コンプレックスが生んだ不細工な生存戦略。発酵デザイナー 小倉ヒラク×「北欧、暮らしの道具店」代表 青木耕平 対談【中編】

書き手 編集スタッフ 小野

写真 土屋誠

コンプレックスが生んだ不細工な生存戦略。発酵デザイナー 小倉ヒラク×「北欧、暮らしの道具店」代表 青木耕平 対談【中編】

発酵デザイナー 小倉ヒラクさんをお迎えした対談中編です。

発酵や微生物への愛に気づいてしまってからの葛藤や、発酵デザイナーとして歩み出すまでのお話をしてくださった前編に続き、既存でないアプローチによってビジネスが成立した背景についてお話をうかがいました。

「発酵デザイナーの仕事」の解釈はさまざま。望みに応えて幅が広がる

青木
発酵デザイナーという肩書き自体が良い問いとして機能している感じがするんだよね。答えを探すこと自体が、事業領域、事業ドメインなのかもしれない。

小倉
そうですね。発酵デザイナーを名乗るようになった当初は、「アートディレクションやデザインを、発酵の領域だけでやる」というつもりで動いていました。だけど、だんだんクライアントや周りの人が、僕の仕事を勝手に規定しはじめるんですね。

企業から「発酵がテーマの商品開発」、自治体から「発酵文化でまちおこし」、研究機関や大学から「プログラムのコーディネーター」、微生物の学会から「日本の発酵文化の面白さを海外の人に伝えて」などの依頼が来るようになりました。

青木
発酵領域の事柄で、誰に頼んでいいか分からない仕事を、頼みやすかったのかな。

 

小倉
それもあるし、「発酵デザイナー」という肩書きからたぶん思いついちゃうんでしょうね。たとえば、イベントの出演依頼があったとして、先方は「発酵文化を掘り起こしてみんなに分かるように伝える」と僕の仕事を規定してプログラムを組んでいる。

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「単純なグラフィックデザインじゃなくて、コミュニケーション全体のことを小倉さんは言っているんですよね」と言われて、ハッとするんです。そんなこと考えたこともないから、「いやぁ、勉強になりました」と言いたいところをぐっとこらえて(笑)。

拡張された概念に応えようと僕も研究するから、実績が積み上がっていきました。僕が発酵デザイナーでいくぞと思った時に偉かったのは、「何だかよくわからないからうまくいきそうだ」と信じられたことです。

青木
それは、偉かった。周りが首をかしげまくってるわけじゃん。僕なんてその代表だったと思う。でも、その状況でも自分自身はいけるって思えていたのが、実は一番の勝ち筋だったんじゃないかな。

小倉
そうですね。勝ちパターンの感触はあった。その一番の根拠は、ちゃんと背景を調べて、自分が関わろうとしている微生物のポテンシャルに気づけたことでした。

正統派じゃないからこそ、独自のアプローチで生き残る

青木
ヒラク君が体験したことは、僕らが北欧の領域でやろうと決めたときの流れに似ていると思う。

要するに、需要を喚起する構造と、供給の基盤との両方が揃ってるから、一時的なブームでは終わらない公算があった。だから、北欧にオールインしようという発想でやったんだよね。

小倉
すごい! だいたい一緒ですね。

当たり前なんだけど、価値が勝手に生まれることはほとんどなくて、どこかのタイミングでプレイヤーたちががんばって価値をつくっていく。だから、大きな価値の可能性があるのに、未だ価値づけされてないものを見つけたときが、きっと最大の勝ちチャンスなんです。

それが青木さん兄妹の場合は北欧っていう領域で、僕の場合は、発酵や微生物だった。

青木
自分が決めた領域に、ヒラク君は発酵デザイナーっていう謎のアプローチを仕掛けていったわけだよね。

僕らも、北欧関連のお店なのに、和物雑貨屋みたいなテイスト感で北欧のものを紹介するやり方を考えた。店名だってスウェーデン語やフィンランド語みたいな名前をつけて、「っぽさ」を出していくのが普通なんだけど、そうはしなかった。

