時代と世代で変化をとげる、「私」が見える発信のかたち ライター・編集者 一田憲子×「北欧、暮らしの道具店」代表 青木耕平×店長 佐藤友子【前編】

書き手 編集スタッフ 小野

写真 木村文平

時代と世代で変化をとげる、「私」が見える発信のかたち ライター・編集者 一田憲子×「北欧、暮らしの道具店」代表 青木耕平×店長 佐藤友子【前編】
クラシコムジャーナル初の鼎談(!)は、兼ねてから代表・青木、店長・佐藤とも親交があるライターの一田憲子さんの登場です。

一田さんは、「北欧、暮らしの道具店」のライターとしても活躍し、クラシコム社員に向けて編集講座をしてくださったこともある方。一田さんのものの見方や筆致は、読者はもちろん、クラシコムの社員にも多くの共感をもたらしてきました。

これまでも、ディレクターとなって手がけたムックや、著者として、数々のすてきな読みものを生み出してきた一田さん。そんな彼女が、昨年「外の音、内の香」という「自分のメディア」をリリースしました。

なぜ今、自分の名を冠したウェブサイトだったのでしょう。いつも葛藤を抱えながら、「自分を発信すること」について考えてきた佐藤は、一田さんの想いに興味津々です。

一方の一田さんからは、「ぜひ青木さんも交えて3人で話しませんか?」という提案をいただきました。聞けば、クラシコムジャーナルの読者でもいらっしゃる一田さん。これまでの記事を読んで、ホスト側である青木が、相手のビジネスについて率直に意見しながら展開するやりとりがおもしろいと、常々思ってくださっていたそうです。

自分が登場するならば、「いかにウェブメディアの運営をしていくか」という課題について、「青木さんにつっこんでいただきたい!」のだそう。

果たして、3人のメディアに関する想いが交錯する時間となりました。

編集者・ライター

一田憲子

OLを経て編集プロダクションに転職後フリーライターとして女性誌、単行本の執筆などを手がける。 2006年、企画から編集、執筆までを手がける『暮らしのおへそ』を2011年『大人になったら着たい服』を(共に主婦と生活社)立ち上げる。 そのほか、『天然生活』『暮らしのまんなか』『クレア』『LEE』などで執筆。近著に、『明日を変えるならスポンジから 暮らしの道具を選ぶこと』(マイナビ出版)がある。 全国を飛び回り取材を行っている。

好きなこと:読書、文章を書くこと、美味しいものを食べること、美味しいものを作ること、暮らしの小さな工夫を凝らすこと、家を見ること、洗濯、散歩、旅、果物でコンポートを作ること

実は小心者の出たがり?恐る恐る「私」を出す

佐藤
一田さんご自身の仕事観や、フリースランスの経験で培ってこられた資産を生かして、ここから先どういうことをやろうとされているのか、私も青木と一緒に興味津々で。

一田さんが運営されているWebサイト「外の音、内の香」の対談のなかで、写真家の中川正子さんがWebサイトを立ち上げるとき、背中を押して下さったと語られていましたよね。

ご自分の Webサイトもそうですが、『かあさんの暮らしマネジメント』や『わが家のお金を、整える』などの最近の本も、今までの一田さんとは一味違う、振り切れたようなタイトル付けやテーマ設定で、出版されている気がしています。

一田
私は、意気地なしで、つい尻込みしてしまうけれど、『「私らしく」働くこと』という著書を出したとき、その写真を撮ってくれた中川さんが、「出版した今、ちゃんと『自分』を出さなくちゃ」と言ってくれたんです。

佐藤
一田さんは私の10歳くらい先輩だと思うんですが、少し後ろを行く後輩としては、すごく希望になっています。

一田
すごいドラスティックなことがあったわけではなく、だんだんとなんですよ。

自分にずっと自信がなくて、いつも不安に苛まれながら仕事をやってきました。フリーライターは、お仕事をいただいてなんぼの仕事なので、若い頃は仕事がなくなったらと考えると夜も眠れなくなっていました。

ただ、だんだん歳を重ねて、ちょっとずつ仕事のなかでも自分を出してきたわけですよ。

淡々ときた仕事をこなすお仕事の仕方もあるけど、私はきっとどっか出たがりのところがあるんです。それが恥ずかしいことと思ってきたけれど、だんだん「出ても大丈夫かな?」と。それで10年前には、自分が丸ごと企画して執筆編集までする『暮らしのおへそ』を立ち上げました。

でも、最初は誰も『暮らしのおへそ』なんて名前のメディアは知られていなくて、「『おへそ』ってなんですか?」とよく聞かれていましたね。

青木
確かに、最初はなんのことだか分からないかもしれませんね(笑)。

一田
本当に偶然に助けられて、あっち行ったりこっち行ったりでやってきました。たとえば、百貨店のバイヤーの女の子がおへそのファンだと声をかけてくれて、「おへそ展」を開催して少し認知が広がったりしてね。

