『サプリ』連載中に3人の子どもを出産。そして今、子育てをしながら新たな作品に挑戦する。おかざき真里インタビュー後編

書き手 編集スタッフ 馬居

写真 小倉亜沙子

『サプリ』連載中に3人の子どもを出産。そして今、子育てをしながら新たな作品に挑戦する。おかざき真里インタビュー後編
マンガ家おかざき真里さんに、広告代理店に勤めながらプロのマンガ家として活躍されていた頃のお話を伺った前半に続きまして、後半では、会社を退職後、月9ドラマにもなった大ヒット作品『サプリ』の連載前後に3人のお子さんを出産されながらも、現在に至るまで、作品の勢いは衰えること無く描き続けることができたその秘訣についてお話をうかがいました。

聞き手は、先日3人目の子どもを出産し、おかざき真里さんの育児エッセイとそのご活躍に日々励まされている編集・馬居です。

産後直後に発表した作品が月9ドラマに

──おかざきさんは、2000年に、ご結婚とほぼ同時に退社されたんですよね。

結婚したからというよりは、当時もう既に、マンガがかなり忙しくて、会社に行けない状況も続いていたので、そろそろやめようかなというタイミングと重なったんですよね。

まあ、子供が欲しかったのですが、当時はまだ女性が子育てをしながら働くという環境は整っていなくて。そういうのは、自分個人でなんとかするものだっていう雰囲気もあって…。そんな中で、「マンガ」と「会社」と「子育て」と、さすがに3つは持てない、何か一つは諦めないとと思ったんですよね。そうすると、じゃあ、選ぶなら、マンガと子育てかなって。

──そして、会社を辞めたあとに、広告代理店を舞台にしたおかざきさんの代表作『サプリ』を描かれたんですよね。なぜこの題材を選ばれたのですか。

当時、第1子を産んだばかりで、取材にあまり行けなかったので、自分の経験を元に描けることをと思って選びました。

──この大ヒット作は、お子さんを産んだ直後に始められたんですね。

いや、でも、最初は全然売れなかったんですよ。私がそれまでに出した短編集のどれよりも売れなくて。担当さんにも、悪くないマンガだと思うんですけど動かないですね〜って言われて。私も、絶対他の人が描いてないものを描いてる自信はありましたけど、でも、そうか、それだけじゃダメなんだな〜とか思っていました。


自身の広告代理店勤務での経験を元に描かれた『サプリ』。

ただ、1巻が出たあとに、ドラマ化のオファーがかなり色々なところからきたので、連載自体は続けてもいいよということにはなっていたんです。

3人の子育ては博報堂で鍛えたアイデア力で乗り切った

──そして、ドラマ化を契機に売れていったんですね。

そうですね。

──『サプリ』は月刊雑誌での連載で全10巻なので、かなり長い期間描かれていましたよね。最初のお子さんの出産が連載直前で、他のお子さんは…?

今、長女が中学3年生、長男が1年生、次女が小学4年生で、一番上と下は5才しか離れていないので…、『サプリ』を連載中に3人産みきりましたね。

『サプリ』を描いてる時の3分の1は妊娠していて、半分以上は授乳しつつで、『サプリ』の最初から最後までオムツを変えていました(笑)。


育児エッセイも人気。『ひねもす暦』(手前中央)

──信じられない…!

でも、ほら、生まれたばかりはじっとしてますし、一番仕事しやすいじゃないですか。ミルクあげたらノックダウンされるので。飲ませりゃ仕事ができます。

──いやいや、そんな簡単におっしゃいますが…保育園に入っていたのですか?

それがですね、長女は結局保育園に入れなくて、3歳児まで待って幼稚園に入れました。長男も次女も0才児の時は入れなかったです。

──東京の保育園事情め…!

まあ、いざ幼稚園に入れるとなっても、送り迎えが大変だなと思ったので、幼稚園バスがあるところを選びました。本当に忙しい時は延長保育をお願いしていましたが、そうするとお迎えに行かないといけないので、なんやかんやで普通に帰ってきて。

ママの隣りに座って、お絵かきをしようね!と言って、彼女がカキカキしている間に、ヨシヨシとマンガを描いて…。

──赤ちゃんはどうしていたのですか?

