心の声を言葉にして、自分が行きたい道を拓く。ブランディングディレクター 福田春美×「北欧、暮らしの道具店」代表 青木耕平 対談【後編】

書き手 編集スタッフ 小野

写真 武藤奈緒美

心の声を言葉にして、自分が行きたい道を拓く。ブランディングディレクター 福田春美×「北欧、暮らしの道具店」代表 青木耕平 対談【後編】

ブランディングディレクターの福田春美さんをお迎えした対談の後編です。

前編では、ブランディングディレクターってどんな仕事?という素朴な疑問に具体的に答えていただき、中編では、美意識を体現するときに必要なマネジメント力や、すてきに商売を成り立たせる新しいモノサシについて話が弾みました。

最終話は、福田さんの仕事ってもはやディレクターとも呼べないのでは?という青木のツッコミからスタートしました。

プロデューサーの憂鬱

青木
もしかすると、福田さんってもうディレクターじゃなくて、プロデューサーなんじゃないかという気がしてきました。

たとえばクライアント企業の判断のほうが絶対正しいから、そこは踏まえた上で自分の仕事を全うしようとする頭の使い方って、プロデューサーの頭の使い方ですよね。

福田
え!とうとう、そうなってきちゃいましたかね…

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青木
だから、福田DからPに…

福田
Pは嫌なんですよ、本当は。プロデューサーって嫌なことしか引き受けない人ですから。

青木
僕なんて、みんなが嫌だと思うことを引き受けているから重宝されるだけの人なんで(笑)。

福田
ディレクターはプレーヤーでいられるから、楽しいんですよ。だから、ファッションからブランディングに変わったけれど、ディレクターってところには結構こだわってきたんです。

青木
うーん、だけど自分しかもうプロデューサーに回る人がいないんだったら、いずれまた名前を考えなくちゃいけなくなると思います。

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福田さんのなかで、「世界観の実現」と「仕事の気持ちよさ」を天秤ににかけたときに、実現のほうに重きが置かれると自然とプロデューサー的な動きにならざるをえない。気が付いたら、「Dって言ってるのにPじゃん」って話が起きてきちゃいますよ。

「新しいこと」は、手放すことで入ってくる

福田
実はいま、勘がするどい時期なようで、仕事に対する考え方もいろいろと変化しているんですよね。たとえば、最近、もう実店舗じゃないなと思っちゃったんですよ。

青木
結構本質的な話になりますね。

福田
あくまで、自分のなかでですよ? 世の中的にはお店が必要なんですけど、自分にとってやりつくした感があるし、もう流れが速すぎて、実際に店をやったとして、投資してくださった人たちに返しきれないだろうな、という想いがあるんです。

すごく経費を掛けてオープンさせて維持して、それで売れないって言われても「そりゃこんだけお店あるし、売れないわ」って思うことがあるんです。

『to the north』をやりたいと思ったのはウェブだったからで、『a day』はプロダクトをつくるってことだったし、『クリンスイ』も物をつくるプロジェクトだった。私の判断力では、今の流れが速すぎて、お店を開店させて維持していくとすると、1年後はかろうじて読めても、3年後は読み切る自信がないんです。

青木
1年で回収できる店なんてそうないでしょう。3年から5年はみないと、厳しいと思います。

福田
厳しいし、結局は自転車操業みたいになっちゃうんです。どんなにかっこいいことやっても、2年は消費者とリンクできるけど3年目からずれてくるのが分かってる。

だから、自分が今読み切れてないんだったら、仕事として受けないって決めたんです。ちゃんと手放すことも大事だな、と。

ここ数年、手放すことを意識してきたんです。それまでは、手放したくなかったの。スタッフも全員、自分でなんとかしようとしていました。でも本当に一人の力なんて限りがある。震災を見て「温かいスープを届けるしかできない」と思ってしまった。

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すごく勇気をもって手放して、その頃に人に期待もしないようにしました。50パーセント期待して50パーセント期待しないと思っていると、準備ができているから、人を責めることもないんです。

青木
変化が1人の人間の認識でとらえるにはあまりに激しすぎて、捉えようとするほうが失敗する、と。

福田
そうなんです。だから「変化をとらえてる」って思っている方が傲慢かもしれないと感じちゃった。

夢を叶えるために、グレーな気持ちを言葉にする

青木
世の中の変化は激しいけれど、自分の仕事の軸とか世の中の見方で、不変の部分もありますか?

