街場の味噌屋はサービス業?手づくりを支えるビジネス戦略。五味醤油6代目 五味仁×「北欧、暮らしの道具店」代表 青木耕平【中編】

書き手 編集スタッフ 小野

写真 土屋誠

街場の味噌屋はサービス業?手づくりを支えるビジネス戦略。五味醤油6代目 五味仁×「北欧、暮らしの道具店」代表 青木耕平【中編】

五味醤油6代目 五味仁さんをお迎えした対談中編です。

前編では、家業を継ぐまでのお話や、理想と現実の間で探ってきた、味噌づくりのあり方についてうかがいました。中編では、味噌屋が味噌づくりを教える理由についてうかがいます。

味噌より材料が売れる?意外な売り上げ構成比率

青木
五味さんは、味噌をつくるだけじゃなくて、いろいろな活動をしていますよね。

五味
味噌づくりワークショップをずっと続けています。でも、これは自分がはじめたわけじゃなくて、母が近所の小学校に、総合学習として教えてに行っていたんです。

2007年に実家に戻り、仕込みの手伝いをしていましたが、その頃は僕にわりと時間があったので、味噌づくり教室を任せられることになったんです。

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やってみると意外と感触が良くて、はじめは母親に言われた通りにやっていましたが、「ママさんグループにも味噌づくり教えてよ」みたいな声に応えていたら、どんどん味噌づくりワークショップの数が増えていったんです。そこで、これはチャンスかもしれない、と。

青木
お、何かに気がついちゃった(笑)。

五味
味噌をつくってみたい人がたくさんいるんじゃないかと、お客さんの反応で気づいたんです。

そして、一般の人向けの味噌づくりワークショップを3年くらい続けた頃に、発酵デザイナーのヒラクくんに出会ったんです。

2人で銭湯に浸かりながら、子供向けに楽しく伝えられる方法はないかと話していて、『手前みそのうた』という歌とアニメを一緒につくってしまいました。これを見ると、味噌の仕込み方が簡単に分かるんですよ。

ここからさらに、子供向けのワークショップの依頼も来るようになっていきました。

青木
五味さんの家は、お味噌のメーカーですよね。商品である味噌を家でつくられたら、短期的にみたら売り上げが下がってしまうのでは?という発想もあります。

だけど、お母さんはずっと味噌づくりを教えてきたし、五味さんが受け継いでやり続けている。五味醤油さんの事業と味噌づくりワークショップの相関関係は、どんな風に捉えていますか?

五味
そもそも、五味醤油なのに醤油をつくってないことに、突っ込みが入るんですけどね(笑)。

僕が入ってきた時点で、味噌の販売と、味噌の材料のこうじや大豆の販売が、実は半々くらい。僕も帰ってきて初めて知ってびっくりしたんですよ。「味噌屋でもねーじゃん」と(笑)。

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青木
味噌も売っているけれど、麹と大豆屋でもあった、みたいな(笑)。原料はどこに対して売っているんですか?

五味
これも、実家に帰ってきて初めて知ったことなんですが、うちには手でやっと抱えられるくらいの大きい釜が20くらいあって、地域や親戚で集まって、味噌をつくっている人に貸していたんです。

統計だと、山梨県は他の県に比べて、手前味噌率がどうも高いらしいです。

青木
それは、五味さんが精力的に味噌づくりを広める前から?

五味
はい。全国的に見ても、味噌メーカーができたのが、ここ150年くらいの話なんですよ。ずっと「手前味噌」が当たり前で、他の調味料に比べても、自分でつくる文化がずっと残っています。

実は、味噌の材料の販売に力を入れだしたのは、僕の父。その土台があったから、僕が味噌づくりワークショップに力を入れることができたんです。

青木
五味さんが新しいことをやっているように見えるけれど、お父さん、お母さん、それぞれがまいた種を育てているんですね。

五味
そうなんです。僕や妹の洋子がはじめたのが、味噌づくりキットの販売と、大量につくる人向けじゃない、ママさんグループが10人集まる会などへの出張ワークショップです。

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だけど、あまりに出張のみそづくりワークショップが人気で大変になってしまって、五味醤油に場をつくろうとできたのが、今いるワークショップスペースの「KANENTE」です。

富士山のかたちの建物と、輸送コストの因果関係

青木
五味さんの話を聞いていると、味噌メーカーというよりは、もともと、サービス業的な要素が事業の中にあったんですね。それって予想外でおもしろいです。

五味
そうなんです。自分でいうのもなんですが、うちのサービスすごいですよ(笑)。トラックに釜や豆挽き器や材料を乗せて、お客さんに届ける。お客さんから「味噌を仕込み終わったよ」って電話がきたら、機材一式を取りに行く。

2往復するだけの人出ってなかなかのもので、もっとKANENTEに来てもらう教室を増やすのか、ある程度たくさんの材料のお届けじゃないとできない、とするか悩ましいです。

でも、最近気づいことがあるんです。お客さんに弱みを見せるって大事だな、と。「配達が大変なんです」と正直に言っていると、結構軽トラで取りに来たりしてくれるんです。

青木
みんな薄々は「ちょっと悪いかなぁ」って思ってるんですよね。でも、来てくれるし、いいのかなって気持ち、分かるなぁ。

五味
そうですよね(笑)。だから、新規のときはちゃんと状況を伝えたり、お得意様でも仕込む量が減ってきたら、ちょっと言いづらくても大変なことをちゃんと言わないといけないなと思います。