どうしても忙しい時は、民間の保育園で時間単位で預けられたので、お願いしてはいましたが、とても高いですよね…。

ですから、まあ、動き回るようになってからは、床の上にゴロンと寝かせて、ボールをぽいっとなげて、とっておいで〜って言って、その間にマンガを描いてですね。

──!!

飽きたら、私の靴下に目をつけて、「こんにちは!へびくんだよ」と言って、ハイハイで追いかけさせたりしていました。

夏になったらベランダにプールを出しましたね。でもしばらくすると水びたしでワ~っと入ってくるので、もうダメだと…。これも大体1時間もてばいいですね。もう、次から次へとアイデア勝負です。

──すごい…!広告代理店で鍛えられたアイデア力の賜物ですね。

そうですね。こんなとこで生きるなんて(笑)。

漫画家と子育ての両立は意外と健康的!?

──先日お話を伺ったマンガ家ユニットうめの小沢さんは、お子さんが産まれてからは、夜はお子さんと一緒に寝て、朝早く起きて仕事をするというサイクルに変えたとおっしゃってましたが。

私もそうしました。最初は寝かしつけてから起きて仕事をしてたんですけど、早く寝ろ〜!ってイライラしちゃうので諦めました。代わりに、一緒に20時過ぎに寝て、朝は2時か3時に起きて、仕事をするというサイクルにしました。

──20時から3時だと、7時間と、なかなか良い睡眠時間ですね。

そう、ちゃんと寝れるんです。このサイクルって、牛とか馬とかを育てる畜産業の方たちと同じなんですって。日の入りと共に寝て、日の出前に起きてっていう。

──そう聞くと、すごく健康的な生活に思えてきました。

そうなんですよ。

今はもう上の二人は中学生ですが、私のサイクルは変わっていなくて、お母さんが真っ先に寝ちゃいます。子どもたちは塾に行ったりするので、帰ってきたらお母さんはもう寝てるっていう。

──おかざきさんのお子さんは、男の子は真ん中のお子さんが1人ですよね。実は、うちは男の子が3人なんです…。中学生になったら、今よりも楽になりますか?

あぁ…、男の子は…大変ですよね。

私、男の子の子育てで本を書けるんじゃないかってくらい自信を持っている説があって。男の子って、きかんしゃトーマス系か仮面ライダー系か、どちらにハマるかで育て方が変わると思っていて。トーマス系は、図鑑なんかを好きな子も多いので、早めにお勉強をさせてそのままエリートコースへ!なんて考えても良いと思います。

──なるほど!でも…、うちの子は…、完全に仮面ライダー系ですね。常に何かと戦っています。

あぁ…、うちもです。そう、こっちはね…、こっちはね…、中学生になってもあまり変わらなくて…。

──なんか、あの人たち、ずっっっっと動いてませんか。

そう!ずっっっっっっと動いてる。

晩ご飯の用意をしてたら、とーんてバドミントンの羽が飛んできて、はっと後ろ向いたら、長男が「お、怒られる…」て顔して固まってるわけですよ。はい、もちろん怒りますとも!ってね。

中学生になっても、うちの子は野球部なんですが、朝7時から夜9時くらいまで一日中野球やってますからね。

──中学生になってもあまり変わらないのですね…。まあ、見ていると面白いんですけど…。

そう、他の子は、見てると面白い。でも、自分の子になると…怒っちゃいますよね。とにかく、もう何してもいいから、他の人に迷惑だけはかけないでって。

──それだけを願いますよね。

仕事で落ち込んでも、子どもが元気ならヨシとしよう

──子育てが仕事に生きてくることはありますか。

会社を辞めて、ひとりで漫画を描いているので、それでも孤独にならないことはありがたいですね。

あとは、博報堂で働いていたときもそうですけど、私は常に案件をできれば4つ以上ほしいなと思っていて。一つの案件だけを進めていると、その案件がだめになったら大変じゃないですか。複数あれば、まあ、他のことを頑張ろうって思えますけど。

