暮らしを支えるロングセラーブランド

「チーズの枠を越えたい!」。クリームチーズ・キリの未来の切り拓き方とは。

書き手 忠地 七緒

写真 忠地 七緒

「チーズの枠を越えたい!」。クリームチーズ・キリの未来の切り拓き方とは。
誰もが知っているあの商品。昔から使っていたり、いつも買っていたり、意識することなく、わたしたちのそばにいる、モノ。そんな「当たり前」の奥にある魅力、ブランドとしての想いに向き合います。

連載4回目に登場するのは、クリームチーズの「キリ」です。

「チーズの枠を越えたいんです」そう朗らかに話すのは、キリの広報・マーケティングを担当しているベル ジャポン株式会社の畑さん。キリは現在、世界約50の国や地域で販売されているクリームチーズブランド。最近ではコラボスイーツや期間限定カフェの開催など、分野を越えた取り組みに注目が集まっています。ロングセラーだからこそ、未来を意欲的に切り拓いていく、その奥にある想いに迫りました。

ベル ジャポン株式会社
マーケティング部
シニアブランドマネージャー

畑 千絵(はた ちえ)

半導体やヘルスケア領域でのマーケティングに従事した後、2015年よりフランス フロマジェリー・ベル社の子会社であるベルジャポン株式会社に入社。以来、シニアブランドマネジャーとして、キリブランドのマーケティング活動全般を担当している。

手放すことから、始まった

——キリが生まれた背景を教えてください。

キリは1966年、フランス生まれのクリームチーズです。当時、チーズと言えば、味が強くて固くて、大人が食べるものというイメージ。そこで、子どもが食べてもおいしいと思える味や食感を求めて、チーズ会社・フロマジェリーベル社が研究・開発を重ね「子ども向けのチーズ」として、キリが誕生しました。

キリのクリーミーでやさしい味わいは、またたく間にフランスの子どもたちの中で大人気に。1980年代にはフランスを飛び出し、他のヨーロッパ諸国や中東、そして日本にも「子どもが楽しめるチーズ」として1983年に上陸しました。

当時の日本は、クリームチーズ=お菓子の材料としてのブロックタイプが主流で、小分け包装したポーションタイプのチーズはほとんどありませんでした。だから、日本でキリが発売された時は「クリームチーズをそのままつまんで食べるんだ!」という驚きと共に、お子様のいるご家庭を中心に、食卓に広がっていったようです。

421a2837

ただ、その後2000年代に入ると、ポーションタイプのクリームチーズで競合商品が次々と発売されました。そこで、どう差別化していくかを考えた時、「フランス生まれの品質の良いチーズ」という点にフォーカスし、より大人の消費者をターゲットにすることにしました。毎日を忙しく生活する中で「息抜きとして、チーズのある時間を楽しみたい」「せっかくなら良いものを食べたい」というニーズが高くなっていると判断したからです。

そこで、2006年、日本上陸当初から大切にしていた「子ども向け」というブランドイメージを思い切って手放し、「大人が楽しめるチーズ」に方針転換することにしました。

「キリっていいね!」と、共感の輪を広げてゆく

——ブランドイメージを変えるために、当時は何が行われたのですか?

 まずは、目に見えるところから変更されました。その一つがパッケージです。キリが発売されてから20年以上パッケージに描かれていた少年のピエールくん。ピエールくんはいわば、キリが子ども向けであることを伝えるマスコットキャラクターでしたが、ブランドイメージの転換と共にパッケージから姿を消しました。また、よりフランスらしさや上質感が高まるように、トリコロールリボンを加えたり、キリの丘に奥行きを出したりなどの工夫をしました。これが今のキリの世界観のベースとなったのです。

kiri左:日本上陸当初のパッケージ。右下にいるのが、ピエールくん 右:現状販売されている商品のパッケージ

また、昨年(2016年)から力を入れているのが、キリの世界観の共有です。

スーパーマーケットの店頭に行けば、多くのチーズが並んでいます。ともすれば、安さやお得感で選ばれることもあるでしょう。けれど、キリは価格を抑えて勝負する商品ではありません。だから、わたしたちはお店に足を運ぶ前段階で、「いかにブランドとして、感情移入してもらえるか」に力を注いでいます。もっと言うと「キリはわたし向けのブランド」と思ってもらうこと。すると、「好きだから、キリを食べよう」と、自発的にキリを手に取っていただけるんです。

——具体的に、どのような取り組みをしていますか?