領域の見つけ方だけじゃなくて、「変な」というか、今までにないアプローチをしたのも似ている気がする。

小倉
そのアプローチって必然だと思うんです。だって、僕たちどう考えても野良じゃないですか。僕は微生物学勉強してないし…

青木
僕もはじめてスウェーデンに行ったときに、一緒に買い付けに行った妹から「アラビアの商品を探して」て言われて、「なんで中東の商品を探さなきゃいけないの」って返すほどの状態だったのに、その翌月くらいに「北欧、暮らしの道具店」始めているから。

小倉
それは、すごい(笑)。

青木
野良どころじゃないでしょ(笑)。

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偶然にも青木の前にあるのがアラビアのカップ&ソーサー。北欧を代表する食器メーカーです。

小倉
正統性を持たない者としては、アプローチの方法を考えないと参入できない。既得権益の網目をくぐり抜けるような考え方をしないと業界に参入できないし、そもそも、業界すら存在しないことをやるためには、どんな方法を使っても変にしか見えない。

変にやらない方法があったら、僕が知りたいぐらい。

青木
そうだよね。僕ら、選べてないよね。だから、自分のやっていることがいけてるとも思ってない。

小倉
成功するかどうかじゃなくて、生き延びる方法を考えるしかないから、不細工にならざるをえないですよね。

青木
正統的でわかりやすい立ち位置で入っていくには、ツッコミどころがありすぎる。ヒラク君なら「お前大学で勉強してないじゃん」とか、「研究所で研究してないじゃん」とか。

僕はメディアをやってると言ったら、「メディアたるものかくあるべし」みたいなことを言われちゃう。だから、お店という帽子をかぶりながらメディアをやってることの楽しさがある。なにか言われたら、「いやいや、うちはお店なんで」と。

小倉
そこでかわす(笑)。

青木
逆に、「うちはほら、メディアみたいなもんだから」って言ってたら、お店の人たちにも突っ込まれにくいでしょ(笑)。

小波に乗らず、不気味の谷を渡りきる

青木
でも、中途半端さについて、悩む時もある…よね?

小倉
あります! というか、常に悩んでる。

でも、時間をかけながら答えを出していこうと最近は思ってます。僕も以前は会社をやっていたし、事業をやりたい欲がすごくあるんです。だけど、せっかくいい領域のテーマを見つけたから、急がなくていいと自分に言い聞かせています。

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うまく言えないんですけど、僕はたぶん今、「不気味の谷」のステージにいるんです。『てまえみそのうた』を手弁当でつくっていたときのようなかわいげのある素人ではもはやなくて、DNAを抽出できちゃったりする。でも、専門家としては足りないところがたくさんあるのも分かっています。

不気味の谷ステージは、死なずに乗り切ることが最重要。ここを抜けられたら、事業化に向けたヒントが出てくると思うんです。この谷にいるときに焦って具体的な結果を出そうとすると、結構やばい気がする。じゃあ、どうやって谷を抜けるのかはまだ分からないんですけどね。

青木
不気味の谷って、アンドロイドの見た目がだんだん人間に近づいていくと不気味に感じるけど、人間と見分けがつかないほどになると嫌悪感を抱かなくなるっていう理論のことだよね。その考えになぞらえるのは、とてもおもしろいね。

小倉
デザイナーや編集者は、不気味の谷に入ったら次の領域に移って活動する、ビギナーズラックジプシーみたいなことも、しようと思えばできちゃうんです。

青木
要するに、小波に乗り続けるっていうやり方。

小倉
そうそう。だけど、僕は発酵や微生物にオールインしてるし、ある領域をめっちゃ深めた先にでかい地底湖を見つけるのが理想。そうすると、不気味の谷を歩き続ける時間も必要だと思うんです。

発酵デザイナーで食べていけるの?意外な懐事情を聞く

青木
具体的にはどういう仕事で発酵デザイナーは成り立っているんですか?

小倉
最近主になってるのは2つの軸で、ひとつはワークショップをやることです。最初は個人的な趣味でやっていたものが広がって、今は大学や企業とのコラボレーションの話も来るようになりました。すると、金額感も変化して、意外にビジネスになっていますよ。

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こうじづくりワークショップの参加者は2年間でのべ1000人を達成!