よく、仕事と子育ての切り替えが大変でしょって言われますけど、私にとっては切り替えをできることがありがたいです。

──仕事と子育てというよりは、両方が並列にワークとしてあるということですね。

そうですね。

仕事がすごく駄目な感じなったときも、でもいいや、子どもたち元気だしって。

子どもが3人いるのも、何かでこの子はもう!と思っても、まあ、あと2人いるからいいかなとか気楽に考えられるのは良かったりしますよね。「まあいっか」って思えることは、子育てをする上でとてもありがたいなと思います。

──きっと色々な事情はあると思いますが、共働きの家庭は、2人目、3人目の子作りに踏み出せないという話も最近よく聞きますね。

そうですね。でも、働いている人ほど、早めに次々産んで、兄弟を作ってしまったほうが楽なこともありますよ。親が介在しないで、子どもたちの中で色々なことをなんとかするので。

うちは、長女が弟と妹の勉強を見てくれているんです。ついには、長女が学校から、一年かけて何かの研究をしなくてはいけないとなった時に、「私は一年かけて弟に勉強を教える」って言い出して。弟の成績アップを研究テーマにして、教えたことや弟が勉強したことを記録して、成績の動きをグラフにしたりして。

私が、息子に勉強を教えようとすると、つい、「なんでこんなことがわからないの?」と怒ってしまいますけど、お姉ちゃんは怒らないでやってくれるので。親が怒りすぎてしまうところは、兄弟は怒らないのでありがたいですね。

子育てをしながら、新たなテーマに挑戦できたのは?

──実は、今回のインタビューをお願いしたきっかけが、今連載されている『阿・吽』なんです。というのも、これまで女の子の生き方をたくさん描かれてきたおかざきさんの作品とは全くテーマが違う、空海と最澄という日本の仏教界における重要人物を主人公にした骨太な作品で。これを、子どもが3人いても描けるんだと驚いたんです。もともと、歴史は詳しかったのですか?

いえ、全く詳しくないですよ。鎌倉時代と室町時代のどっちが先かもわからなくらいでした。

──え、そうなんですか!

編集者の方が、このテーマを監修してくださる方に面白い方がいるから、マンガを作りたいけど、一番わかってないやつに描かせたいと思っていたようで。

──わかってない人?

そもそも、漫画を読む方は、詳しくない方のほうが多いですよね。もちろん、この時代に詳しい方もいらっしゃいますけど、たくさんの方々に届けるためには、何も知らない人が描いたほうがいいって。

──何も知らない中で、歴史モノに挑戦するのは怖くなかったですか?詳しい方から何か言われてしまいそうですし…。

そうですね。でも、一般の方でも詳しい方がたくさんいらっしゃるのは、戦国時代とかで、この時代に詳しいのは、いわゆる研究者の方を除くと、比較的少ないんです。

そもそもに、残っている物自体が少ないので、物証がないんですよね。もちろん、学者さんの中では、色々な説があったりするようです。でもだからこそ、どの学説にも染まらず、良いとこ取りで、こっちの説をとってみたいなことができる私に描かせようという感じで。


遣唐使として中国の仏教・密教を日本に伝えた最澄と空海『阿・吽』

もちろん、最初はプレッシャーも感じたんですけど、すごく救われた言葉がありまして。

僧籍を持たれてる方にインタビューをさせていただいたときに、「空海を描こうなんて、アホやないとできひんわ!」っていわれて。

ああ、そうか、私なんかに描けるのかって思ってたけど、アホじゃないと描けないということは、私は描く資格があるんだ、よかった!って思いました。(笑)

──アホしか描けない!空海に関することは誰にもわからないからということですか。

それもありますし、空海も最澄も、神格化されている方なので、そこに踏み込むとか…、まあ、よく描こうと思ったな、みたいなことですよね。もちろん、失礼にならないようにっていうのはとても気をつけてはいます。ですが、私は、学者さんの中で行われている論争までは、もう…。

