと、「お店さんが厳しくて」っ言うし、お店の人は「お客さんが厳しくて」って言う。だけど実際にお客さんに聞くと、「え、これくらい?わからない」っていう意見も意外とある。

一概には言えないけれど、もしお互いが気にしすぎて、無駄な部分が出てきてしまっているならもったいない。品質についてどのへんが適正なのかを、いろんな立場の人が話し合う土俵みたいなのがあるといいですよね。

私たちの展覧会や発信が、「これくらいは許容できるな」とか「ここは困る」とか、みんなで考えるきっかけになってほしいです。

──展覧会の投票や感想からみて、最終的に商品を買うお客さんは寛容な部分もありそうですか。私は、大雑把な性格だし、小さな傷は全然気にならないんですが……。

小沢
本当にさまざまですね。全体的に「このくらいなら定価で買う」っていう投票が集まるラインは、私たちの検品基準からもそんなに離れていませんでした。でも、もちろんグラデーションがありますから。

展覧会を通して、品質に対する許容度とか寛容性、考え方は多様だと改めて分かりました。

「NO PROBLEM展」とはしていますが、タブロイドでインタビューしたり展示に参加してくださったみんなが、ゆるいものを出荷しているわけでは全くありません。

しわ加工のプロダクトをつくっている「SIWA」さんも、茶筒をつくる「開化堂」さんもすごく厳しい基準を設けていましたね。

逆に手工業製品を扱う松野屋さんは、同じ発注をしても大きさがまちまちのカゴが納品されるのを丸ごと受け止めて、使い方を説明しながら販売していました。同品番で同じ値段で、全然ちがうサイズのカゴを売っている。本当に、いろいろなんですよ。

A品、B品などと言葉にすると、AとBの間に明確な線があるように思っちゃうけれど、明確な線なんてなくて全てがグレーゾーン。その人の考え方によって変わる、で、その考えも多様である。

多様であるならば、「じゃあ自分はどう?」って考えられますよね。そして、正解はないってことを、言いたいんです。

自分にとってこの傷は絶対嫌だとか主体的な嫌はあって当然だと思うんだけど、なんとなく「傷がなくて当たり前」で、どういう風につくられているのかに想像が及ばないままに、傷ものに背中を向けてしまうのはどうかなって思うんです。

──検品作業とか、B品とか、恥ずかしながらほとんど全く想像しないで生きちゃってます……。

小沢
私も、この仕事するまでは全く。世の中のお店の棚に並んでいるものがすべてだと思って生きてきましたから。

──私は、仕事で工場に取材に行くこともたまにあるんですが、工場でロボットが生産するようなものでも、やっぱりはじかれているものっていっぱいあるのにも驚きます。

本当に見えていないだけで、手作業でやっているものであっても、工場でつくっているものでも、目の前に並ぶものがすべてじゃないんですよね。このNO PROBLEMプロジェクトで問いかけられて自覚的になった部分がすごくあって、ありがたいです。

小沢
そういうふうに言ってもらえるのが嬉しいですね。東京会場は来場者が6000人くらいだったんですが、終わりに近づくにつれて来場者数が伸びたのが嬉しかったです。口コミで広がっていったんですよね。最終の連休は1日に1000人くらいのお客さんがいらっしゃいました。

多様な商品のあり方を知るって買う、「NP百貨店」

──これまでの展覧会やタブロイドの発行で終わりではなくて、VISON GLASSもNP品も売り続けていくだろうし、展望を教えてもらえますか。

小沢
NP品については、他のブランドのものも扱って売っていきたいです。それぞれのNP商品をお預かりして、値引きをしないで定価で売る「NP百貨店」をやりたいです。

NP品の展覧会をやってすごく反響をいただいて、意義のある展覧会だったと思うんです。だからこそ、なんとか続けたいんだけど、展覧会だけやっていては、経済的な理由からも続けられません。

だから、経済活動に落とし込んで続けていきたい。そう考えた時に、安くしか売れなかったものを定価で売れるようになれば、他のメーカーさんにとってもいいことだし、そこに共感してくれる人も、絶対にいると思います。