今は、すごく取材依頼が楽になりました。「おへそ」って言ったら通じるようになった。やっぱり10年かかりましたよ。

青木
よく「小さく産んで大きく育てよう」みたいな話がありますよね。今お話を伺っていて、ご自身を出していくのも、いきなり登場というよりもちょっとずつ様子見ながらだし、「おへそ展」みたいなものも、最初に持ちかけられた時は、「大々的にやりませんか?」ってきて、「いや、でもちょっとずつやりましょうよ」。

だからこそ、積み上がっていく感じがします。

佐藤
ご自分にずっと自信がなかったのに出たがりって、私も同じです。そういう人、結構いっぱいいる気がします。

一田
そう思います。「私なんて」と言っている人ほど、私のことを分かってほしい気持ちがある。それは取材先の方であっても、感じることがあります。

 

若者のメンタリティと「書き手」の変化

青木
今、インターネットを中心として、最初から書き手が個性を出していく流れがあるじゃないですか。もし一田さんが今の時代に、たとえば20代の後半だとしたら、どうしたと思いますか。

今の僕が20代後半とかだったら、彼らと同じようにやるのか、それとも違う風にやるのか、どっちなんだろう。なかなか答えは出ないんですが、でもやっちゃっただろうとは思うんですよ。

佐藤
たぶん、今私がハタチで、青木が23だったら、すぐ2人でWebメディアを立ち上げて、交互交互に更新しまくっていると思います(笑)。

一田
え~!本当?今のWebメディアの状況が昔と違うだけでなく、20代とか30代の人のメンタリティが、私が20代の時とは全然違うと思うんですよ。

私たちが20代の頃って、なんて言ったらいいかな。たとえば、「もっとお休みを取りたいです、そういう生活がしたいです」となった時、「まずは頑張ってから休みます」っていうタイプ。でも今の人って、普段からスローでいくメンタリティじゃないですか?

私が20代の時は、「自信ができてからじゃないと、メディアでなんて書けない」っていう思考回路。私が20代だったらと考えると、そういう思考回路も一緒についてきちゃう。

青木
おそらく自信がないところまでは、昔も今も同じだろうと思います。若いってそういうことだから。そのうえで、今の若い人たちは自信が欲しいからこそ書いているのかもなぁとも思っていて。

多少稚拙さが伴ったとしても、考え方や目の付け所におもしろさがあれば、わりとポジティブなリアクションが得やすい環境がある。だから、そういう中でアウトプットをときどき褒められながら、技量や自信をつけていくことができる。

昔だと、そもそもある程度のレベル以上のものでないと、みんなに見てもらう機会自体が得られなかったですからね。

それと、同じ自信がない人の中でも、もともとインプットが先行している人は、自分の審美眼が磨かれている分、なかなかアウトプットできないと思います。そういう人はアウトプットができた時には、すでにかなり完成している!みたいなことが多そうです。

どちらが良い悪いはないと思いますが、僕が若い頃だと後者のパターンが典型的な世にでるプロセスだったけど、最近はアウトプット先行で、アウトプットしながらインプットするみたいなプロセスで世にでる人も増えた印象がありますね。

一田
そうかー、なるほどね。そうかもしれません。

青木
今の時代は、幼い頃からアウトプットの機会の方が先に提供されます。僕の時代だと、結構インプット先行なんです。20代の後半になるまでアウトプットの機会を全く与えられず、あてどもなくインプットしていくわけですよね。

そうするとやり場のない、高まり切った自意識があるじゃないですか。そうなると書けないし出せない(笑)。そういう違いはあるのかもしれません。

一田
インプット先行の時代と、アウトプット先行の時代の人格って違ってくるんですかねえ。

佐藤
うちの採用の時に「私のずっと大切にしているもの」「好きなもの」みたいなコラムを書く実技があるんですよ。

だんだん平均年齢が下がって若い方も入社してくれるようになってるんですけど、そういう方ほど、アウトプットに慣れていると感じることは多いですね。

青木
読者の側の変化を感じることもありますか。

一田
ブロガーさんが増えてきた変化は感じます。私は普通の主婦の人の取材が一番長いから、ある意味「読者」にずっと取材してきました。たとえば、私が『美しい部屋』などの雑誌をやっていた時は、うちをきれいに飾って、取材に来てもらって、誌面に載ることは自己表現のひとつでした。