──それは、わからない、と。

そうですね。

──色んな説を良いとこどりするといっても、調べ物は大変ですよね。

そうそう。大変なんです。

弘法大師の歩んだ絵巻物が残ってるというので、それを手に入れて、これでバッチリ!と思ったら、それは室町時代に描かれたもので、空海たちが生きた平安初期とは着物も違うし、当時は存在しないものも描かれていたりして。大枚はたいて買ったけど、全然使えないっていう。

──時代によって、僧侶の着物も違うんですね。『阿・吽』を読んでいて、空海や最澄の姿はとてもかっこいいのですが、この2人の天才の周りにいる人達の嫉妬や、自分の能力がないことへの苦しさは、仕事してる中でも共感するところです。

空海や最澄は天才だから、なかなか感情移入はできないですよね(笑)

お互いの力を認め合う空海と最澄『阿・吽』

私が、何も知らない中で『阿・吽』を描こうと思った時に、唯一絶対に気をつけないといけないのは、空海と最澄はスーパースターである、という前提は崩しちゃいけないということで。

どちらも宗教を起こした方たちなので、それを信じている方もたくさんいらっしゃるので。それは崩さないでと思ったら、感情移入ができるところって周りの人を描くしかなかったんです。

『サプリ』も長く続けていくと群像劇になっていきましたし、私の描き方って、主人公をつぶさに描くというよりも、周りを描くと主人公が見えてくるみたいな描き方なので、周りに色を持たせるようにはしています。

『阿・吽』の場合は、時間の流れが長いので、なかなか固定した周りの人は作りづらくはあるんですけどね。

子育てを経て生まれた、新たな働く女性たちの物語。

──そして最新作の『かしましめし』。この中で、主人公が、友達にはいろんな食事を振る舞いながら、自分ひとりでいる時は、自分で作った栄養のあるご飯は食べたくないという場面にすごく共感しました。どんなに一生懸命子どものご飯つくっても、自分では食べたくない時ってありますよね。

そうそう。子どもには、野菜をたっぷり使った手作りのご飯を出して、私はコンビニに行ってサンドイッチとチューハイ買ってきたりしちゃいます。

──わかります!あれはなんでしょう。

味のわかるものは食べたくないというか、脳がもういいって拒否するかんじ、ありますよね。子どもたちには、ほら、美味しいそうだね〜っ!て言いながら、自分は食べない。

──『かしましめし』で出てくる家めしはお子さんに作っているものですか。

そうなんです。だから、家めしというか、子どもご飯でもありますね。おひたしとか子どもが食べないものは出てこなくて、ハンバーグ的な…まあ、登場人物たちは20代だからいいかなって。

──これは、子育てがマンガにいきているということですね。

そうなりますね(笑)。子育てはちゃんとできている自信はありませんけど、まあ、ご飯だけは作ろうと思っているので。

──ご飯だけは、妥協しないということですか。

いえ、妥協はしてます。もともとは、料理が苦手で、というか大嫌いで。でも、これも、人生の修行だなと思ってがんばりました。

『かしましめし』にもよく出てきますが、ホットプレートが良いですよ。キャベツの千切りも、もう買ってきたものでいいから、豚こまと小麦粉と混ぜて、お好み焼きだよ〜!みんなで作ろうね〜!楽しいね〜!って盛り上げながら、自分たちで作らせるんです。

洗い物も、少ないですし、多めに焼いておいて、次の朝もお好み焼きです。そして冷凍もしちゃいます。たこ焼きや、包まない餃子もおすすめですよ。


『かしましめし』に登場する「包まない餃子」

お好み焼き、餃子、たこ焼きは、炭水化物も、野菜も、肉も、卵も、みんな入ってるし。あとはトマトでもきったら、よし、大丈夫!

豚こまもコンビニで買えるし、世の中どんどん便利になっていますから、大丈夫ですよ!

──なんだか今日のお話を聞いて、私も子育ても仕事も頑張れる気がしてきました。

そうでしょ。大丈夫、大丈夫。

──おかざきさんのように、全てを楽しく受け止めて乗り切っていきたいと思います。今日はありがとうございました!

 

前編『広告代理店に勤めながらマンガを連載。好きなことで生きていく「副業」という働き方。

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