もうひとつは、微生物の技術開発に関わるコミュニケーションのデザインや、発酵による町おこしのプログラム開発みたいな仕事です。

技術開発に関わるものは、たとえばメーカーと基礎研究をするところから関わって、どうやったら普通の人にも伝わるかを一緒に考えます。

今やってるプロダクトだと、30年かけてようやく研究結果が出て特許を取った商材があります。やっと一般に売り出すところまできたけれど、「すごさがさっぱり伝わらない」と相談されました。免疫機能への作用がグラフに現れていても、普通の人に理解できないですよね。

広告的に分かりやすくするというよりは、概念を整理して、潜在的なニーズや食生活の問題との関係など、基本的なリサーチから一緒にやっていきます。それができたらデザイン化して、キャッチコピー、キャラクター、プログラムなどをどうやって権利として運用していくかということにまでに関わりますよ。

青木
なるほどねぇ。イメージしやすい職種だと、広告とかマーケティング領域のプランナーに近いのかな。課題とそれを解決する予算はあるのにアイデアはないってことはよく起こるから、ニーズがありそう。

小倉
そうですね。そのとき今のところ頼める人が僕しかいない。微生物に関する英語の論文を読むところから始めなくちゃいけないこともありますから。

ひとつの仕事の流れは、大枠でいうと3〜4ヶ月のスパンで動いている感じ。並行してワークショップをしたり、自分の本を書いたり。いわゆる発酵じゃないデザイナー的な仕事の割合は、全体の2割くらいです。発酵デザイナーになりたての頃は、6割くらいはいわゆる普通のデザイナー仕事でしたが、割合はどんどん減ってきました。

青木
会社の経営者やフリーランスの一般的なデザイナーだった頃と、研究者とデザイナーの間みたいな今の働き方と、ぶっちゃけどの時代が一番儲かってるの?

ヒラク
それは今が一番儲かってますね。だって、相見積はないし、言い値になりますから。しかも、微生物業界とかバイオ産業って、たくさんお金が動いているから、渋らないでお金を出してくれますからね。

青木
そっか。おもしろいねぇ。

小倉
実働時間は会社をやっていた時の半分以下になっているけれど、自分の収入でいうと2〜3倍にはなっています。

最近の仕事でいうと、「うちの発酵食品を食べに来てください」っていうのもあるんですよ。地方へ行って、地元の人たちと一緒になにかを食べて、コメントを残して去るんです。

青木
松尾芭蕉が、「ちょっとうちに来て俳句読んでください」って言われて、全国で句会をたくさんやったのと同じじゃない(笑)。不思議な仕事だよ。

小倉
いわゆる受託仕事ではもうないですね。たとえばメーカーの人と仕事していても、相手は「いつ提案してくれるんですか」、「この案を直してください」という要求ではなく、「部の者と話し合って、こんなアイデアが出たんですけど、どうやってまとめればいいですか?」という感じで常に相談ベースなんです。関係性自体が、受注発注の関係じゃなくなっています。

青木
うん、うん。でもさ、そういう曖昧な相談からはじまるパターンは、どの段階からからお金が発生させるかが難しくなるという問題があるよね。

小倉
デザインもゼネコンのプロジェクトと基本的には一緒だと考えて、工数で計算して、作業範囲を明文化した見積書と契約書をつくります。範囲外のことが発生したら追加分を請求したり、これ以上はできませんとちゃんと言ったり。そういう関係性は、最初の立て付けでつくれるんです。

あとは、なるべく仕事をしたくない風に見せる(笑)。こういっちゃなんですけど、「仕事やります!」ってガツガツしていると、無茶振りしても応えてくれると思われてしまいます。

仕事は、勢いで転がそうとするといい結果が出ない。だから、走り出す前にお互い冷静に距離感を見つめたうえで、行けそうだったら一緒にやっていくのがいいですよね。

そうやって良い距離感と両者にとって憂のない取引ルールを作って始めることが結果につながるし、双方ともハッピーになるんですよね。

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後編は、いつの間にか変化していたビジネスモデルについてのお話と、発酵デザイナーの夢についてお届けします。

【前編】ビジネスの動機は「愛」。 偏愛を貫いてオンリーワンになる 発酵デザイナー 小倉ヒラク×「北欧、暮らしの道具店」代表 青木耕平 対談

【後編】夢は新種のカビの発見!ピュアな動機で次のステージへ。発酵デザイナー 小倉ヒラク×「北欧、暮らしの道具店」代表 青木耕平 対談

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