でも、もういまや、発信は自分でできる。見てもらうことが簡単になっているからか、「雑誌の取材」に対しても、「うわー」っていう感動が前より減っていると思いますね。

ブログはやっているけど、まだ認められていないとか、どうしたらもうちょっと自分のやりがいが見つけられるかとか、何かを探している人がすごく多いと思います。

青木
純粋なインプットする側の人が減っているかもしれませんね。現代において文芸誌を読む人って、やがて小説家になりたい人が多い、みたいな。受け取り専門の人の喪失みたいなのは、今のお話なんか聞いているとそうですね。

一田
昔は成り上がっていくみたいな気持ちがあったけれど、今は「ありのままの自分でいながら、前にも少し出てみたい」というメンタリティな気がしますよね。

青木
そうかもしれませんね。変化の良し悪しは、3巡くらいしないと分からないですし、難しい時代だと思います。僕ら自身が正しいか正しくないかも分からなくなります。

だからこそ、結局は自分が好きか嫌いかの動機起点でしか、物事を始めにくくなったと思っています。

 

「暮らし系」だってビジネスしている

青木
動機起点でしか始めにくいと言いましたが、一田さんはどうなのでしょう。ここ最近の、若干毛色が変わった本を書くとか、自分のメディアを立ち上げるとかは、個人的な動機付けが入り口なのでしょうか。もしくは、みんなが興味あるんじゃないかというニーズスタートなのか。ぶっちゃけどうなのでしょう。

一田
ニーズではないですね。

青木
では、なんで今ここで?と興味があります。たぶん今日の話に僕も誘ってくださったのも、何かビジネス的なことを考えていらっしゃるのかなと思いますし。

一田
そうそう。アドバイスがいただきたいんです。

青木
そういう風に言ってもらえるのって、僕はすごく喜ばしい。ずっと僕は、ステレオタイプなビジネスマンとビジネスの話をしたいんじゃなくて、自分の価値観的に共感出来る人とビジネスの話もしたいと考えてきました。

僕らがこのビジネスを始めた2007年頃は、価値観を共有しながらビジネスの話をできる人が、正直誰もいなかった。

僕が、価値観が近そうな人とビジネスの話をしようとすると、しゃべったそばから嫌われる。「なんかあいつ金の話ばっかりしてくるな」って(笑)。まさかこんな時代が10年後に来るとは思いませんでした。

一田
私の実感としても、ある時期から、ものづくりの作家さんでも「ものを売らなければ、次の作品をつくれない」という人が増えてきましたね。

青木
タイミング的にいつ頃ですか。

一田
道具系の雑誌が出てきた2000年くらいかな。

たとえば、自分の手でつくるだけじゃなくて、デザインをして、工房でつくる。今までは全部自分でやらないと、「それ、つくってないじゃない」と言われていたようなことを、やる人が出てきたんです。

「ある程度の物量を売らないと、次に自分が作りたいものが作れない」という話をちょこちょこ聞くようになったんです。そういう話を聞くにつけ、「本当にやりたいことをやるためにはお金を儲けないといけない」という意識が芽生えてきました。

いろいろ話を聞いていくと、自分が自分の作家性をちゃんと出してお金を回していくためには、やっぱり儲けなくちゃいけない。売るとかビジネスすることに、なんとなく黒いイメージを持っていたのが、だんだん必要なことだという意識になってきた。そういう蓄積があったのかもしれません。

取材をするなかで、おもしろいビジネスをしている人たちに会ってこられたこともありますね。

福岡の「krank」というフランスの古い家具を売る店では、たとえば、すごく大きな飛行機が天井から吊り下がっていてびっくり!誰か買う人いるのかな?と思っていたらちゃんと売れていく。店舗の内装などに使われるんですね。

彼らは「たった一人好きな人がいればいい」と言います。万人受けするより、「たった一人」を見つけるほうが簡単だと。そういうのを身近でみていると、ビジネスってこういうことなのね、と。

そうすると、取材のときにも、自分が好きなことを続けるために何をやっているかに興味がいく。どんな生業でもビジネスの側面を知るとすごいおもしろい。だけど、それを暮らし系の本ではアウトプットできなかったんです。

青木
こんなに自分の中におもしろいネタが溜まっているのに。

一田
そうそう、そういう感じですよ。それを書きたかったのもありますね。

あとは、1冊丸ごと編集を任せてもらうことも増えましたが、出版社サイドから「来年で終わりです」って言われたら終わりになっちゃう。いくら私が一生懸命でもね。つまり最終決定権がない。

そう考えると、自分の舞台をつくらないといけないという想いが出てきました。そして、全くの手探りで、「外の音、内の香」を始めたんです。

後半では、一田さんの立ち上げたメディア「外の香、内の香」のお話をお聞きすると同時に、一田さんが悩む「ウェブメディアの運営法」について青木の考えを語ります。

【後編】書く場所さえあれば、きっとどこでも生きていける。ライター・編集者 一田憲子×「北欧、暮らしの道具店」代表 青木耕平×店長 佐藤友子

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