今は、20〜40代の女性向けに「自分へのちょっとしたごほうび」としてキリを楽しんでもらう提案をしています。ちょっとした、というのがポイントで「すごく贅沢はできないけれど、せっかくならより良いものを選びたい、食べたい」という気持ちに、キリが寄り添えればと。

例えば、2016年と2017年には4月〜5月にかけて東京・外苑前に期間限定カフェ「kiri® café」を開きました。キリを使ったスイーツやお料理をカフェで味わうことができ、お洒落な世界観を楽しんでいただけたと思います。ナチュラルで本質的なイメージを持つモデル・KIKIさんをCMキャラクターとして起用したのも、取り組みの一つです。理屈ではなく「キリって、なんだかいいよね」と共感の輪が広がっていくよう意識しています。

keyvisual_fin_600x300_ol

特徴がない。それが逆に強みに。

——最近は、コラボスイーツも人気ですね。

 日本に来て約30年、キリは多くの皆さまに愛されてきました。ただ、一方で消費者の高齢化や食シーンの固定化といった課題もあり、近年はさまざまな世代に、キリのバリエーションを知ってもらうよう働きかけています。

元々、キリのチーズはくせがなくて、色々なかたちに変われるのが強みです。だから甘いものとしても食べられるし、パスタなどの料理に混ぜてもおいしい。そこで「チーズ」という枠にこだわらずに、もう少し可能性を広げてみようと始めたのが、コラボスイーツです。

421a2854

2009年にナチュラルローソンとレアチーズケーキの開発をしたことがきっかけで、現在、右肩上がりで売上が伸びています。昨年から、井村屋株式会社、株式会社プレシアとコラボレーションを行い、コンセプト作りから積極的に携わっています。「クリームチーズアイス」「レアチーズタルト」など、ポーションタイプのキリにとどまらない、おいしさの可能性を探求しています。コラボスイーツをきっかけに販路が拡大し、今までよりキリを知っていただく機会が増えましたね。

また、コラボレーションなど形を変えた展開も大切ですが、キリ自体を食べる機会を増やしたいと思っています。そこで最近おすすめしているのが「間食にキリを食べる」こと。一般的に女性は間食に罪悪感を持っている人も多いですよね。でも、キリはチーズなので、たんぱく質が豊富で、糖質が気になる人にも嬉しい間食アイテムなのです。

421a2829

でも、おやつとしてはチーズをそのまま食べるだけではちょっとつまらない。そこで特に試していただきたいのが、キリを一手間アレンジして食べること。例えばキリに「きなこ」と液体シロップをかけて食べると、信玄餅のような味わいになるんです。あとは、キリに韓国のりを巻いて食べるのもおいしいですね。お腹が空いて夕飯まで待てない…なんて時でもあっという間に作れます。

チーズの枠にとどまらないおいしさを、これからも。

——話をお伺いしていると、ブランドイメージの方針転換やコラボレーションなど変化をおそれず未来を切り開いているように思いますが、日本上陸当初から大事にしていることはありますか?

品質ですね。フランスで厳選されたミルクと生クリームを使い、できるかぎり添加物を使わずにクリームチーズ本来のおいしさを楽しんでもらうことにこだわっています。昨年50周年を迎えた際はレシピをリニューアルし、より「おいしく、健康的に」食べていただけるよう、カルシウム量を増やしました。その際も、昔から愛されているキリの味を変えないこと、を目標に何度も試行錯誤を重ねました。

また、「キリらしさって何だろう?」ということは常に考え続けています。例えばキリがお菓子になった時に、「(チーズではない)キリらしい味」をどのように表現できるのか、ということを何度も考えます。また、パッケージデザインの開発にあたっても、どの部分に「キリらしさ」を表現するのか、いつも悩みます。

消費者の皆さんがそれぞれ持っているキリのイメージ。味だったり、パッケージだったり、ナチュラルな雰囲気だったり、を守りながら、新商品開発やコラボレーションを行う時に、どこにキリらしさを表現するのか。ブランドイメージを突き詰めるよう、心がけています。

421a2810

——ロングセラーブランドとして、見据える未来を教えてください。

いろいろなところにキリがいる、という身近な存在になってほしいですね。今はスーパーに行けばキリがあると思いますが、スーパーに行かなくてもキリを楽しめる、世界観を感じられる、そういう世界を作れると良いのかなと思っています。

キリの強みは、シーンやニーズによって変化できることです。「チーズ」という枠組みをひょいっと飛び越えて、「kiri® café」というお洒落でプレミアムなイメージを共有できる取り組み、そしてコラボスイーツや自社商品の開発など、キリを起点として広がるおいしさの提案をしていきたいです。

 

伝統を大切にしながらも、ひとところにとどまることなく、ブランドの枠をゆるやかに確かに、広げていくキリ。今回の取材を終えて、チーズの「当たり前」を見つめ直し、あたらしい道を作っていくその先には、きっと消費者のわたしたちにとっても、おいしくたのしい未来が待っているのだと感じました。

Recommend

Related