福田
人が欲して、人が喜ぶものが大事ってことは、私のなかで変わりません。どんなに不景気だろうが、値段にかかわらず、人が本当に欲しているものが絶対あるんです。「本当に欲しいもの」を読み取って用意したいんです。

その根っこは変わらないんだけど、ここ最近の仕事では空間演出の仕事が増えてきたんですよ。インテリアスタイリングだったり、結婚式場のビジュアルブックの撮影のために、スタッフの方たちと空間をつくり上げたり。

結婚式場の撮影は私が現場を仕切らせてもらったんだけど、久々に狂えたんです。舞台美術だとか空間演出とかインテリアとか楽しいなってつくづく思ってしまいました。

青木
なるほど。「狂う」までいくんですね。

福田
やりつくして、スカッとして帰ってきて深く眠れたし、前の日はすごく疲れてたけれど早く行きたくてうずうずしていたの。早く設営がしたい!設営大好き!って(笑)。

結婚式場のビジュアルブックを撮影していた若木信吾さんに、「48歳にもなって、新しい分野の仕事がしたいっておこがましいんだけど、空間の仕事がすごく楽しかったから今後もやっていきたい」と打ち明けました。

そのときに、自分が力を入れていたブランドが終わることが分かったこと、すごく落ち込むかと思ったら案外けろっとしていたこと、もう次のところに行かなきゃいけないと感じていることなども、まとまらないなりに話したんです。

すると、次に若木さんに会ったときに「ちょっと頼みたいことあるんだけど」ってCMのキャスティングや出演者の家の空間演出の仕事を持ちかけてくれたんです。

前は次のステップにいくのに、時間がかかっていたんです。「狂える」なんて表現できなかったし、ブランドが終わってけろっとしていたとか、そんな自分に引いたとか言えなかったから。でも最近、言えるようになっちゃったから、早くなってきた。

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「そのまんまの気持ちをぶつける」のが、どんなことにおいても大事だと思うようになったんです。白黒はっきりしていなくていい。そのまんまのグレー部分を言葉にできるかどうかが、次のドアを開いてくれる鍵な気がしています。

新しいことに関しては分からないことだらけだし、自信もないし、もやもやするのが当たり前。グレーで、そわそわしたり、ざわざわしてる日があったら、時間がかかってもいいからその原因を言葉にしていこうと思うようになりました。

青木
ちゃんともやもやを話して手放すと、入ってくるのも早い。よく、息を深く吸うときに、吐くほうを意識しろとも言いますよね。

今の断捨離ブームも、新鮮なものを入れたいときに、外に得に行こうとするより、まずは持っているものを手放すっていう考え方なのかもしれません。

福田
そうですね。「出入り口」って言葉もそうですよね。先に出してからじゃないと、入ってこないんですよね。

儲けなくていい?新しいお店のかたち

青木
さっきストアの話があったじゃないですか。ストアって、ストア自体で収益を上げようとするから難しくなるのかな、と思っているんです。たぶん、ストアで儲けなくてもすむ展開の仕方を考えるのが、次の活用方法かもしれません。

将来、空きテナントが増えて今より安く借りられるようになってきたら、広告費の代わりに店を出す人が増えると思うんですよ。そうすると、全然違うことができるかもしれないんです。

福田
確かに!違う展開になるかも。おもしろいなぁ。

青木
今のお話を聞いていたら、福田さんは別にストアが嫌なんじゃないんですよね。

福田
そうです、好きなんです。

青木
好きだし、リアルな世界を立ち上げたいんだったら、儲かる儲からないっていう部分さえ解決できれば、おもしろいはずです。

僕の定義では美しさって、「より難しいもの」なんですよね。だとしたら、あれってどう成り立ってんの?って言われたいわけです。要するに「商品も売れてるふうに見えないけど、あれで成り立つの?」って言われるものをつくるための構造を考えるとおもしろんです。