NP百貨店という枠組みをつくって、オンラインで販売することを考えています。今、ありがたいことにいくつかの小売店さんからも声をかけてもらっていて、NP百貨店として催事をやってほしいとか、小さな売り場をつくってみたいという声もあるんです。

NP品の売り場をちょっとずつつくって、さまざまなNP品を定価で売る店をやりたいですね。

 

展覧会では、「考えさせられた」という反応が多かったんですが、その次のステップにいかなくちゃと思っているんです。そのアクションのひとつが実際に購入すること。

実際に買ってみて、「自分にとってどうかな?」と問いかけてほしい。NP品を買って使いながら「毎日、嫌な思いしているかな?」って自分の感覚に聞いてみる。それが次のステップかな、と。

──私はNP品に全然気づかない自分の、細やかでない感性を「はー、やっぱり」って思いました。それもまた自分の性格を知ることですね。

小沢
そういえば、検品ワークショップをやってみたら、なかなかおもしろくて。これはコンテンツになると思っているんです。「検品を通して自分を感じる」みたいな(笑)。

いまちょうどスタッフの板垣さんにワークショップのアウトラインを考えてもらっています。以前やったときには、結構反応が良くて、「自分自身を見直すきっかけになった」みたいなコメントが結構ありました。

──私、検品に絶対向いてないです。全部ノープロブレムってしちゃうタイプだと思います。

小沢
と思うでしょう? でも、実際にやってみると、そういう人でもいろいろ考え始めちゃうんですよ。そして新たな自分を発見する(笑)。

始まりはおしゃれなグラス。いつかは、どこでも買える日用品へ

──VISION GLASS全体に話を戻すと、まだまだこれからだっていう話を前半でうかがいましたが、VISION GLASSで國府田家の家計を支えるくらいになる作戦はありますか。

小沢
まず、VISION GLASS事業部と今後他のブランドも関わってくるNP事業部は、分けようと思っているところです。

VISION GLASS事業部の売り上げをもっと増やしていく策としては、商品数を増やすことを考えています。今まであんまり積極的に商品開発ってやっていなくて、フェルトのスリーブをつくったくらい。でも、初期の頃からずっと、密閉の蓋がほしいとお客さんの要望があるんです。

取っ手つきのグラスも考えています。インドでは売っているんですが、かたちがあまり好きではなくて。私たちの取引先が増えた今なら、私たち好みの取っ手をつくるお願いができるかもしれません。そそぎ口つけてみるとか、いろいろアイデアは浮かんでいます。

あと、香港のレストラン向けに卸せないかという話もあるので、そういう広がりも今後出てくるかもしれません。

──卸先は、やっぱり増やしていきたいですか。

小沢
増やさなきゃというより、もうちょっと「普通のガラスコップ」っていう佇まいに落ち着いていくといいなと思っています。それは当初から考えていたことです。インドでは、30年間売られている定番のコップなんですから。

──あらためて、30年前からあったと思うと、洗練されていて驚きます。

小沢
すごいですよね。

私たちは日本で、少しおしゃれ気味にリリースをしていたんですよね。普通の食器屋さんよりは、ライフスタイルショップとか、アパレル系の雑貨ラインに入ったりとか。少しおしゃれなグラスという印象から入っていきました。

イメージよく始めたいからそういう見せ方をしてきたんだけど、でも本質的には、VISION GLASSは日用品だと思っているから、そこに落とし込んでいきたい。

取り扱いを始めて4年経って、都内ではVISION GLASSを知ってくれている人も増えてきたし、お店でもちょっとずつ使ってもらえるようになってきた実感があります。だからもう少し広げて、「デザインのいいグラスがほしいな」と思った時に、すぐに買えるような商品に育てていきたいです。

いずれは合羽橋で売っていたらいいなぁとも思うし、その辺のブランディングの調整は結構やっています。最初、オンラインやチェーン店では販売していなかったのも少しずつ緩めてきました。

いいものは、普通に手に入るのが一番いい。私たちもずっと日常で使っていきたくて始めたので、終着点はそこですね。

 

前編「インドの定番グラスを輸入販売。初めて知るB品問題への向き合い方。

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