じゃないと、うちの事業が立ち行かなくなっちゃいますからね。

青木
この場所(KANENTE)も、ちゃんと事業を成り立たせるための役目があるんですね。お客さんに来てもらうことによって、コストダウンがはかれる可能性があるから投資価値がある。

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五味
青木さんのようにはちゃんと計算してなかったのが、僕の悪い癖なんですけど(笑)。

味噌を仕込む量が減った常連のグループの人が、ここに来て仕込んでいるのは確かです。

あと、もうひとつ気づいたことがあって、出張して味噌づくりを教えているから、僕らとは何度も会ったことがあるのに、五味醤油の店に来たことがない人がすごくたくさんいました。

専門店ってすごく入りづらいので、たとえ買い物しないとしても「一度お店に入ってもらう」というのが大きな価値なんです。

青木
そのためにもこのワークショップスペースが、おもしろい形の建物で、すてきな雰囲気で運営していることにものすごい意味がありますよね。

つまり、来たいと思う場所になっていなかったら、「来てください」ってお願いしなきゃいけないけれど、「行っていいですか」って言われる場所になっていますから。

これまでは、軽トラで2往復してお客さんに荷物を運んでいたのが、「行っていいですか」、「ここ借りていいですか」と言ってもらえるようになるって、大きな転換ですよね。

ビジネス原理を覆す?「手づくり味噌キット」でつくりたい欲を刺激

青木
そもそも、五味さんのところのように、材料を売ったり、手づくりを支援することで事業が成り立ってるような味噌屋ってほかにもあるんですか?

五味
うちのパターンは、めずらしいと思います。最近の手づくりブームにのって材料を売り出しているところもありますが、「味噌を売る」という事業とは全く別の新しい事業を立ち上げるようなものですから、難しい面があります。

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うちはもともと、売り上げの半分が材料でしたから。

青木
そこを知らないで真似すると、自分で自分の首をしめちゃうんですね。

五味さんたちが味噌づくりを教えて、材料を売っている様子を見て、「なんだか人気だからやってみよう」と、着地点が見えていないのに安易に手を出すと、結構痛い目に合う感じがします。

五味
あと、お客さんによってかなりカスタマイズするから、細かいサービスができないとミスが出てきちゃうんです。

僕たちは、もともとちょっと大きい規模で味噌教室をやっていたので、工場で仕込むのとは違う方法論を持っていた。それを、個人個人に合わせてさらに細かく、僕らしかできないサービスをつくっていったのは、すごく独自なものなのかもしれないです。

青木
味噌と材料の売り上げが半々ぐらいとおっしゃっていましたが、今後はどうしていきたいですか?

五味
もっとこうじの売り上げが伸びると思っていて、意識的に味噌は減らそうとしています。

青木
なるほど、そうなんですね。実はうちも五味醤油のこうじでつくった甘酒を、毎朝飲んでるんですよ。すごくおいしいです。

五味
ありがとうございます。僕の家族も毎朝みんな飲んでますし、工場のおじさんたちも飲んでいますよ。

青木
麹に代表されるように、原料だったものを売り、使い方を教えたり、仕込む人を支援することが、五味さんの中ではビジネスの比重が高いことなのかな。

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五味
そうですね。結構、「甘酒を売って」というお客さんがいるんですけど、うちはこうじを買ってもらって、「手づくりで飲む甘酒が1番おいしいです」と伝えています。

甘酒が飲めるお店がつくれたら、さらに説得力があると思うんですけどね。

青木
単純にビジネスの原理から考えると、加工度が高くなればなるほど、付加価値が高まり、結果的にマージンが大きくなります。要するに、米を米として売るか、料理屋さんをやるかの間で、マージンって変わりますよね。

その原理に照らすと、味噌という完成品を売るビジネスから、その材料を販売する方に軸足を移していくと収益性が悪化するリスクもあったかと思うのですが、それについてはどんな風に考えているんですか?

五味
加工品である味噌を売るより、材料を売ろうと考えたときに気をつけたのが、安く売らないこと。味噌づくりキットのパッケージも、すごく気合いを入れています。

ちゃんとしたレシピをつけるとか、こうじを入れる袋もいい袋を使うとか、見せ方もこだわって値段を高めにしたことで、ちゃんと売り上げにつなげられています。

それに、キットが届いたときにすてきなパッケージだと、みんながんばってつくりたくなるみたいなんです。それがなにより嬉しいですね。

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後編では、五味さんの身の丈にあったビジネスを展開する嗅覚、そして今後の夢についてうかがいます。「五味醤油」と「北欧、暮らしの道具店」の意外な共通点も明らかに!?

【前編】「お手伝い」から「生業」へ、厳しさも抱えて家業を継ぐ。五味醤油6代目 五味仁×「北欧、暮らしの道具店」代表 青木耕平
【後編】人が集う場所づくりで、「いいこと」を醸していく。五味醤油6代目 五味仁×「北欧、暮らしの道具店」代表 青木耕平

 

 
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