僕がよく妄想するのは、『北欧、暮らしの道具店』のお客さんしか行けない会員制のカフェ。どこに入っても混雑しているような場所に、採算度外視でつくれたらすごくいいですよね。入り口でログインしたら、ぱっと扉が開いて…

福田
それ、すごくいいじゃないですか!外は混んでいるのに、会員だったら素敵なカフェに入れて、ゆったりとした素敵な空間で、素敵なカップでコーヒーを飲める。

青木
カフェの店員も幸せにやれると思うんですよ。混まないし、儲けなくていい。そのかわり、本当にお客さんを喜ばせてね、と。

「お店」というものを「再発明」する上で、サービスする人から収益に対する責任を負わなくて済む仕組みが作れたら面白いんじゃないかと思うんです。洋服屋さんもそうじゃないですか。個人ノルマとかランキングをやめて、お客さん喜ばせることだけに集中できたら、もっといいサービスが生み出せる気がしています。

ディズニーランドでも、アトラクションのキャストの人が何人お客さんを案内したかのノルマとか持ってたら、なんか嫌じゃないですか。お客さんもキャストの人も。ただただお客さんが喜ぶことをできる範囲で最大限やろうよ!っていうことだけで、ちゃんと成り立つ仕組みや構造をつくってみたいんです。

1回1回が勝負。自分にしかできない仕事で「次」を呼び込む

青木
福田さんは、抱えてた時代から捨てる時代を経て、いま軽やかな状態になっていますよね。今後10年、20年を考えるとどうなっていくと思いますか?

僕は、手放したい気持ちと抱えたい気持ち、両方を持っているんですよね。両方の喜びがあると思うんです。福田さんのなかでは、この先もしかしたらもう一回抱える可能性って念頭にあるのか、それともその可能性はないと思っているのか、どっちですか?

福田
抱えないと思います。抱える恐怖感のほうが今はまだ強いし、抱える必要がない気もしています。

もし次になにか組織をつくるとして、そのかたちも会社じゃなくていいと思う。全員がプロで、自分のポジションが分かる人たちの集団です。

「このメンバーだったらここだな」ってすぐに感じて、「ここを守って、あそこを攻めればいいんだな」って分かる人たちが自分の周りに何人かいます。プロジェクトが来たら、その人たちを召集すればいいと思っているんです。

各自に必要なギャラを払って終わりで、責任は最小限。ただ、「次もお願いします」って言わせるぐらいの喜ばせ方を常にしなくちゃいけませんけどね。

青木
それは厳しい道ですよね。一回一回が勝負。

福田
一日も手は抜けません。でも、そのほうが私に合ってるんだと思います。本当にここ2カ月くらい、自分の役割を割り切って考えられるようになってきました。

今やってる仕事に対して、また相手からオーダーをもらうために、「この現場が本当によかった」と言われなくちゃいけません。

広告の仕事だとしたら、私が関わったことで売り上げに貢献しなくてはいけません。そのためには、撮影のプロたちがいたとしても、「こういう撮り方だとマーケット的には喜ぶんじゃないですか」と私の視点も言うのが大事。

市場を分かりつつ、スタイリングできることは、私にしかできないことかもしれません。それがなんていう職業なのか分からないんですけどね。

青木
これは、また名前を考えることになりますね。

福田
やっぱり、そうなんですよね…。薄々感じていましたが、青木さんに言われて、とうとう本当に考えなくちゃならなくなった気がします(笑)。

_o7o7459福田さんのアイデアが詰まったノートたち。青木との対談の間も、メモを取る手が止まりませんでした。

【前編】仕事は、誰かの夢を一緒に描くこと。ブランディングディレクター 福田春美×「北欧、暮らしの道具店」代表 青木耕平 対談
【中編】美しいビジネスを支える、狂えるほどの情熱と冷静な分析力。仕事ブランディングディレクター 福田春美×「北欧、暮らしの道具店」代表 青木耕平 対談

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